連載 今一度立ち止まって中学受験を考える

発達障害と中学受験|今一度立ち止まって中学受験を考える

専門家・プロ
2021年6月14日 宮本毅

今回のテーマは「発達障害」です。さまざまなメディアでその情報を見聞きする機会が増えてきました。人とうまくコミュニケーションを築くことができず人間関係に悩んだり、社会生活を営む上で生きにくさを感じたりしている人が少なくないと感じます。ここではそのようなタイプのお子さんをお持ちの保護者の皆さんが、お子さんの受験勉強のサポートをするにあたり、どんな点に気を付けるべきかお話していきたいと思います。

そもそも発達障害とは?

ドラマ「ドラゴン桜2」が大変な人気です。毎週、阿部寛演じる桜木建二の熱いセリフに心ふるわせている人は少なくないでしょう。私もその一人です。とてもいいドラマだと思うのですが、そのなかに原健太という少年が出てきます。彼は自閉症スペクトラムかつ聴覚的短期記憶能力障害という発達障害を持つキャラクターとして描かれていますが、一方で視覚的にインプットした情報に対してはほぼ完璧に暗記できるなどの特殊能力も有しています。しかし学校の評定は全科目最低レベル。それは彼が自分の実力をうまく発揮できなかったことと、周囲の無理解が招いた結果だとして、ドラマの中では描かれています。

発達障害という言葉の意味を調べると、「生まれつき脳に障害を持ち、対人関係をうまく構築できない、言葉の習得に時間がかかる、『読む』『書く』『計算する』など特定分野における学習が極端に苦手、落ち着きがない、集団生活になじめない、といった症状が現れ生きにくさを感じる精神障害の総称」という説明が出てきます。こうした障害が明確に表れなくても、多少そうした傾向がみられる場合には「グレーゾーン」と言われたりすることもあります。

私自身、長年教育の現場で子ども達の指導に当たってきたなかで、こうした特性を持つお子さんを担当する機会がありました。その経験を踏まえ、こうしたお子さんをお持ちの保護者の皆様に、具体的なサポートのしかたをアドバイスさせていただけたらと思います。なお私は精神科医でも心理カウンセラーでもありませんので、発達障害を改善するための治療法などをお伝えするものではありません。あらかじめご承知おきください。

まずは発達障害を保護者が受け入れて欲しい

発達障害というとどうしてもマイナスイメージがつきまといます。そのため世の保護者の皆さんは、わが子に発達障害の兆候が見られても、なかなかそれを認めることができません。「うちの子に限って……」と、その可能性を遠ざけようとしがちです。その気持ちはよくわかります。しかし私はあえてそこに踏み込んで「認めてください」とお願いしたいのです。その方が教育や子育てがうまくいく可能性が大きいからです。

私の教え子の一人に、保護者の方から「うちの子はASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)と診断されています。対人コミュニケーションが苦手で聴覚過敏です。それでも入塾許可をいただけますか」と最初からご相談されて入塾してきた子がいました。この生徒は目を合わせてコミュニケーションを取ることが難しかったので、授業中に視線が外れていても注意はせず、適度な距離感を取って接してたところ、段々と生徒の方から打ち解けてくるようになりました。最終的には東京港区にある男子上位校に合格することができました。

別の生徒では、ADHD(注意欠陥・多動性障害)の疑いのある生徒がいました。この生徒は授業中の集中力が著しく欠け、不規則発言も多く、周囲の生徒にちょっかいばかり出して少し問題となっていました。そこで保護者の方との面談時に「もしかしたら少し多動症の傾向があるかもしれません。専門医師に相談されてみられてはいかがでしょう」とお伝えしたところ、発達障害の専門外来を受診され、きちんとした診断がつきました。保護者の方はそれまでの「子育てしづらさ」や「子どもとのコミュニケーションの取りにくさ」の原因がハッキリしてストレスが軽減され、子どもへの声かけや態度を変えることで親子の関係が改善しました。親のストレスが軽減されたことで、子どもも注意されることがぐっと減り、それと呼応するように問題行動もなくなっていきました。

最後は幼少期よりお母さまが子どもの特性に気付き、専門家の指導を受けていたお子さんの例をご紹介します。このお子さんは小さい頃にすでにディスグラフィア(書字障害=文字を「書く」ことに困難がある学習障害)であると診断され、早い段階から専用教材を使って訓練を重ねてきました。その甲斐あって入塾時には多少文字が歪んだり線がまっすぐ書けなかったりという障害が残っていましたが、学力形成にはほぼ問題がなく、入試時には都内御三家と呼ばれる学校にチャレンジできるほどになっていました。私の塾は算数や理科の学習で「図を書いて解く」ことを強く推奨している塾なのですが、その生徒に関しては図を書くという部分について、本人の状況を尊重するようにしていました。

このように子どもの状況をきちんと理解して、中学受験を成功させたご家庭の例は枚挙にいとまがありません。逆に保護者の無理解から中学受験の学習のみならず、子育て自体もうまくいっていなかった例もたくさんあります。

