連載 親子で疲弊しない「ノビノビ中学受験」

「ゆる中学受験」の極意。「中受をしてよかった」と思えるようにするために ―― 親子で疲弊しない「ノビノビ中学受験」

専門家・プロ
2022年6月21日 やまかわ

中学受験と聞くと、難関校を目指す受験がどうしてもイメージされます。しかし、そうではない、あるいはそのやり方に疑問をもつご家庭は少なくないでしょう。この連載では、『ゆる中学受験 ハッピーな合格を親子で目指す』の著者である亀山卓郎先生に、親子で疲弊しない中学受験をテーマにさまざまなお話を伺います。

こちらの連載が始まって、はや3年。「難関校を狙わない中学受験とは」が2019年の7月に公開されてから、ここまで72本の記事をお届けしてきました。長きにわたる連載でしたが、今回でひとつの区切りを迎えます。ここまでご愛読いただき、本当にありがとうございました。

最後は、これまでの連載のまとめの意味もかねて、過去の教え子たちとの悲喜こもごもを振り返りつつ、「ゆる中学受験」を成功させるためのポイントを凝縮してお伝えしようと思います。「ゆる中学受験」の考え方については以下の記事でも紹介していますので、あわせてご覧ください。

受験を理由に、諦める必要はない

私は、「何かを諦めて中学受験をするのは違う」といった思いを強く抱いています。その考えを「ゆる中学受験」というコンセプトを通してお伝えしているわけですが、事実、私の教え子の中で受験勉強と習い事を両立した子は少なくありません。そして勉強と、そのほかの活動の両方に全力投球できる子は、志望校への憧れ、いわゆる志望校LOVE」にも似た気持ちをもっているケースが多いものです。

たとえば「中学でも野球に打ち込みたい!」という気持ちから、志望校合格に向けて両立を果たした男の子。彼は6年生の12月まで野球を続けていたこともあり、土日は勉強する時間がほぼ取れませんでした。一方で「中学で野球を続けるために、平日は一生懸命勉強する」という意思が揺らぐことはなく、ひーひー言いながらも休まずに塾に来て、授業にも楽しそうに参加していました。結果として第一志望校に合格し、憧れの環境で今でも野球を続けているようです。ほかにも私の塾(進学個別桜学舎)には、楽器やバレエ、演劇などに打ち込みながらも、ひたむきに受験勉強を続け、憧れの学校への切符をつかみとった子が大勢います。

覚悟と努力は必要

中堅校の受験を考えている場合、各科目の基礎をしっかりと押さえれば、習い事や趣味と勉強を両立しながら合格を狙うことは可能です。もちろん基礎を完璧にすることは簡単ではないですし、親子ともに相当な覚悟は必要です。

なかには、手を抜いて合格を目指す、“ぬるい”中学受験 ――「”ぬる”中学受験」と勘違いされる親御さんも少なくないですが、やるべきことをきちんとやる、当たり前のことをきちんと積み重ねた上で受験に臨む、という「“ゆる”中学受験」は、むしろ一般的な中学受験よりも大変です。

それでも私が見てきた限り、「この学校にどうしても入りたい!」という強い気持ちや、「わが子にこんな教育を受けさせたい」という思いがブレない家庭は、たとえ忙しい毎日であっても笑顔で乗り越えている様子が見られます。そしてこれこそ、「ゆる中学受験」を志す親子に目指してほしい姿です。

努力と素直さがあれば、乗り越えられる

毎年、中学受験にはさまざまなドラマが生まれます。涙あり、笑いありの受験生活を私も共に闘ってきましたが、なかでも思い出深いのが、ひとりの女の子とのエピソード。受験生のお手本となるような子なので、少し紹介しますね。

その子の偏差値は、小6の4月時点で40前後。「どうしても行きたい!」と言っていた志望校とは、偏差値が20近く離れていました。しかしこの子には、わからない問題があったら必死にくらいついてくるガッツがあったんです。何度説明しても「わからない!」の一点張りで、ときには悔しさから涙を見せることも。「自分で考えなさい!」と押し返したこともありましたが、それでも質問に来る。特に入試直前の2ヶ月は講師室から離れようとせず、そこには諦める様子は微塵も感じられませんでした。

