連載 親子で疲弊しない「ノビノビ中学受験」

「中堅校入試」が難化している理由 ―― 親子で疲弊しない「ノビノビ中学受験」

専門家・プロ
2022年6月07日 やまかわ

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中学受験と聞くと、難関校を目指す受験がどうしてもイメージされます。しかし、そうではない、あるいはそのやり方に疑問をもつご家庭は少なくないでしょう。この連載では、『ゆる中学受験 ハッピーな合格を親子で目指す』の著者である亀山卓郎先生に、親子で疲弊しない中学受験をテーマにさまざまなお話を伺います。

夏期講習の申し込みが始まる6月。本番の入試を見据え、志望校探しに精を出している家庭も多いのではないでしょうか。わが子が合格できるか、今からハラハラしている親御さんも多いかもしれませんが、「ウチは中堅校志望なのでそこまで心配していない」という方もいるかもしれません。しかし実は、「中堅校」の概念がここ数年で大きく変化していることをご存知でしょうか?

“時代遅れ”な考えとならないように、中堅校の認識をここでアップデートしておきましょう。

中堅校入試は難化傾向に。その要因とは?

こちらでもお伝えしたとおり、2022年の中堅校入試は例年以上に難化しました。私の塾(進学個別桜学舎)の生徒しかり、首都圏模試で合格が十分に見込めた子でも、本番の入試が予想外の結果で大慌て……というケースも多かったようです。

中堅校入試が難化した理由としては、次の3つが考えられます。

中堅校入試が難化した理由

  • 難関校志望の子が中堅校を受験したから
  • 都内北部の受験熱が高まっているから
  • 「公立よりも私立」と考える家庭が増えたから

難関校志望の子が中堅校を受験したから

ひとつめの理由として挙げられるのが、偏差値70以上の最難関校志望の子たちが安全策をとり、1ランク低い偏差値の学校を受験するようになったことです。そして、そうした“しわ寄せ”を受けるかたちで偏差値60超の子たちも安全策にはしり、1段階低い学校を受験 ―― といった流れが広まりました。結果として、偏差値50~60の中堅校に多くの受験者が集まったのです。

本来は難関校に入学できる力をもった子が中堅校を受験すれば、合格最低点は当然ながら上がります。そのため例年であれば合格を十分に見込めた子が中堅校に落ちてしまう、といったケースが増えたのです。

こうした“中堅校人気”とも呼べる状況のなか、首都圏模試で偏差値50台の学校の多くが偏差値を1~2ほど上げています。なかには偏差値が8~10ほど伸びている学校もあり、特に「山脇学園」や「昭和女子大学附属昭和」「かえつ有明」の2022年入試には多くの受験者が集まり、これらの学校の偏差値はおおむね60オーバーとなりました。

このような変化もあり、「中堅校であれば確実に入れそうだね」とは悠長に言っていられない状況になっているのです。

都内北部の受験熱が高まっているから

都内北部の受験熱が高まっていることも、中堅校受験が難化している一因のように思います。その“ランドマーク的“存在と言えるのが、村田女子中学から改称し、2021年にリニューアルを果たした「広尾学園小石川中学」です。都内北部の学校はこれまであまり注目されてきませんでしたが、強いブランド力をもつ「広尾学園」を冠した広尾学園小石川の登場により、中学受験に対する意識が都内北部の多くの家庭で高まったのでしょう。

事実、ここ数年で偏差値の伸びが著しかった学校を見てみると、広尾学園小石川が位置する文京区や、そこに隣接する地域の学校が偏差値を軒並み上げていることがわかります。たとえば、京華(文京区)や、淑徳巣鴨(豊島区)、聖学院(北区)などが代表的です。一部、人気に陰りが見られる学校もありますが、全体的に見ると都内北部のエリアに注目が集まっているのは間違いないでしょう。

ちなみに偏差値が微増している桜丘(北区)は、2023年以降、偏差値を大きく上げる可能性が高いので注意が必要です。コロナ禍でいち早くオンライン授業を取り入れたことなどから多くの家庭の注目を集め、コロナ前は1学年2クラス編成でしたが、コロナ禍で5クラスに増やし、現在は学年によっては7クラスにまで増えているようです。2023年以降の入試では合格者数を絞ることも考えられるため、偏差値が急激に伸びるかもしれません。

