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観察力を磨いて、昆虫を理解する|なるほどなっとく 中学受験理科

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2021年7月27日 水溜 兼一(Playce)

学習範囲が広く、難しいイメージがある理科の中学入試問題。難関校に多くの子どもを合格させてきたカリスマ講師・小川眞士さんが、子どもの理科力を育むためのヒントを伝えます。

入試理科では、理科的思考力が求められます。子どもの理科的思考力を養うためには、普段から身の回りのいろいろな事象に興味を持ち、その原因を理科的視点で捉える姿勢が大切です。今回は、さまざまな生物のなかから「昆虫」にフォーカスして、小川先生にお話いただきます。

観察力が問われる問題が増えている

「虫」というと、どんな生き物を想像するでしょうか? 以前、私が教えていたクラスの生徒たちに、「虫の名前を3つ書きなさい」という問題を出し、名前を集計したところ、1位はカブトムシ、2位と3位は同数で、アゲハチョウとモンシロチョウ、4位と5位も同数で、クワガタとカマキリでした。生徒が答えた虫の名前は全部で34種類ありましたが、全員が「昆虫」の名前を書いていました。

いまでは「虫」というと、「昆虫」を思い浮かべがちですが、昔は、獣と鳥と魚以外の動物をひとまとめにして「虫」と呼んでいました。たとえばアサリ(浅蜊)やシジミ(蜆)などの貝類、カエル(蛙)やトカゲ(蜥蜴)、カタツムリ(蝸牛)なども虫の仲間でした。これらの動物の漢字を見ると、「虫偏」がついていますね。

そもそも「虫」という漢字は、下記のように、マムシのような頭の大きいヘビがからだをひねった形から変化して、現在の字になりました。そうそう、ヘビ(蛇)やマムシ(蝮)の漢字にも、虫偏がついています。

現在では「虫」というと、哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、魚類以外の小さな動物のことを指すことが多いようです。そのなかで「昆虫」は、無脊椎動物の節足動物の仲間で、次のような特徴があります

■昆虫の主な特徴

  • からだが頭部・胸部・腹部の三つに分かれる
  • 胸部にあしが6本ついている

からだが頭胸部と胴部の二つに分かれ、あしが8本あるクモや、からだが二つに分かれ、あしが10本あるエビや、からだに多くの体節があり、あしがたくさんあるムカデなどは、節足動物の仲間ですが「昆虫」ではありません。

■昆虫ではないものの例

  • クモ(蜘蛛類)
    →からだが頭胸部と胴部の二つに分かれる。あしは8本
  • エビ(甲殻類)
    →体が二つに分かれる。あしは10本
  • ムカデ(多足類)
    →からだに多くの体節がある。あしもたくさんある

さてここで問題ですが、みなさんは、蜂の絵を描くことができますか?

蜂は簡略化して書くと上記のようになります(横から見ているため、奥の3本のあしは省略しています)。じつは、近年の入試問題では、昆虫の絵を描かせる問題がたびたび出題されています。はじめから絵を描かせる問題もあれば、「クワガタの絵に大あごや目、あしを描き入れる」「カマキリの顔を描く」「モンシロチョウのはねの紋(模様)を描く」など、パーツを描き入れるものもあります。ほかにも「カブトムシの絵を見て、胸部の部分を塗りつぶす」など、昆虫のからだについての理解度を測る問題もあります。

このような問題が増えている傾向として、出題する中学校側は、受験生が昆虫をしっかり観察しているか、昆虫のからだを含めて基本的なことについてきちんと理解できているかどうかを確かめたいという思いがあります。

では昆虫の学習の基本とは何でしょうか? 先ほど昆虫のからだは、「頭部・胸部・腹部の三つに分かれる」「胸部にあしが6本ついている」ことをお伝えしました。さらに昆虫の胸部は三つに分かれています。そして、はねも胸部についています。昆虫のからだについては下記をきちんと理解しなければなりません。

たとえば、クワガタの場合は下記のようになります。

中学校側が確認したいのは、絵が上手か下手かではありません。頭、胸、腹はどこからどこまでなのか。あしとはねはどこについているのかを理解しているかを確かめることが基本です。ちなみに、はねは、前ばねが後ろばねの上についています。ここで問題の対象となる昆虫は教科書に出てくるものが基本です。だからといって教科書に出てくる昆虫をすべて覚え込む必要はなく、からだのつくりに関して基本的なことを理解したうえで、それぞれの昆虫に関して観察し、確認することが大切です。

昆虫を育てて観察する経験を学習の柱にする

家庭での昆虫の学習というと、子どもに図鑑を与えて読ませるほか、最近ではYouTubeで動画を見せるというケースも少なくないようです。しかし図鑑やYouTubeでは、ある面では覚えるだけの学習になりがちです。

昆虫についての学習では、できれば1種類でいいので家庭で昆虫を育ててみましょう。クワガタやカブトムシでもいいですし、蚕(かいこ)やモンシロチョウを幼虫から育ててみたり、鈴虫を飼ったりするのもおすすめです。都内で昆虫を捕まえるのは難しいかもしれないので、飼育セットを購入してもいいでしょう。

