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【後編】2022年中学入試 理科を振り返る ―― 理科入試全体の傾向分析|なるほどなっとく 中学受験理科

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2022年4月05日 水溜 兼一(Playce)

学習範囲が広く、難しいイメージがある理科の中学入試問題。難関校に多くの子どもを合格させてきたカリスマ講師・小川眞士さんが、子どもの理科力を育むためのヒントを伝えます。

2022年理科の入試問題の特徴を小川先生が解説します。前編では、化学、物理、生物、地学の各分野の傾向をお話いただきました。後編は全体の傾向を振り返ります。

テーマ、文字数、問題傾向……。昨年と変わった点は?

難関校の2022年の理科の入試問題について、文字数は平均5000字程度で、思考問題(単純な知識を尋ねる以外の問題)は約8割を占めました。問題構成は、物理、化学、生物、地学の4分野からバランスよく出題する学校が多く見られました。これらの傾向は前年と変わりはありません。

全体的な傾向として、身近な事象を取り上げた問題や、受験生にとって初見のテーマの問題が増えつつあります。

たとえば巣鴨中の気象の問題は「海風と陸風」がテーマでしたが、2020年3月に運用開始した羽田空港の新飛行経路を題材に、着陸経路に関する国土交通省のデータを踏まえながら考える問題が出題されました。

浦和明の星女子中では、立方体の容器の上面に穴を開けてストローを差し込んだ装置を使い、体積と温度の関係を考えさせる問題が出題されました。このような実験装置について小学校や塾で学んだことのある受験生は少ないと思います。

また、初見のテーマの問題はリード文の説明が長くなる傾向があります。

渋谷教育学園幕張中は、大問の一つで新型コロナウイルス感染症を扱いました。ウイルスとたんぱく質について図表を交えた長文が続き、この大問だけで5ページを割くボリュームになっています。

リード文が長い問題として、会話文を読んで問いに答えるタイプの問題も出ています。

開成中では、ドイツの化学者・オストワルドが、化学を学ぶ子どもたちに向けた書いた著書『化学の学校』から、先生と生徒の会話文が取り上げられました。渋谷教育学園渋谷中では、プリンターのインクについての親子の会話文を読んで答える問題がありました。どちらの会話文もかなりの文字数です。

いずれの問題も、リード文や会話文、図表をきちんと理解したうえで要点を把握し、データを整理しないと正解できません。このような問題は今年が初ということではありませんが、理科の入試問題は、「記憶していたものを思い出して答える」よりも、「理科の知識に基づいて考える」傾向がますます強まっています。

初見のテーマで文字数が多く、さらに図表やグラフが混じった問題は、文章読解力、図表を読み取る力、データ処理力、計算力など、理科を学んでいくうえで必要なさまざまな力を測れるため、今後も増えていくでしょう。

このような問題を確実に解くためには、過去問演習が大事です。その際には、たくさんの過去問をこなすよりも、一つの過去問にじっくり取り組む。つまり「量より質」を大切にしてください。

最初は解くのに時間がかかると思いますが、解答時間は意識しなくて結構です。内容をしっかり読み取れるようになると、次第に早く解けるようになっていきます。また、問題選びも大切です。たとえば女子学院中は例年、文章に図表を交えて深く考えさせる問題を出しています。開成中は、奇をてらったような問題はなく、一見易しそうに見えてよく考えないと解けない問題を出しています。2校だけを特筆するつもりはありませんが、良問に取り組むことも実力アップのカギになります。

初見のテーマが多いから、知識はそれほど重要ではないのか?

ほかに全体傾向の特筆すべき点として、各単元の基本事項や法則をきちんと理解できているかを問う問題が増えていると感じました。

知識事項を問う問題では、選択肢の中から該当するものを一つ選ぶのではなく、「正しいものを二つ選びなさい」「正しいものを全部選びなさい」「正しいものを選び、間違っているものについては正しく直しなさい」といった問題が目につきます。これらは基本的な知識を正確に身につけていないと正解できません。

知識事項については、学校の教科書に書かれていることをきちんと理解して覚えることが基本です。近年の傾向として、たとえば生物分野であれば、聞いたこともない動植物の名前などを答えさせる問題はあまり見かけませんし、そのような動植物がテーマの場合は、リード文できちんと説明されていることが多いです。

ですから、あれもこれもといろいろな動植物を覚える必要はありません。むしろ、教科書に載っているアサガオやヘチマ、ホウセンカなどについて、実物を見て発芽の様子やどのように葉や花がついているか観察したり、カブトムシやクワガタ、蝶などおなじみの昆虫のからだのつくりや成長の様子を調べたりして、深く掘り下げることが大事です。

法則をきちんと理解しているかを問うものとしては、横浜雙葉中の力学の問題が象徴的でした。テーマは振り子で、最初の小問は、振り子の重さ・振幅・長さと周期の関係について記述させる問題でした。法則自体は塾でも習いますが、文章できちんと書けるかが問われました。

少し話はそれますが、理科のさまざまな法則について、これまでの入試問題は法則を使ってどう問題を解くかに重心が置かれていました。しかし、理科の本質的なことを問う問題が増えていますので、今後はそもそもなぜこのような法則が成り立つのかを考えさせるような問題が出題される可能性があります(これはあくまで予測ですが)。法則の本質的なところを理解することは、いろいろな問題を解くときにも、もちろん役立ちますから、ただ法則を覚えるのではなく、「なぜ?」という視点を常に大切にしてください。

2022年の理科の入試問題を振り返ると、「知識を正確に理解する力」「文章と図表を読み解く力」「考える力」、そして「初見のテーマでも興味を持って取り組む姿勢」を身につけてほしいという中学校側のメッセージが感じ取れます。

理科の受験勉強は、とにかく知識を頭に詰め込んで、たくさん問題を解くことに終始しがちです。しかし、昨今の入試問題に対応するためには、学校の教科書を図鑑にしながら、身近な事象を理科的に考えてみることが大事です。受験までの道のりの中で、そのような時間をできるだけ多く取っていただきたいと思います。


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※記事の内容は執筆時点のものです

小川眞士
小川眞士 専門家・プロ

小川理科研究所(東京都豊島区)主宰。都内の中学校教諭を経て、四谷大塚進学教室理科講師に。開成や桜蔭の特別コースを約25年間担当、コース生28人全員が開成中学に合格した実績を持つ。教務主任や副室長も務めた。2009年4月に小川理科研究所を開設。主な著書に、『中学受験 理科のグラフ完全制覇』(ダイヤモンド社)、『これだけ理科』(森上教育研究所スキル研究会)、『カンペキ小学理科』(技術評論社)がある。

この記事の著者

雑誌・新聞の編集・ライターを経て、現在は、通信教育企業のキュレーションサイトや大学案内のライティングなどを担当。