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【後編】志望校、受験校をどう選ぶ?|なるほどなっとく 中学受験理科

専門家・プロ
2022年5月29日 水溜 兼一(Playce)

学習範囲が広く、難しいイメージがある理科の中学入試問題。難関校に多くの子どもを合格させてきたカリスマ講師・小川眞士さんが、子どもの理科力を育むためのヒントを伝えます。

中学受験で学校選びに悩む方は少なくないでしょう。数ある学校の中からわが子に合った学校をどのように選べばいいのか? 長年、受験生を指導されてきた小川先生に2回にわたりお話を伺います。後編は、大学付属校の選択や、同じ学校を複数回受験すること、さらに学校見学のポイントについて伺います。

前編はこちら

中学・高校時代は大学受験のためのもの?

──前回に続き、志望校の選定について伺います。大学付属校を選ぶことについてどう思われますか? 大学まで一貫で進めるメリットがある反面、途中で進路が変えづらいというデメリットもあると聞きます。

「付属校に行くと、大学まで進路が縛られる」と、中学入学の段階で心配する必要はありません。付属校ですから進学校に比べて大学との関係が深いことはありますが、いまは付属高校から大学への推薦入学権を保持したまま、他大学を受験し、不合格なら推薦入学権を行使できる、いわゆる「他大学受験」を認める学校も増えています。

また、もし他大学受験ができなかったとしても、子どもが自分の夢を叶えたい場合――たとえば、子どもが中高6年の学びを経て「医者を目指したい!」と本気で思ったとします。それで、付属の大学側に医学部が無いとしたら、その子は自分で医学部のある大学を受験したいと言いますよね。

ですから、付属校だから進路が狭まるといった見方はしなくてもいいと思います。中高と進んだら、子どもが自分の進路を自分で決める力をつけてほしいですよね。そういう意味でも、中学に入学したら親は今までよりも一歩引いて、子どもを信じて進路を見守る姿勢が大事ではないでしょうか。

──中学に入学したら親は一歩引いて子どもの進路を見守る姿勢が必要とはいうものの、中高の勉強はいい大学に行くため、と考えたくなる面はありそうです……。

たしかに、中学・高校時代は大学受験のためにあると考える方や、「中学受験で失敗したら大学受験でリベンジだ!」などと考えている方はいるでしょうね。しかし、私は中高の6年間をどう過ごすかは、子どもが主体的に決めるべきだと思います。

そもそも、中学・高校の学びは大学受験のためだけのものではありませんよね。この6年間の学びや経験は、子どもの人生にさまざまな影響を与えます。6年間で子どもに何を得てほしいかを踏まえて、志望校を検討することがベストです。

変化の速い現代は、6年後に世の中がどうなっていて、何が求められているかはわかりません。ですから、子どもが自分で興味関心を持ったものについて能動的に学んでいくしかなく、それができるほうが世の中に出たときに役に立つと思うんです。

──志望校選びの話に戻ります。第一志望校だけに絞って、同じ学校の入試を何度も受けるといったこともあると思いますが、こういった受験戦略について先生はどうお考えですか?

志望校を1校だけに絞るのはおすすめしません。公立校への進学を嫌って受験したとするならば、もし全て不合格になったとした場合、公立中学に進むことになるわけですから、それでも良いのかを考えるべきです。中学受験は、「地元の公立中に行かせたくないから受験する」というケースが多いですから。そうであれば、セーフティーネットとなる学校のことは親御さんが考えておくべきですね。

近年は「午後入試」も一般的になってきて、同日に2つの学校の入試を掛け持ちできます。ですから、どうしても志望度の高い学校に何度かチャレンジしたいという場合は、午前か午後のどちらかで安全圏の学校を受験しつつ、志望度の高い学校の入試を複数回受けるといった格好でしょうか。

──セーフティーネットとなる学校をどう設定すればよいですか?

志望校や受験校を考える際、親は偏差値の高い学校に目が行きがちです。しかし、子どもの成績は常に一定ではなくて波があります。その波がある成績のなかで、底だったとしても受かる確率が高い学校をひとつは選ぶべきというのが私の考えです。仮にその学校の偏差値が現時点で低かったとしても、その中学独自の教育があり、公立中学とは教育の中身が違います。

特に私立中学の場合は、学校の存続がかかっていますので、現時点で偏差値が低い学校なら、少しでも上げようとさまざまな努力をしています。たとえば英語であれば、高校卒業時までに英検準2級は最低限取らせるとか。そういったある意味手厚い学校は多くて、英検対策用の授業があったりします。ですから「偏差値が低い学校なんて……」と思うのは早計ですし、学校の中身をちゃんと見て判断するべきです。特に私立中学は変化が激しくて、5、6年の間に偏差値がグッと上がってくる学校も珍しくありません。

受験する学校は一通り見学したほうがよい?

