連載 今一度立ち止まって中学受験を考える

塾の先生を味方につけられる賢い親になろう|今一度立ち止まって中学受験を考える

専門家・プロ
2021年3月18日 石渡真由美

中学受験の勉強を進める上で、塾は欠かせない存在です。しかし、その塾の先生とうまくコミュニケーションがとれていない親御さんは少なくありません。なぜ塾の先生とうまく関係を築けないのでしょうか。そこには塾の先生と親御さんの双方が抱える問題があります。

塾に入れば成績が伸びて当然?

「高い授業料を払っているのに、成績が上がらない」。塾に対してこうした不満を言う親御さんがいます。確かに、中学受験塾の授業料は安くはありません。しかし高い授業料を払っているのだから、塾が成績を上げるべきだと主張するのは、学習と学力向上の関係から言って少々無理があると言えます。これはハッキリと言えることですが、子どもの学力は家庭学習の時に伸びるのです。それをきちんと理解している人は実は少ないです。

認知科学的に学習には、少なくとも3つの構造があると考えられています。「(新しい情報の)インプット」「(獲得した情報の)再構成」「(獲得した情報の)アウトプット」の3段階です。実は塾や学校といった教育機関が担っているのは、この第一の段階である「インプット」なのです。

最近では「再構成」の段階こそが重要であるという研究が進み、その結果「アクティブラーニング」というかたちで、この再構成の部分を学習の主軸する動きが活発化しています。これは逆に言うと「インプットは各自で頑張ってね」とすることであり、学力格差を生みやすくなるという構造的問題も生じるのですが、その議論はひとまずここでは省きます。

重要なのは子ども達に「インプット」の部分を丸投げすることのリスクです。学べない子は本当に学ぶことができないので、現在における塾や学校の役割は「インプット」に偏ることになっているわけです。

「再構成」の時間がいかに重要かを説明するのに、私はよくスポーツの話を持ち出します。たとえばイチローにバットスイングのテクニックを学んできたとします。構え方、構えた時の姿勢、振り出す際の足の動かし方、体重の移動の仕方、膝の曲げ方、インパクトの瞬間の力の入れ方、そしてフォロースルーに至るまで、事細かに超一流のイチローに習ってきたとします。子どもは興奮して帰ってくるでしょうし、家族にイチローがどんなにわかりやすく指導してくれたかを話してくれるでしょう。

ではその段階でお子さんは一流のバッターになれるのでしょうか? ヒットを量産できる選手になれるでしょうか。そのあとの並外れた努力を経て、毎日毎日家でバットを振って、それでようやくヒットが量産できるようになるのではないですか。ただ「習っただけ」でどんどん上手くなるのだったら、世の中は野球選手であふれているはずなのです。

塾はあくまでも中学受験に必要な勉強を教えるところにすぎません。塾で習ってきた(インプットされてきた)情報を自分の知識として定着させるには、家庭学習が欠かせません。これは上記の「毎日毎日家でバットを振る」行為に当たります。そのために塾は宿題を出してくれるのです。塾によっては宿題をやったかどうかのチェックをしてくれるところもありますが、基本的に宿題のチェックは自分(家庭)でやるものです。イチロー選手はわざわざ家まで来て、「どうだ?素振りしてるか?よしちゃんとできてるかチェックしてやろう」なんて言ってくれませんよね? 自分でチェックするしかないのです。

そして実はこのチェックを指導者がやってくれないのにも、訳があります。時間が足りないとか、お金がもらえないとかそんな理由ではありません。この「再構成」は「自分で納得できないと、ほとんど効果がないことがわかっているから」なのです。宿題で出された問題を解き、丸付けをし、間違えた箇所を見直す。ここまでやってはじめて、学力が向上するのです。残念ながら教師は手出しができないのです。

