連載 今一度立ち止まって中学受験を考える

デジタルネイティブ世代の3つの弱点とその克服法|今一度立ち止まって中学受験を考える

専門家・プロ
2021年6月10日 石渡真由美

スマートフォンやタブレットといった情報機器は、今や私たちの生活になくてはならないものとなっています。しかし便利さの反面、私たちが本来もっていたはずの力を奪ってしまうリスクもあります。子どもの教育を考えるうえで、私たちは今後デジタル情報機器と、どのように付き合っていけばよいのでしょうか?

デジタルネイティブ世代に欠けている3つのこと

中学受験の指導に携わってかれこれ30年が経ちますが、近年、子ども達を見て思うことがあります。それは次の3つです。

  1. 粘り強さが乏しい
  2. 思考力が乏しい
  3. 実体験が乏しい

こうした力の衰えの理由は何か? と考えてみて、出た答えがスマートフォン(以下、スマホ)やタブレットなどの情報機器でした。今、塾に通っている子ども達は、生まれたときからインターネットが身近にある、いわゆるデジタルネイティブ世代です。こうした世代と、それまでの世代と何が違うのかというのが、上に挙げた3点です。

まず、粘り強さに欠けている点について。たとえば授業中にわからない問題があると、自分で考える前に、すぐに「先生、答えがわからない。教えて!」と聞いてくる生徒が増えました。手っ取り早く正解を求めようとする傾向が強まってきたように感じます。これはネットなどの検索機能が大きく影響しているのでしょう。ネットで検索すれば、すぐにそれらしい答えが見つかります。しかし当然、塾でスマホを使うことはできません。正解がすぐにわかることが普通のことになっているため、問題の答えをすぐ先生に聞こうとしてしまうのです。もちろん昔からそういう子が、クラスに1人か2人くらいはいました。しかし、今はずいぶん増えてきた印象です。成績が伸び悩んでしまっている生徒の大半はそういった子たちです。これはさすがにマズイ状態だと感じています。

私は、自分で考えずにすぐに答えを求めたがる子に対して、「もう一度、問題文を読んでごらん」と促します。すると、ほとんどの子は「あ! わかった!」という展開になります。つまり、多くの子がただ単に「きちんと問題文を読んでいないだけ」の状態なのです。そういう子は、問題文の中から的確に情報を拾って、それを組み合わせて正解を導くといった高度な思考系の問題を、まず解くことができません。ところが今の中学受験では、そうしたいわゆる「考えさせる問題」が増加傾向にあります。こうした問題を解けるようになるには、「自力で解き切ろう!」という粘り強さと、今ある情報で何がわかっているのか、何と何を組み合わせたら答えが導き出せるかなどといったように、情報を正確に把握して、試行錯誤する力が不可欠なのです。

それと、もうひとつ気になるのが計算力のなさです。たとえば「240−118」という計算問題があったとします。計算が得意な子であれば、容易に答えを出せると思いますが、苦手な子になると「222」などといった、答えを書いてきます。筆算で計算ミスをしてしまった可能性もあると思いますが、数感覚がある子なら「ん? こんな数字はあり得ないぞ……」とすぐに間違いに気づくはずです。なぜ、最近の子たちは気づくことができないのでしょう。

おそらく生活上の実体験で数感覚が身に付いていないのだと思います。たとえば、お母さんからお遣いを頼まれて、小銭を持って買い物に行ったことがある子なら、240円というのは100円が2枚で、10円が4枚という数感覚を持っているでしょう。240円持って行って118円の買い物をしたら、100円玉は1枚しか残りません。「222」といった数字になることはあり得えない。でも、小銭を使って買い物をしたことがない子は、そういう感覚が身に付いていないので、そもそも間違いに気づけないのです。

こうした常識ともいえる力が弱ってしまっている背景には、やはりスマホを始めとした情報機器の存在があるのでしょう。今は買い物で電子マネーを使ったり、クレジットカードでネットショッピングをしたりする機会が、圧倒的に増えています。親御さんの中でも、現金を持たない方が沢山いらっしゃるでしょう。子どもも現金を使う機会が少なくなっていると感じます。今は電車に乗るのもSuicaなどの電子マネーを使うため、切符を買う機会も乏しくなっていますよね。

幼少期にこそ、意識的にアナログな体験を

このように情報機器には便利さの反面、リスクもあります。しかし、今や情報機器は私たちにとって生活必需品です。子ども達の前から、それらを排除することは難しいでしょう。では、どのようにして欠けてしまいがちな点を補えばよいのでしょうか?

粘り強さに欠ける子に、私がおすすめしたいのは習い事です。たとえば、水泳や体操、音楽、書道などの個人でやる習い事がおすすめです。スポーツや楽器といったものは、日々の自主練習なしに上手くなることはありえません。また、上達するためには、ゲームやマンガなど他にやりたいことがあるなかでも、自分の意志で練習に励む必要があります。それはある意味で、忍耐力のいることです。この忍耐力が、受験勉強の粘り強さとも無関係ではないと考えています。

思考力は、幼少期から遊びのなかで身につけることが大切だと考えます。たとえば小さな頃からパズルや迷路などの遊びに慣れ親しんでいた子は、考えることを苦痛に感じる瞬間が少ない印象があります。おそらく「やり方を見つけた!」「やった! できた!」という、達成感や自己効力感(セルフ・エフィカシー、≒自尊感情)を得られる経験を積んでいるからでしょう。しかし、これらも子どもに「勉強のために」という目的で与えると、不思議なことに大抵うまくいきません。幼少期のうちは、あくまでも遊びとして楽しめるか、熱中できるかがポイントです。

