連載 中学受験との向き合い方

中学受験生が反抗期を迎えたら ―― 中学受験との向き合い方

専門家・プロ
2021年4月13日 やまかわ

首都圏の一部では、4人に1人の小学生が挑戦するともいわれる中学受験。子供の受験に親はどう向き合えばよいのでしょうか。この連載では、『中学受験は挑戦したほうが100倍子供のためになる理由』の著者である、田中純先生に中学受験との向き合い方をテーマにさまざまな話を伺います。

今回のテーマは「反抗期」。小学校高学年を迎えたお子さんがなかなか言うことを聞いてくれず、頭を抱える親御さんもいるでしょう。受験期にコミュニケーションがとりにくくなると、親御さんにも焦り・不安が生まれがちです。反抗期を迎えた子供とどう接するのか、その心構えについて解説します。

反抗期は親離れの過渡期

反抗期は子供が親離れをする過渡期といえます。社会という大海に向け、自分でオールを漕ぎ出すために、親舟から離れて小舟に乗り移ろうとしている――。このときの2隻の船の状態が、反抗期の難しさに似ています。小舟が大海へ漕ぎ出すには、親舟に巻き込まれないよう、親舟を突き放さねばなりません。もちろんこのとき、親舟に衝撃が伝わります。小舟も突き放した衝撃と、波の揺れでバランスを崩すかもしれません。ヒヤヒヤした状況です。しかし、安全に漕ぎ出すためには、まず親舟を突き放す動作が必要なのです。

「聴」の精神で子供に寄り添う

親「来週は模試があるけど、ちゃんと勉強をしてる?」
子「うるさいな、やってるよ。毎回結果を出しているんだから、いちいち口出ししないでよ」

このように子供が「親の言いなりにはならない」姿勢を言葉で示してきたときは、反抗期を迎えているといってもいいかもしれません。親としては寂しかったり、心苦しかったりする部分があるかもしれませんが、まずは子供の成長を喜び、「聴」の精神でその気持ちを想像してみましょう。「聴」というのは、耳・目・十・心の入った漢字です。相手の言葉に耳を傾け、見守り、十(プラス)の関心を向けるのが「人の話を聴かせていただく」ということです。

反抗期を迎える子供を「聴」の精神で見守るということは、蝶に羽化する前のサナギを見守る人の気持ちと似ています。外から見て普段のように思えても、反抗期の子供は著しく心が変化していて不安定です。蝶を幼虫のころから育てたことがある人はわかるかもしれませんが、幼虫がサナギになったときは、何も食べないし、その場から固まって動こうとしません。そのため、人間にできることはただただ見守ることのみ。

羽化するまでの約10日間、「ちゃんと羽化するだろうか……」「今ほんのちょっとだけ動いた……!! 早く元気に羽ばたいていってほしいな」と、不安や期待が入り混じった気持ちでサナギを見つめた経験がある人も多いのではないでしょうか。なかには「どうだい、調子は?」「もう少しだから頑張ろうね」とサナギに向かって語り掛けていた人もいるかもしれません。ただし、思い余ってサナギを割いて中を覗いてしまうと大変なことになります。じっと待ち、愛情をもってじっくりと観察しているとサナギの中にある羽や触角がうっすらと見えてきて、日々の成長にも気づけるものです。

反抗期を迎えた子供に対しても、こうした目線を持つことはおすすめです。ある程度の距離をもって、遠くで見守ること。親に言われなくても塾の宿題をやるようになったり、塾に行きたくないという不平不満をいわなくなったりと、何か変化が起きていることに気づけるはずです。もちろん、それは親にいちいち釘を刺されるのが嫌だからしている行動かもしれません。しかし行動の動機はどうあれ、それは自立の第一歩なのです。サナギの中(自分のこと)には自分が責任を負う、という当事者意識を育てる絶好の機会です。

