連載 「自分のやりたい!」がある子はどう育ったのか

「中高生と企業が一体で社会問題の解決に取り組む」新しい仕組みをつくった高校生のストーリー|「自分のやりたい!」がある子はどう育ったのか

専門家・プロ
2022年1月20日 中曽根陽子

AIが登場し、人間が果たす役割が変わっていこうとしています。「いい大学、いい会社に入れば安泰」という考え方が通用しなくなっていることは、多くの方が感じているでしょう。子どもたちが、しあわせに生きていくためには、どんな力が必要なのか? 親にできることは? この連載ではやりたいことを見つけ、その情熱を社会のなかで活かしているワカモノに注目します。彼らがどんな子ども時代を過ごしたのか。親子でどんな関りがあったのか。「新しい時代を生きる力」を育てるヒントを探っていきます。

今回の主人公は現在高校2年生の山口由人(ゆうじん)さんです。15歳で一般社団法人「Sustainable Game」を設立し、中高生と企業が一体となって社会問題の解決に取り組むプログラムをつくっています。個人でも国際会議に登壇したり、日本の入国管理局収容所の人権問題の映画制作を行ったりするなど、幅広く活動しています。そんな由人さんに、活動を始めた軌跡と、そこに込めた思い、これからやりたいことを聞きました。

ドイツで体験した難民問題

山口由人さんは東京都北区にある私立中高一貫校、聖学院高校に在学する現在 高校2年生です。一般社団法人「Sustainable Game」の代表理事も務めています。

Sustainable Gameは中高生が設立、運営する団体で、「愛を持って社会に突っ込め」という理念のもと、自発的に楽しく社会課題を解決していく中高生を生み出すこと、そして持続的にアクションを続けていくための支援を行うことを目的に活動しています。主にSDGsを軸にしたイベントを開催したり、企業とプログラムをデザインしたり、ESG(環境、社会、企業統治)に取り組んでいる企業と、Z世代の共創環境をつくったりしています。

全国から同世代の参加者が集まり、新時代をつくろうとしているSustainable Game。その活動は、当時中学生だった由人さんのある思いから始まりました。トリガーとなったのは、由人さんが、中学校で学んだSDGs。「誰一人取り残さない」というそのアジェンダに共感したのでした。

中学生だった由人さんが、SDGsになぜそこまでに心を揺さぶられ、そして行動を起こすに至ったのか。パッションの源泉には、小学生の時に経験したひとつの出来事があります。

由人さんは、会社員のお父さんの海外赴任に伴って、生後5カ月から12歳まで(年長から1年弱、帰国時期あり)ドイツで過ごしました。

2016年、彼が小学5年生の時のことです。中東シリアの情勢が悪化して、当時住んでいたドイツに難民が押し寄せたのです。そして、ドイツ国内でテロ事件が起こりました。すると、それまで難民受け入れに好意的だった世論が一変します。難民への攻撃が起こるなど、緊迫した情勢に陥ったのです。街にはマシンガンを抱えた警官が歩くようになったと言います。

そんなある日のことです。由人さんがパンを食べながら街を歩いていると、難民から、「パンをくれ」と話しかけられたのです。由人さんは恐怖からその場を逃げ出してしまいました。

「自分自身、ドイツでマイノリティとして差別を感じていて、難民の方々の“痛み”に共感できる部分もあったのに、あの時の自分は何もできなかったんです」(由人さん)

学校で覚えた違和感・物足りなさ

帰国後、聖学院中学校に帰国生枠で入学した由人さん。当時は入試の成績順でクラス編成が行われていて、帰国子女枠の生徒は自動的に基礎をメインで学習するレギュラークラスに振り分けられました。クラスには、由人さんのように帰国子女枠で入ってきたクラスメイトもいれば、中学受験を経て自信を無くしている生徒もいたといいます。

由人さん自身は、学校の勉強は苦にはならなかったし、勉強で競うことが新鮮だったようです。成績上位に入ることもできて、生徒会活動にも参加。日本の学校文化に馴染もうとしていました。

その一方で「違和感や、物足りなさも感じていた」と話します。なぜなら、ドイツの日本人学校では、ドイツの歴史的背景や社会、世界情勢について学ぶ機会が多く、小学生でも時事問題に詳しい大人びた同級生が多かったのに比べて、日本の友人たちからは、そういった話がほとんどなく、無邪気に戯れあっている様子だったからです。