「公立よりも私立」と考える家庭が増えたから

中堅校受験が人気を集める背景には、「公立よりも私立に行かせたい」と考える家庭が増えたことも影響しているように思います。

たとえば先ほど紹介した桜丘をはじめ、多くの私立中学がICT教育に力を入れています。一方で、公立中学ではまだまだ動きが遅いのが現状です。そしてコロナ禍もあり、私立と公立のこうした違いが浮き彫りとなりました。結果として、中学受験を考える親御さんが増えているのでしょう。

では、中学受験をする子がどのレベルの学校を受けているかというと、上位校ではなく、中堅以下の学校を受験する子のボリュームが厚くなっているように思います。これは私が多くの家庭と接していることからも実感していることですが、コロナの影響もあり、「最上位の学校を狙おう!」と息巻いて中学受験に参入してくる家庭は多くないんですよね。一方で例年であれば中学受験を考えなかった家庭が、「難関校でなくてもOKなので、引っかかりさえすればどこでも良いから入りたい」と考えるケースが増えているように感じます。

そのほか、公立の高校に進学するにせよ、私立高校に進学するにせよ、「中学で高い内申点を取らないと高校受験は厳しい」という認識を多くの家庭がもつようになったことも、中学受験を考える親御さんが増えている理由といえるでしょう。

塾選びは慎重に

“中堅校”に対する考え方を変えないといけない現状の中、特に中堅校志望の家庭の場合には「誰に受験をサポートしてもらうか?」といったことが今まで以上に大切な意味をもってきます。なぜなら「とりあえず大手塾に入れておけばなんとかなる」といった時代ではなくなってきているからです。

繰り返しにはなりますが、一昔前とは中堅校の概念が変わってきています。そうした中で家庭に必要なのは、現在の受験状況がどうなっていて、それぞれの学校の教育内容は具体的にこうで、“ふつうの子”がどう努力すれば憧れの学校に入れるか、といったことを冷静にアドバイスしてくれる人の存在です。

しかし現状としては、どこで情報収集をしたら良いかわからず、「とりあえず大手塾に入れておこう」と考える家庭が少なくありません。この場合、入塾前から勉強が好きで、学習の素養がある子は大手のカリキュラムについていけるかもしれませんが、そうでない子の場合は授業についていけなくなることも。「個別指導や家庭教師も追加してみよう」と考える家庭も少なくないですが、結果として子どものエネルギーが切れ、勉強がますますキライになる……といったこともよく見られる光景です。

こうした事態を避けるためには、情報に踊らされず、まずは「自分の子どもにとって良い塾はどこか」といった視点で塾を選ぶことが欠かせません。具体的には「塾長が親身に話を聴いてくれるか?」「この塾だったらわが子を安心して任せられそうか?」という視点をもとに塾を探してみてください。

ちなみに地域に根差した中規模・小規模塾は面倒見が良い傾向にありますが、その実態はさまざまです。そのため親御さんには、上辺だけの情報に惑わされることなく、気になった塾をご自身の目で一つひとつ確かめつつ、親子ともに居心地の良さを感じられる塾を冷静に選びとってほしいと思います。

情報を見極める「目」をもとう

コロナ禍もあり、例年以上に注目を集めている中堅校受験。たしかに偏差値の高まりや、受験者数の増加は中堅校では顕著です。ただし、入りにくくなっているだけで、各学校が大事にしている教育方針や、入試問題の難易度などは大きく変化していません。

大切なのは、情報を常にアップデートしつつ、一方で変わらないものもあるといった意識でいること、つまり「バランスの良い視点」をもつことです。私の塾でも、中堅校の競争が激化している状況を受け、通常より子どもたちが1~2問多く正解できるような働きかけは意識していますが、基本的な知識を固めることが中堅校合格を目指す上では必須、ということはこれまでと同じく口酸っぱく伝えています。

変わるものと、変わらないもの。それらを冷静に見極めつつ、親御さんは子どもが進む道を指し示す“道しるべ”であり続けましょう。

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※記事の内容は執筆時点のものです

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