「じゃあ結局親の責任でもないじゃない。子どもが自分でやらなきゃ意味ないんでしょ?」おっしゃる通りです。子どもが自ら進んで宿題をやり、自分で丸つけをして、間違えたところを問題集や参考書をひっくり返して理解して初めて、成績は上がっていきます。だからこそ中学受験は「精神年齢が高い子が有利」などと言われるのです。でも、せっかく中学受験を始めたのですから、何とかわが子に志望校に合格させてあげたいじゃないですか。自分でやらない子なら仕方ない。親御さんがやらせるしかないんです。

ところが最近は共働き家庭が増え、親御さんが忙しくお子さんの勉強を見てあげられないケースが増えています。なかには、「塾に入れておけば大丈夫」「塾に入ったのだから成績が伸びるのが普通」と思っている方もいるようです。しかし塾は、宿題の管理やテスト対策といった個々のフォローまではなかなかやってはくれません。基本的にそれをやるのは家庭であり、中学受験をすると決めたなら、親御さんは覚悟を持ってお子さんのサポートをしなければならないと、私は考えます。

宿題のチェックがいい加減だと、成績はなかなか伸びていきません。しかし、そのことを親御さんに指摘すると、自分や子どもが否定されたような気持ちになり、ショックを受けたり、不機嫌になったりする人がいます。特にお母さんは自分と子どもを同一視して過度に干渉してしまう傾向があります。これを「共依存」と言いますが、そうなってしまうと、わが子の実力を客観的に見ることができなくなってしまいます。

わが子と自分を切り離して、現実を把握し、その上でベストな方法を考える。家庭だけで進めていくのが難しければ、塾に相談をしてみる。それが中学受験における親の役目だということを知ってほしいと思います。

宿題チェック、カンニング。塾から耳が痛い話をされても冷静に

中学受験は小学生の子どもがチャレンジする受験ですから、どうしても大人の目が必要です。親御さんは「まさか!」と思うかもしれませんが、実は多くの子が一度はカンニングを経験します。特に多いのは宿題で答えを書き写してくるケースです。私は毎年、自塾の最初の保護者会でカンニングについてかなり時間を割いてお話しします。そのときは保護者の皆さんも「そうなんですねぇ」と素直に聞いてくれます。皆さん「うちの子がカンニングしていたら、絶対に教えてくださいね」なんておっしゃいます。

ところが、いざわが子が指摘されると冷静でいられなくなってしまい、なかには「証拠はあるのか」「うちの子がそんなことをするはずがない」などと怒りだしてしまう親御さんがいるのです。

長年講師をしていると子どものカンニングは大体わかります。たとえば式や図を書かずにいきなり答えを書いていたり、このレベルの問題はまだ理解できていないはずなのにスラスラと解けていたりしたら「あれ?」と思います。宿題などでも式や図が書かれていない場合は要注意です。カンニングと気づいた場合、私はまず生徒本人に直接注意を促します。それでも改善が見られないときは、親御さんにお伝えします。その際、前述のように感情的になったり、塾側を批判し出す親御さんがいるのです。

子どもがカンニングをする理由は複雑で、たとえば宿題の負担が大きかったり、親御さんからいつも成績のことでプレッシャーをかけられていたりと、いくつかの要因が隠れていることがあります。そういう状況を解決するために、そして親御さんに気づいてもらうために、先生は心を鬼にして子ども達や親御さんにカンニングの事実を伝えるのです。ですから、そのような指摘があったら素直に、そして前向きに受け止めて、ぜひ改善策を考えてみて欲しいのです。塾側も親御さんから相談があれば、一緒に考えていきたいと思っているはずですから。

先生だって生徒を貶めるようなことをわざわざ言いたくはありません。ましてや親御さんが話をシャットアウトしたり、反発したりすると、「面倒だなぁ」と先生もそれ以上関わろうとはしなくなります。そうした状況は、受験生親子にとって最も好ましくないものです。親御さんが、わが子を信頼し大切に思う気持ちはわかります。しかし、中学受験は「まさか」の事態が発生するものです。親御さんは先入観や見栄にとらわれることなく、クールに対処をして欲しいと思います。