中学生の自分でもSDGsに貢献できる

ある日、学校でSDGs のワークショップが行われました。由人さんは、そこで「誰一人取り残さない」というSDGsのアジェンダを知り、強く惹かれます。ただ、その授業は2030年までの目標や歴史を教わるだけで終わってしまい、もどかしさを感じていました。

SDGsを「2030年までの世界最大の社会実験」と捉えていた由人さん。それ実現するためにどう行動すべきかを考え、学校外のSDGsセミナーなどに通い詰めました。そして、中学2年生になると、同学年の友人らに声をかけて、学内でSDGsを広める活動を始めます。行動に移した原動力には、ドイツにいたときに難民を目前にして何もできなかった、あの思いがありました。

学内で活動を始めた頃のようす、SDGsについてみんなの前でプレゼン

こうした活動を通して熱い志を持つ人たちと繋がり、「中学生の自分でも社会実験に参加できるんだという自信が持てるようになっていった」と語ります。

「考えて行動すると、新しい人たちと出会うんです。世界が広がる喜びを、スポンジで吸収していくようで、とても楽しかった」(由人さん)

この頃、それまで自分が知っていた世界がいかに狭かったか、目に触れるものから得られる情報がいかに浅く、受け取れる情報も少ないかということにも気づきました。

「仲間をもっと増やしていきたい」一般社団法人を設立

由人さんは、こうした経験から「これからの時代を生きる我々に必要なスキルは、社会課題を抱えている人の身になって、相手のシチュエーションを理解すること。英語でいうEmpathy (共感)だ」という思いを持つに至ります。

「もし、街でシリア難民の方とすれ違ったとしても、容姿だけではなかなか気づけないでしょう。ましてや、その人の裏側にある“痛み”や抱えている課題に想いを馳せることもできません」(由人さん)

「当事者の状況を理解しなければ、その問題は解決できない」という思いから、中学2年生の時に、「課題発見DAY」という教育プログラムを考え出します。

「課題発見DAY」はSDGsの17個のゴールが書かれたルーレットを回して、自分が引いたワードについて、調査場所の制限を設けずにフィールドワークをするものです。ジェンダー、ユニバーサルデザイン、働きがい、フードロスなどといった観点で課題をリアルに見て、感じて、考えるプログラムです。由人さんは、中高生が自ら課題を発見するこのプログラムの価値を信じていました。放課後に学校外で開催を繰り返すうちに、全国から「一緒にやりたい!」という仲間が集まって来るようになったのです。

「ミッションとエンパシーのスキルを持って、社会の課題解決に取り組む仲間をもっと増やしていきたい!」という思いはさらに加速します。

共創で愛を持って社会に突っ込む同世代を増やしていく――。そのために「Be a Social Tackler.」を合言葉に、クラウドファンディングで資金を募ります。2020年6月には晴れて、一般社団法人「Sustainable Game」を設立しました。由人さんは組織の代表として活動しています。さまざまな壁にぶつかりながら、組織マネジメントなども学んでいったのです。

ソーシャルグッドな世界観を広げる3ステップ

現在Sustainable Gameでは、1)課題発見や課題解決に向けた共創をテーマにした教育プログラムを提供するプログラムデザイン事業、2)ソーシャルグッドな世界観を届けるZ世代に向けた番組「SPINZ」の配信、3)未成年の課題発見から企業との共創を包括的にサポートするプラットフォーム「Flare」の運営を中心に活動をしています。

1)の教育プログラムは、前述した中高生向けの「課題発見DAY」のほかに、企業に対する研修プログラムがふたつあります。これらは未成年の声を、社会活動や企業活動に取り込んでもらうのを目的としたものです。企業のサステナビリティ関連の担当と中高生が一体になって、事業をより持続可能にするためのアイデア、プランを共創していく取り組みです。

たとえば、クックパットと共催したプログラムがあります。中高生向けに料理を題材にした「課題発見DAY」を開催すると、参加者の中から「男子が料理しないのはなぜ?」という問いが生まれました。「ジェンダーギャップが影響しているのでは?」と言う声が上がり、「料理に不慣れな男子でも始めやすい料理の方法を考えてみる」といったプログラムを実施しました。食材からプラスチックパッケージの問題や食糧問題などを考えることもできました。

2)のZ世代に向けた番組「SPINZ」では、「Z世代のインフルエンサー」と、公募選抜された22歳以下の挑戦者がチームを組み、「気候変動とプラスチック問題」「ジェンダーとLGBTQ」「教育と格差」「食と健康」のいずれかのテーマで、ソーシャルグッドなプロジェクトを企画、活動する様子を3カ月間密着して番組として公開しています。