子供を律するということ

「子供の話を聴く」のと同じくらい大切なのは、子供を「律する」ということ。反抗期を迎えた子供は、親として看過できない行動をとることが多々あります。大切なスタンスは「自分のことと、他者のこととの分別」と「ならぬものはならぬ」です。

先に挙げた親子の会話のような場面では、子供の言葉遣いへのフィードバックをするのがいいでしょう。「一言いわせてもらっていいかな?」などと断りを入れたうえで、「今の言葉はあなたのことを心配していったつもりなんだよ(親の意図の伝達)。『うるさい』とか『いちいち口出しするな』っていうのは、いわれて気持ちのいい言葉ではないな(子供の言葉遣いで生じた親の気持ち)」と言葉をかけてください。怒りを込めるわけではなく、冷静に自分の気持ちを子供に伝えるのです。

子供も少し冷静になって考えてみると、親の言うことが間違っていないことに気づくはずです。自分の行動の結果、何が起きたかを伝えることで、子供は他人の気持ちを想像し、その人の身になって考えるという一歩大人の振る舞いに近づく機会を得るのです。

さらに、自他の分別についてのレッスンを進めると、「親のことは親が決める」があります。親に要求すれば何でも欲求が満たされるというとんでもない勘違いは、反抗期という節目で修正をしておきましょう。

「自分の人生だから、自分のことは自分で決める。だけど親として言葉をかけなくてはいけないときは、きっちりと話をさせてもらう」――「心を鬼にする」は親としての腕の見せ所です。腕といっても腕力ではありません。理性に裏打ちされた「ならぬことはならぬ」と一歩も引かない姿勢の示し方が、子供にとって「理性に裏打ちされた自律」のお手本になるのです。

これらのスタンスを意識してみてください。子供が反抗期を迎えたということは、これまでとは違った“親子の接し方”をアップデートすべき時が来た、ということなのです。

反抗期の葛藤が子供の成長を後押しする

苦手な(あるいは嫌気がさす)勉強をする苦しさと、やりたいことを我慢する苦しさが求められるのが中学受験の難しさです。特に中学受験と反抗期が被ってしまったご家庭では、子供のモチベーション維持に苦労することが多いかもしれません。ただ、反抗期というのは悪いことばかりではないのです。

大人への口答えは確かに増えるものの、子供は心の中で大人になるために一生懸命考え、葛藤しています。反抗期の中学受験生は「なぜ勉強するのか」「自分の人生に受験は本当に必要なのか」など、さまざまなことで思い悩んでいるかもしれません。

しかし自分で納得して勉強をする意味を見つけ出すことができれば、それは中学受験のための力強い原動力になります。そのなかで親として手を差し伸べる必要があると感じたら、ときには人生の先輩として、ときには1対1の人間として、シチュエーションによって親子の関わり方をダイナミックに使い分けてみてください。親の言葉が届いていないように見えても、子供の心の中にはちゃんと響いています。

次回は反抗期を迎えた受験生との接し方について、ケース別に解説します。

※記事の内容は執筆時点のものです

田中純
田中純 専門家・プロ

開成中学校・高等学校、国際基督教大学(ICU)教養学部教育学科卒業。神経研究所付属晴和病院、中高教諭、学校カウンセラーを経て公文国際学園開講準備に参加。現在は赤坂溜池クリニックやNISE日能研健康創生研究所などでカウンセリングやコンサルテーションを行っている。「一家にひとり、一課にひとりのコミュニティ・カウンセラー」を育てることを目標としている。著書「ストレスに負けない家族をつくる」「中学受験は挑戦したほうが100倍子供のためになる理由」(みくに出版)

この記事の著者

編集・ライター。学生時代から都内で6年間塾講師を務める。塾講師時代は、おもに作文・国語・英語の科目を担当。小学生から中学生までの指導にあたる。現在は編集・ライターとして教育関連をはじめ、街歩き・グルメ記事の執筆取材をおこなう。