子どもの発達障害に気付かないことで生じる問題

発達障害とは、生まれつきの脳の障害のために、言葉の発達が遅れたり、特定分野の学習が極端に苦手であったり、集中力に欠け、集団生活が苦手である、といった症状が現れる精神障害の総称であることは最初に説明した通りです。こうした障害を持っている子は、授業中に落ち着きなく動いて隣の子に迷惑をかけたり、空気を読まない発言や不規則発言などで周りの生徒から疎んじられ、仲間外れにされたりします。生きづらさを感じ、ストレスを高め、周囲の子にいたずらをしたりあるいは暴力をふるって問題となったりします。

親もこうしたわが子の行動を理解できず、毎日のように叱ったり時には手を上げてしまったりしてしまいます。そうすると子どもはますますストレスを高め、学校や塾での問題行動が大きくなってしまいます。

発達障害のひとつであるADHDの子は忘れ物が多いのも特徴のひとつです。授業で使用するテキストをよく忘れたり、宿題の場所や次回の授業スケジュールを忘れてしまったりします。そうすると授業をまともに受けることができず、成績が上がりにくい状況をつくってしまいます。保護者の方のストレスは高まるばかり。原因が不明なのは不安ですし、対処もわからないので状況は一向に改善していきません。最終的には中学受験自体を諦めるご家庭も少なくありません。

発達障害の特性別対処法は?

では発達障害の子を持つ保護者の方は、一体どのようにしたらよいのでしょう。お子さんにそのような兆候が見られたときは、まずは専門家の先生にご相談されるのが大切です。そして診断が下ったら、どのように対処すべきか専門の先生にご相談ください。いまは研究が進んでいますので、よい対処法が見つかるはずです。

ADHDのお子さんで忘れ物が多い場合は、1週間の学校や塾や習い事のスケジュールを大きな紙に書いて壁に貼り付けましょう。そしてそれぞれの欄に持ち物を細かく書き込んでおくのです。つまり「いつ・どこに・何を持っていくのか」を明確にして「見える化」しておくのです。こうすることで忘れ物はずいぶんと減らせるはずです。筆箱は学校用と塾用と家庭学習用に分けて用意しておきます。部屋をきちんと片づけて不要な物は捨て、整理整頓しておくことも忘れ物をなくすコツです。本人任せにしていても絶対に改善しません。

LD(学習障害、限局性学習症)で、学習面に不安があるお子さんの場合は、知能テスト(WISC-IV)を受けることをおすすめします。WISC-IVはウェクスラー式知能検査のことで、児童用の知能検査として世界各地で使用されています。子どもの知的能力や記憶・処理に関する能力を総合的に測ることができるため、発達障害の診断やサポートに活用されています。このテストを受けると、子どもの弱いものは何かが明確になるため、より効率的で具体的な学習法を模索するのに役立ちます。たとえば「ワーキングメモリが弱い」子の場合、耳からの情報を頭の中だけで処理することが苦手なので、メモを取らせるようにするとよい、とか、「言葉で表現する力が弱い」子の場合、図や記号を用いて表現させそれを言語化する訓練をするとよい、といった具合です。

さらに大切なことがあります。それは、そうした診断が下されたら、保護者の方に全力でサポートしていただくということです。その際に保護者の方の中だけで抱え込まず、学校の先生や塾の先生にもきちんと状況を伝え、協力体制を整えることがとても重要です。関わる大人全員で子どものことを理解し、全員でサポートすれば、お子さんはより快適に生活できるようになるでしょう。ストレスや負荷が軽減されれば、症状がだんだんと改善していくこともあります。大人になると発達障害の症状が全く見られなくなった、そういう例はいくらでもあるものです。

逃げて、目をつぶって、気付かないふりをしていても決して解決しません。是非とも向き合ってください。


これまでの記事はこちら『今一度立ち止まって中学受験を考える

※記事の内容は執筆時点のものです

宮本毅
この記事の著者
宮本毅 専門家・プロ

1969年東京生まれ。武蔵中学・高等学校、一橋大学社会学部社会問題政策過程卒業。大学卒業後、テレビ番組制作会社を経て、首都圏の大手進学塾に転職。小学部および中学部で最上位クラスを担当し、多数のトップ中学・高校に卒業生を送り込む。2006年に独立し、東京・吉祥寺に中学受験専門の「アテナ進学ゼミ」を設立。科目間にある垣根は取り払うべきという信念のもと、たった一人で算数・国語・理科・社会の全科目を指導している。また「すべての子どもたちに自発学習を!」をテーマに、月一回の公開講座を開催し、過去3年間でのべ2000名近くを動員する。若い頃からの変わらぬ熱血指導で、生徒たちの「知的好奇心」を引き出す授業が持ち味。

■著書

『はじめての中学受験 これだけは知っておきたい12の常識』(ディスカヴァー・トゥエンティーワン)
『中学受験 同音異義語・対義語・類義語300』(中経出版)
『文章題最強解法メソッド まるいち算』(ディスカヴァー・トゥエンティーワン)
『中学受験 ゴロ合わせで覚える理科85』(KADOKAWA出版)
『中学受験 ゴロ合わせで覚える社会140』(KADOKAWA出版)
『ケアレスミスをなくせば中学受験の9割は成功する』(KADOKAWA出版)
『合格する子がやっている 忘れない暗記術』(かんき出版)