3)のプラットフォーム「Flare」は、リソースを持った企業と未成年が一体となったプロジェクトの共創や、未成年の仲間集めなどを目的に運用しています。社会課題の解決のために「何かをやりたい!」という中高生、大学教授、弁護士といった権威と繋ぎ、包括的にアクションの実現をサポートしていく基盤を生み出しています。

ソーシャルイノベーションチャレンジ日本大会2021「審査員特別賞」受賞

現在、Sustainable Gameには37人のメンバーが在籍。運営は事務や広報、各事業それぞれのリーダー6人の合議制で、各チームが自立的に運営しています。最初に活動を共にしたメンバーの中には、慶應義塾大学SFC、秋田教養大学、海外大などに進学して、各々の道で活動を始めている人たちもいるようです。

その一方で、「自分たちのポテンシャルに気づいていない中高生は多いと感じる」と言います。「同年代の人たちの心に火を灯していきたい」と話してくれました。

多くのメディアにも取り上げられ、国際会議にも招聘され、UNDP(国連開発計画)ソーシャルイノベーションチャレンジ日本大会2021「審査員特別賞」を、高校生で初受賞するなど、躍進する由人さん。「将来的に団体は事業継承をしていきたいと考えている」とのことです。

国際会議でオープニングスピーチもした

高校卒業後の進路について聞くと、「大学では社会科学などを学びたい」と話してくれました。そのために、高校では国公立大学か海外大進学を視野に入れたクラスで大学進学に向けての勉強に専念しているそうです。団体の活動は、朝や昼休みの15分をメール連絡などの事務作業にあてて、放課後に学校からオンラインで企業とミーティングを行っていると言います。帰宅後は家で勉強、21時から再び団体の活動を行う。そういったスケジュールで活動しているそうです。

子ども時代は、一人で物作りをするのが好きな少年

ご両親は今の、由人さんのことをどう思っているのでしょう。

実はご両親は、由人さんがこうした活動をしていることをテレビの放映で知ったくらいで、学校の活動の一貫だと思っていたとか。

ただ、法人化するときには、由人さんが両親にプレゼンを披露したそうです。お父さんは「リスクが大きい」と反対で、親子で数週間 議論を重ねたと言います。お父さんからは、「社会人ごっこしても、価値はない」と、厳しいことも言われたそうです。それでも彼は、「最後までやり抜きたい」と熱意を伝えました。お母さんも最初は反対していたとのことですが、今は応援してくれていて、賞をもらった時には、一緒に喜んでくれたそうです。

どんな子ども時代を過ごしたのでしょうか。

由人さん曰く、「今のようにリーダーシップを発揮するタイプじゃなくて、仲間の中で三番目のポジションだった」そうです。組織をリードする今の立場からすると、意外です。子ども時代は、どちらかというインドア派で、家で一人で何かを作って過ごすことが多かったのだとか。ゲームは小学3年生くらいの時に、クラスメイトがやり始めたので、たまにやっていたけれど、それほどのめり込まなかったと言います。それよりも、ジュエリー作家のお母さんと一緒に、職人マイスターのところで創作するのが大好きだったとのこと。今でも絵を描いたり、美術館にいったり、旅をしたり、リアルのものを見てドキュメンタリー動画を作成したり……。クリエイティブな才能に長けているようです。

ドイツで暮らしていた小学生の頃の由人さん

習い事は小1から小3まで、地域のサッカークラブに参加していました(剣道や水泳も少しだけやっていたとか)。小1〜小6までは毎冬、スキー教室に参加していたと言います。そのスキー指導はドイツ語オンリーで、初めてスキー教室に行った時には、何を言われているのか全くわからないままだったそうです。当時を振り返って、「すごい斜度の山上まで連れて行かれて、帰れないのではという恐怖も味わったけれど、徐々にコミュニケーションが取れるようになっていきました」と言います。

もしかしたら、そんな経験の積み重ねが、中学生になって新しい環境に自ら飛び込むマインドセットを育んでいたのかのかもしれません。

社会活動をする人は低年齢化していく。新しい形の市民活動を研究したい

由人さんが今、興味を持っていることは、「マイノリティの権利の拡張」です。「難民や在留資格のない友達もいて、そういう人たちの権利も含めて、未成年者の意見をどうしたら社会に還元し、拡張できるのか考えていきたい」と熱く語ります。