実体験に乏しい子には、お手伝いをさせるのがおすすめです。お遣いもそうですが、料理もいいと思います。実際、料理は理科の学習とリンクすることが多いです。卵を温めるとゆで卵になりますが、ゆで卵を冷蔵庫に冷やしても生卵にはならないのはなぜか? それは、タンパク質の熱変成によるものですよね。こうした現象を普段の生活の中で教えてあげると、子どもも、いざ授業で習ったときに「あ、それ知ってる!」と理解しやすくなります。また植物や生物などは、実際に外に出かけて実物をみせてあげることが大事です。

便利グッズに慣れてしまう前に

スマホやタブレットを持たせることによる影響はほかにもあります。たとえば中学受験の算数では、時計算や日暦算といった特殊算を学習します。時計算は、時計の長針と短針が作る角度を使った問題です。入試では時計の長針と短針の角度を求める問題や、逆に角度から時間を求める問題などが出題されます。ところがスマホなどのデジタル時計に慣れてしまっている子は、時計の針の動きをイメージすることが苦手で、時計算も苦手になってしまうという子が少なくありません。

同じように、日暦算もスマホなどのカレンダーに慣れてしまうと、日々の予定は確認できますが、月全体を把握する機会が少なくなります。日暦算は、基準となる曜日からとある日の曜日を導くものです。こうした問題には、月ごとの日数やうるう年が関わってきますので、月全体を把握しておく必要があります。

大人なら時計や暦の概念をすでにわかっているので問題ありませんが、まだ理解できていない子どものうちからスマホを持たせてしまうと、こういった問題が理解しづらくなることも考えられます。小学生のうちはアナログなツールも使いつつ、身に付けさせる方がいいでしょう。言葉の意味を調べるときも、辞書を使う方がよいと思います。ネット検索は、知りたいことが瞬時にわかるというメリットがありますが、わかることはピンポイントなので、そこから思いがけない発見をしたり、興味・関心が広がっていったりすることは少ないように思います。しかし辞書ならひとつの言葉に対して、さまざまな例や類似の言葉が出ているので、知識を広げることができます。

デジタル機器は悪者ではない。うまく付き合っていくことが大事

さて、ここまでお読みなって「この人はデジタル機器を敵対視しているな……」と思った方もいるかもしれませんね。誤解をしないでいただきたいのが、私はこれらが悪者だとは思っていません。ただ、成長過程の小学生に持たせることで、本来であれば身に付けられることが、身に付けられなくなってしまうことを心配しているのです。

大事なのは、便利な情報機器に加えて、アナログ的な体験も生活に取り入れていくことです。スマホやタブレットを使った学習指導もいい面がたくさんありますから、それを全く使わないという選択は今の時代には難しいでしょう。私の塾でも、LINEを使った質問を随時受け付けています。今まで質問に来られなかった子も、LINEなら質問がしやすいようです。また、LINEを使って保護者の相談にも乗っています。このように活用できる場では情報機器を徹底的に活用しつつ、アナログな体験も組み合わせるというスタンスが必要なのではないでしょうか。


これまでの記事はこちら『今一度立ち止まって中学受験を考える

※記事の内容は執筆時点のものです

宮本毅
宮本毅 専門家・プロ

1969年東京生まれ。武蔵中学・高等学校、一橋大学社会学部社会問題政策過程卒業。大学卒業後、テレビ番組制作会社を経て、首都圏の大手進学塾に転職。小学部および中学部で最上位クラスを担当し、多数のトップ中学・高校に卒業生を送り込む。2006年に独立し、東京・吉祥寺に中学受験専門の「アテナ進学ゼミ」を設立。科目間にある垣根は取り払うべきという信念のもと、たった一人で算数・国語・理科・社会の全科目を指導している。また「すべての子どもたちに自発学習を!」をテーマに、月一回の公開講座を開催し、過去3年間でのべ2000名近くを動員する。若い頃からの変わらぬ熱血指導で、生徒たちの「知的好奇心」を引き出す授業が持ち味。

■著書

『はじめての中学受験 これだけは知っておきたい12の常識』(ディスカヴァー・トゥエンティーワン)
『中学受験 同音異義語・対義語・類義語300』(中経出版)
『文章題最強解法メソッド まるいち算』(ディスカヴァー・トゥエンティーワン)
『中学受験 ゴロ合わせで覚える理科85』(KADOKAWA出版)
『中学受験 ゴロ合わせで覚える社会140』(KADOKAWA出版)
『ケアレスミスをなくせば中学受験の9割は成功する』(KADOKAWA出版)
『合格する子がやっている 忘れない暗記術』(かんき出版)

この記事の著者

フリーライター。子供の誕生をきっかけに、わが子の成長に合わせ、ベビー雑誌、育児・教育雑誌、塾専門誌で取材執筆。6年前に子供の中学受験を経験したものの、国立大学の附属中学で併設高校が無かったため、その3年後に“高校受験生の母”、またその3年後に“大学受験生の母”も体験。中・高・大の3つの受験を知る受験ライター。