──学校選びには、情報が欠かせないと思います。第一志望校だけでなく、受験する学校は一通り見学した方がいいですか?

コロナ禍前に比べてリアルに中学校を見学できる機会は減っていますが、機会があればぜひ一通り見学していただきたいです。学校説明会やオープンキャンパスのほか、文化祭などの学校行事が見られる学校もあります。近ごろは、各校ともホームページでさまざまな情報発信をしていますが、リアルな雰囲気を感じるのは必要です。訪れてみて、「この学校はうちの子に合う・合わない」といった直感も意外と大事なんですよ。中学校によっては入試問題の説明を行うところもあります。どのような問題を出題するか、主に何を問うか説明がありますから聞いておくと受験に大いに役立ちます。

──見学する際は、どんなところに注目すればよいでしょうか?

学校説明会では、どのように生徒を育てたいか、学校側から説明があります。教育方針に耳を傾けるのはもちろん大事ですけど、それ以外にも、子どもが入りたい部活があるかとか、グラウンドの使い勝手はどうかとか、プールの有無はどうか、といった子どもにわかりやすい点にも注目してほしいですね。

極端な話、勉強はどの学校でもするわけですから、それ以外の部分で子どもに合っているか、合っていそうかを見ていただきたいんです。学校行事以外だと、下校時の様子を見ると、生徒たちの規律がある程度整った学校なのか、自由で自主性の強い雰囲気の学校なのかが、そこそこわかります。学校説明会などの公式の行事は、自校の良い面しかアピールしないのですからね。普段の様子を見るのもよいと思います。

──小川先生は理科の先生ですが、理科教育という観点で学校を見るとしたら、どんな点に着目して欲しいですか?

そうですね……、実験設備が充実しているか、教員数や授業数が多いかといったことを確認するとよいと思います。基本的に学校側はまず英語、数学、国語の授業に力を入れるはずです。理科や社会を最優先という学校は、あまり見かけないですよね。このような状況のなかで、理科(社会)の授業が充実しているということは、学校として教育に余裕があることの表れのように思います。

それと理科は意外といい意味でのオタクの先生が多くて、それぞれご自身の専門領域を中心に理科学習の楽しさを熱く語られる方も多いんですよね。理科の授業をきっかけに、学ぶ楽しさに目覚める生徒もたくさんいます。学校を見学する際は、理科室の展示物などに目を向けてみると、特に力を入れている分野や先生のイメージが出ているものもあります。

それともう1点、地学の授業の充実度もチェックポイントです。中学・高校の理科は物理、化学、生物、地学の4分野に分かれていますが、なかでも地学は専任教員がいる学校が限られています。なぜなら、そもそも地学の専任教員になる方が少ないことに加えて、大学入試で地学を選択する学生も少ないからです。しかし、逆に考えると、このような状況でも、地学の専任教員がいる学校はある程度の余裕があり、理科教育に一層力を入れようとしていると考えられます。

──いろいろとお話を伺ってきましたが、最後に中学受験の成功とは何でしょうか?

第一志望に受かったから成功で、落ちたから失敗ということではありません。どの学校に行っても、その後の中高時代をいかに充実させられるかです。最終的に子ども自身がこの学校に進学して良かったと思えるかどうかですね。

極端な話ですが、社会に出たら「どこの中学(高校)を出ましたか?」と聞かれることは稀ですし、医者や弁護士など資格を取って仕事をしている人だったら、大学名さえ聞かれることは少ないです。ですから、どこの中学を出たかよりも何を学習したかが大切です。学校のブランドに頼らず、6年間を能動的に過ごして、社会で活躍できる人になってほしいですね。


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※記事の内容は執筆時点のものです

小川眞士
小川眞士 専門家・プロ

小川理科研究所(東京都豊島区)主宰。都内の中学校教諭を経て、四谷大塚進学教室理科講師に。開成や桜蔭の特別コースを約25年間担当、コース生28人全員が開成中学に合格した実績を持つ。教務主任や副室長も務めた。2009年4月に小川理科研究所を開設。主な著書に、『中学受験 理科のグラフ完全制覇』(ダイヤモンド社)、『これだけ理科』(森上教育研究所スキル研究会)、『カンペキ小学理科』(技術評論社)がある。

この記事の著者

雑誌・新聞の編集・ライターを経て、現在は、通信教育企業のキュレーションサイトや大学案内のライティングなどを担当。