「日本では2016年頃から、やっと高校生の選挙活動を中心とした社会活動が容認されたくらいです。未成年者が意思表明する権利が蔑まれた時代が続いていて来たけれど、欧米では、若者の意思表明や、ジェネレーションシフトが根付いています。欧米は若者の市民運動に寄付が集まるけれど、日本はなかなか集まらないし、未成年者が一人で社会課題の変革を訴えて立ち上がるだけでは、孤立してしまうんです。だから、既得権益をただ攻撃するのではなくて、今の自分たちのアプローチのように、未成年が自立して成長していくために集団をつくって、法人格をとって、持続可能な形で社会を変えていきたいです。そのアプローチには面白さがあると思います。自分たちの事例をもとに、未成年が権利を拡張し、自立して社会の中に入っていけるような、社会のつくり方を模索し研究していきたいです」(由人さん)

日本は学生団体が多いのですが、これまでそういった活動は大学生になってやることだと思われてきました。まだまだ事例は少ないけれど、中高生でも社会活動ができるようになってきています。現在は全国に20プロジェクトくらいあってSNSで繋がっているようです。由人さんは「これから社会活動はもっと低年齢化していくだろう」と話します。

自分の「やりたい!」という気持ち一心で始まった活動ですが、それが今は「一緒にやっている仲間の居場所を守りたい」という気持ちがモチベーションにもなっていると言います。バーンアウトしてしまった時には、ほかの団体で活動をしている同世代の仲間や、大学生起業家などが声をかけてくれて、支え合いながら活動をしているそうです。

中学生の時には、全てを学校に求めていたけれど、「学校は質の高い学問に集中する場所」と捉え、「課外活動は社会や地域からサポートを受けながらやっていけばいい」と考えるようになったとか。高校生になった今、学校について次のように話してくれました。

「クラスメイトにもプロジェクトをやっている友人がいて、情報交換をしあうなどストレスを感じずに過ごせているのがありがたいです。自分は恵まれた環境にいると思うので、『ノブレス・オブリージュ』(日本語で「高貴ある義務」と訳されるフランス語)の精神で自分のできることをこれからもやっていきたいですね」(由人さん)

生徒会の副会長としても活躍。聖学院の記念祭(文化祭)での一場面

取材を終えて

SDGsに共鳴し、中学生で一般社団法人を立ち上げた山口由人さん。取材では活動内容や自分の思いを、理路整然と語ってくれました。その話ぶりに、俯瞰して物を見る力と、システムをデザインする力に長けているなと感心しました。さまざまな活動を通して鍛えられたものでしょう。そのなかでも一貫して感じたのは、自分の心に正直に向きあう純粋さです。幼い頃からご家庭で育まれたものも大きいと思います。また『ノブレス・オブリージュ』の精神のもと、キリスト教の教育を行う、学校の環境も影響もあるかもと感じました。

今、世の中の不条理や、社会問題に疑問を抱く子どもたちが多くなっていると感じます。しかし、そこから自分ごととして捉えて、実際に行動に移しているのが由人さんのすごいところです。SDGsに敏感になっている社会の流れもあって、企業の目にとまり、日本独自の若者の市民活動の形を生み出していったところがユニークでした。サスティナブルな新しい若者の市民活動システムの一例になっています。

今の子どもたちのポテンシャルは、本当にすごいものがある。こういう思いを持った未成年の思いを受け止めて、応援できる社会にしていく責任が大人にあるのではないか、改めてそう思いました。Sustainable Gameの発展と由人さんのこれからに期待したいです。

※記事の内容は執筆時点のものです

中曽根陽子
この記事の著者
中曽根陽子 専門家・プロ

教育ジャーナリスト。小学館を出産のため退職後、「お母さんと子供達の笑顔のために」をコンセプトに数多くの本をプロデュース。子育て中の女性の視点を捉えた企画に定評がある。教育雑誌から経済誌、紙媒体からWeb連載まで幅広く執筆。中学受験に関しては「受験を親子の成長の機会に」という願いを込めて『1歩先行く中学受験 成功したいなら「失敗力」を育てなさい』『後悔しない中学受験』(共に晶文社)『子どもがバケる学校を探せ』(ダイヤモンド社)などを執筆。教育現場への豊富な取材や海外の教育視察を元に、講演活動やワークショップもおこなっており、母親自身が新しい時代をデザインする力を育てる学びの場「Mother Quest」も主宰している。近著は『成功する子は「やりたいこと」を見つけている 子どもの「探究力」の育て方』(青春出版社)

1歩先行く中学受験 成功したいなら「失敗力」を育てなさい 成功する子は「やりたいこと」を見つけている 子どもの「探究力」の育て方