中学受験は、第一志望校に進学できる子が全体の約3割とも言われる厳しい世界です。現時点で成績が伸び悩んでいるなら、どうすればよいか? それを考えるのも親御さんの役目です。中学受験は塾通いが始まると、成績でクラス分けがされたり、模試の順位が出たりして、親御さんはどうしても上を目指したくなりがちです。しかし、お子さんの状況を把握せずに無理に上を目指すと、やらされるだけの勉強で、勉強が嫌いになったり、なかなか成績が上がらずに自己肯定感が下がったり、カンニングをするようになったりして、必ず悪い影響が出ます。そうなってしまうと、中学受験はつらいものになってしまいます。中学受験がつらいものになったり、勉強嫌いになってしまうことはやはり避けたいのです。

塾の先生の知恵を引き出す

お子さんの成績を伸ばしていきたいのなら、私は塾を味方につけて、先生の知恵を引き出すことが大事だと考えています。したがって「成績を上げるのが当たり前」と塾に丸投げしたり、影で塾の先生の悪口を言ったりするのではなく、送り迎えで塾に顔を出して先生と挨拶を交わすなど、コミュニケーションをとることが大事だと感じます。なにも塾の先生に媚びろと言うわけではありません。しかし、塾の先生も人間ですから、自分のことを信頼してくれている親御さんのお子さんは、頑張って第一志望に合格させてあげよう、と強く思うものです。

なかには塾の先生に相談がしにくいという親御さんもいますが、わからないことは遠慮なく聞いていいと思います。ただ「うちの子、算数が苦手なんですけど」といったような漠然とした質問をしまうと、塾の先生も答え方に困ってしまうのが実態でしょう。

「うちの子、速さの出会い系の問題が苦手みたいなんですが……」などと具体的に質問した方が効果は高いので、親御さんも質問の仕方を工夫してみて欲しいと思います。そうした具体的な質問をするためには、お子さんの今の様子をよく観察することです。親御さんがお子さんをしっかり見て、詳しい情報を先生に渡してあげるほうが、対策を考えやすくなります。そうやって塾の先生の知恵をうまく引き出すのです。ぜひ塾を味方につけて、お子さんの受験勉強をサポートしていきましょう。


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※記事の内容は執筆時点のものです

宮本毅
宮本毅 専門家・プロ

1969年東京生まれ。武蔵中学・高等学校、一橋大学社会学部社会問題政策過程卒業。大学卒業後、テレビ番組制作会社を経て、首都圏の大手進学塾に転職。小学部および中学部で最上位クラスを担当し、多数のトップ中学・高校に卒業生を送り込む。2006年に独立し、東京・吉祥寺に中学受験専門の「アテナ進学ゼミ」を設立。科目間にある垣根は取り払うべきという信念のもと、たった一人で算数・国語・理科・社会の全科目を指導している。また「すべての子どもたちに自発学習を!」をテーマに、月一回の公開講座を開催し、過去3年間でのべ2000名近くを動員する。若い頃からの変わらぬ熱血指導で、生徒たちの「知的好奇心」を引き出す授業が持ち味。

■著書

『はじめての中学受験 これだけは知っておきたい12の常識』(ディスカヴァー・トゥエンティーワン)
『中学受験 同音異義語・対義語・類義語300』(中経出版)
『文章題最強解法メソッド まるいち算』(ディスカヴァー・トゥエンティーワン)
『中学受験 ゴロ合わせで覚える理科85』(KADOKAWA出版)
『中学受験 ゴロ合わせで覚える社会140』(KADOKAWA出版)
『ケアレスミスをなくせば中学受験の9割は成功する』(KADOKAWA出版)
『合格する子がやっている 忘れない暗記術』(かんき出版)

この記事の著者

フリーライター。子供の誕生をきっかけに、わが子の成長に合わせ、ベビー雑誌、育児・教育雑誌、塾専門誌で取材執筆。6年前に子供の中学受験を経験したものの、国立大学の附属中学で併設高校が無かったため、その3年後に“高校受験生の母”、またその3年後に“大学受験生の母”も体験。中・高・大の3つの受験を知る受験ライター。