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【後編】御三家中の理科の問題は、何が違うのか|なるほどなっとく 中学受験理科

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学習範囲が広く、難しいイメージがある理科の中学入試問題。難関校に多くの子どもを合格させてきたカリスマ講師・小川眞士さんが、子どもの理科力を育むためのヒントを伝えます。

前回は「男子御三家」の開成・麻布・武蔵、「女子御三家」の桜蔭・女子学院・雙葉について、各校の問題の特徴を中心にお伝えしました。今回は小川先生へのインタビューから、御三家の理科の問題について他校との違いや、御三家に受かる子どもの特徴を考えます。

御三家の問題の難易度は、他の難関校と変わらない?!

──御三家の理科の問題について、開成・麻布・武蔵は各校ごとに明確な特徴があり、桜蔭・女子学院・雙葉は、男子御三家ほど違いはないことを前回伝えていただきました。いずれの学校も難易度という点で、他校とは差があるのでしょうか?

いえ、難易度という点では、御三家の理科の問題が、他の難関校よりも特段難しいということはありません。前回、データで示したように、問題の総文字数や思考問題の割合を見ても大差はなく、なかには他の難関校より文字数が少ない学校もあります。武蔵の「おみやげ問題」のようなものは別として、図表の読み取りやデータ処理、記述問題などは、他校でも出題されています。

御三家中と他の難関校との違いを挙げるとすれば、“世間からの注目度”でしょうか。受験生だけでなく、他校の先生や塾講師、教育界全体からも注目されている。それは、今年は平均点が高い低いといったことだけでなく、問題の中身、つまり“クオリティ”が問われているということです。

御三家の先生方には、「ただ受験生をふるいにかけるだけの下手な問題は作れない」という思いがあるのではないでしょうか。化学・物理・生物・地学の各分野の知見を持った先生方が問題を考えに考えて、原理原則をきちんと理解していないと解けないような問題や、身近な事象をうまく取り入れた問題、ストーリー性のある問題を作っています。

たとえば、開成の2021年入試の「てこのつりあい」をテーマにした大問はその象徴的一例です。教科書や塾のテキストで学ぶ原理原則をきちんと理解していれば解けるので、奇をてらったものではありません。さらに、5つの設問を順番に読んでいくと、「てこのつりあいと重心」について基礎から応用まで深化していく構成になっていて、それぞれの設問が次の問いへの導入にもなっています。ですから設問を飛ばしては解きづらくなります。また、問1からきちんと考えていかなければ正解できない問題が出題されることもあります。

世間からの注目が集まるなかで、毎年試験問題を作るというのは、先生方も大変なご苦労でしょう。しかし、そうした環境が洗練された問題を生むといえます。たとえば、武蔵の「おみやげ問題」は、現物まで先生自らが作られるそうです。解答は記述式ですから採点も大変でしょう。この「おみやげ問題」は長く続かないと思っていました。しかし、いまや武蔵の理科の問題の代名詞といえる存在となっています。このような問題を毎年出題することで、問題を作成する先生方は、どのようなことを問えばいいのかが鮮明になってくるのではないでしょうか。

もちろん御三家に限らず、他の学校も入試問題には力を入れています。武蔵の「おみやげ問題」のような問題を出題する学校も出できています。長文を読み切る力、論理的な文章を理解する力、計算力など、受験生に求めるものは学校ごとに違いますが、今後はより学校ごとに特色があり、よく練られた問題が増えていくと思います。

御三家に受かる子は何が違うのか

──御三家を受ける受験生は、どのような子たちですか?

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小川眞士

小川眞士

  • 専門家・プロ

小川理科研究所(東京都豊島区)主宰。都内の中学校教諭を経て、四谷大塚進学教室理科講師に。開成や桜蔭の特別コースを約25年間担当、コース生28人全員が開成中学に合格した実績を持つ。教務主任や副室長も務めた。2009年4月に小川理科研究所を開設。主な著書に、『中学受験 理科のグラフ完全制覇』(ダイヤモンド社)、『これだけ理科』(森上教育研究所スキル研究会)、『カンペキ小学理科』(技術評論社)がある。

水溜 兼一(Playce)

  • この記事の著者

雑誌・新聞の編集・ライターを経て、現在は、通信教育企業のキュレーションサイトや大学案内のライティングなどを担当。