家庭で育てるときは、子どもに昆虫を与えるだけでは、漠然と眺めているだけになりがちです。親も一緒に観察して、注目すべきポイントをアドバイスしてあげるほうが、観察力がアップします。たとえば、昆虫の幼虫は脱皮して大きくなります。脱皮するたびに大きくなる幼虫を確認することや、カブトムシは幼虫から“さなぎ”になるときに土中に部屋を作る様子を観察したり、モンシロチョウの幼虫などは餌を食べる様子、サナギから羽化するときの様子などを観察してほしいと思います。

昆虫を育てて観察すると、その昆虫の生態がわかります。これが学習の柱になります。理科は暗記学習だと思われますが、理科の学習は、観察することが基本です。そのため入試でも前述したような観察力を問う問題は確実に出題されています。基本的なことは暗記する面もありますが、学習したことをより確実するため、経験をもとにした学習の柱をつくることが大切です。柱があると、学校や塾でほかの昆虫を学んだときに、自分が育てた昆虫と、ほかの昆虫では、口の形や食べる餌、成虫になるまでのプロセスなどについて、どこが違うかを比較して考えることができます。このように経験と習ったことを結びつけることで、知識の幅が広がるのです。

昆虫を観察する方法としては自分で育ててみるほかに、昆虫館を訪れてみるのもおすすめです。昆虫館は各地にあります。たとえば長野県佐久市にある「昆虫体験学習館」には、カブトムシドームがあり、放し飼いにされたカブトムシの様子を観察できるだけでなく、実際に触れることもできます。また、国内外のさまざまな昆虫の標本も展示されています。2021年7月現在、新型コロナウイルスの影響で一部の施設・プログラムが利用できないようですが、夏休みに家族で見学すると、とてもよい体験ができるでしょう。

昆虫と植物のつながりにも着目を

観察という点では、昆虫と植物のつながりにも着目してみてください。昆虫は植物の蜜や花粉などを餌にしているものも多く、植物は昆虫によって受粉を行う場合が多くあります(虫媒花)。このような関係の中で昆虫と植物が共に進化(共進化)してきたケースもあります。昆虫や植物について多面的に捉えることを目的に、入試問題では、昆虫と植物のつながりを考えさせる問題が増加しています。昆虫と植物のつながりで共に進化してきた例について少し挙げてみましょう。

たとえば、カラスウリとスズメガの関係です。カラスウリの花には下図のように、長い筒状の部分(がく筒と呼ばれます)があります。この花の蜜はがく筒の奥にあり、長い口を持った昆虫しか蜜を吸うことができません。そして、この長い口を持った昆虫がスズメガです。

[参考]長いがく筒をもつ、カラスウリの花

[参考]スズメガは長い口をもつ

スズメガが活動する夏の夜にカラスウリは花を開きます。そして、スズメガが蜜を吸うときに、頭部が花の筒の入り口の雄しべの葯(やく)にふれるので、花粉がスズメガの頭につくことになります。そのスズメガが花粉をつけたまま雌花に行き、再び花の筒の底にある蜜を吸おうとすると、今度は頭が雌しべの柱頭にさわり、頭についていた花粉が雌しべの柱頭につきます。

カラスウリの花は長いがく筒をつくることで、受粉する役目をスズメガにほぼ限定し、受粉を効率的に行い、スズメガもカラスウリの蜜を独占することで餌を確保できるという、密接な関係ができています。このようにチョウやガの仲間は口の長さによって蜜を採りやすい花が決まり、花筒の長さと口の長さがほぼ対応してきます。

もうひとつ例を挙げましょう。モンシロチョウの幼虫はアブラナ科の植物(キャベツ、菜の花など)を好んで食べます。アブラナ科の植物は細胞に辛み成分があります。ほかの昆虫の幼虫はこの辛み成分を嫌って近づかないので、モンシロチョウの幼虫はアブラナ科の植物を独占できます。

[参考]キャベツの葉を食べる モンシロチョウの幼虫

チョウやガの幼虫が食べる植物が決まっている(食草)ように昆虫の特徴(食べ物や口の形)には密接な関係があります。身近な植物に昆虫がいたら、「なぜこの昆虫は、この植物に集まるのか?」という視点を持ち、花のつくりやはたらき、昆虫のつくりや生活などを考えてみることが、理科的思考を養う出発点となります。


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※記事の内容は執筆時点のものです

小川眞士
小川眞士 専門家・プロ

小川理科研究所(東京都豊島区)主宰。都内の中学校教諭を経て、四谷大塚進学教室理科講師に。開成や桜蔭の特別コースを約25年間担当、コース生28人全員が開成中学に合格した実績を持つ。教務主任や副室長も務めた。2009年4月に小川理科研究所を開設。主な著書に、『中学受験 理科のグラフ完全制覇』(ダイヤモンド社)、『これだけ理科』(森上教育研究所スキル研究会)、『カンペキ小学理科』(技術評論社)がある。

この記事の著者

雑誌・新聞の編集・ライターを経て、現在は、通信教育企業のキュレーションサイトや大学案内のライティングなどを担当。