その後、12月の模試では偏差値が59に達しましたが、第一志望校にはわずかに届きません。それでも努力する姿勢をゆるめず、ついに入試本番がやってきました。1日目の午前は本命の中学を、午後は第二志望の学校を受け、どちらも不合格。塾で涙を見せていましたが、「今日合格した生徒は、明日の入試には来ない。明日のほうがチャンスがあるから頑張ってこい!」と励まし、彼女を送り出しました。

諦めない気持ちが引き寄せた「補欠合格」

そして迎えた、2日目の入試。第二志望校を再度受験し、ようやく合格を勝ち取りましたが、第一志望校の2回目・3回目の入試は不合格。その子のご両親は「第二志望に受かっただけでも万々歳です」と、すでにその学校の入学金を払い、制服も仕立て、塾にも挨拶に来てくれました。

その後、急展開を迎えたのはその日の午後。「第一志望の学校から繰り上げ合格の連絡がきました!」と、お母さんが塾に飛び込んできたのです。補欠合格とはいえ、ずっと憧れていた中学校。「すでに30万円ほど入学金は払ってしまったけど、子どもが希望していた学校に行けるなら安いもの」という親御さんの考えもあり、晴れて第一志望校への入学が決まりました。

ちなみに補欠合格となったのは、3回目の入試。その回の偏差値は、およそ64でした。1年前は40前後だったことを考えると、本当によくがんばったと思います。この合格は、最後まで諦めない「ひたむきな努力」が引き寄せた結果です。そして私たち講師からの教えを忠実に守るような子だったこともあり、その「素直さ」も合格をたぐり寄せた要因といえるでしょう。

いま思い出しても、本当にしつこい子でしたが……(笑)。それでも、努力と素直さ、そして憧れの学校への強い気持ちがあれば、難しい局面であっても打開できる。まさに「ゆる中学受験」を体現するような子であったことは間違いありません。

“考えられない子”を育てていないか?

私は常々、中学受験は「親の受験」と伝えています。子どもに私立に進んでほしいから中学受験を始めた、というケースも多々ありますし、親主導で進めること自体は決して悪いことではありません。ただし、過保護になるのは禁物。親がエサをくれるのをただ待っている“ひな鳥”の状態では、子どもはいつまでたっても自立して勉強できないからです。

ちなみに「親に勉強をやらされている」と愚痴をこぼす子もいますが、「親の言うことを聞いて中学受験をする、って決めたのは自分だろ!」と、私は叱っています。いずれにせよ、「自分で考えて決める」という経験を積んでいない、またはそうした教育を受けていない子は、いつまで経っても他人任せ。これでは人間的にも成長していきません。そして親がなんでもかんでも口を出してしまうことで、こうした“考えられない子“を育ててしまっているケースは少なくないのです。

親は勉強を教えなくていい

こちらの連載でも繰り返しお伝えしてきましたが、親御さんは子どもに勉強を教えなくて大丈夫です。子ども自身が考えることをやめてしまい、むしろ成長がストップしてしまうからですね。

そもそも「過保護」と「良いサポート」は紙一重ですが、その差を分けるのは、親のアシストを受けることで子どもが成長できるかどうか。本人が考えるべきことを親が代行していては成長できませんが、モノゴトを効率的に考えられるような手助けは子どもの成長を大きく後押しします。

つまり親御さんに必要なのは、勉強しやすいような環境を整えてあげること。芸能人の「マネージャー」をイメージしてみても良いでしょう。その点、素晴らしいサポートをされていた親御さんに共通していたのは、「これ以上やらないでください」と塾からお伝えしたことは守る一方で、以下に例として挙げているような「管理」は徹底していた、ということです。こうしたお母さん・お父さんを親にもつ子は、総じてイキイキと勉強を続け、合格を手にしていきましたね。

親御さんのサポート(例)

  • 難しい問題を前にして子どもが悩んでいる様子が見られたら「塾の先生に聞いてきてごらん」と促してあげる
  • わからなかった問題の写真を撮った上で「うちの子がこの問題について質問に行くと思います」とあらかじめ塾に連絡をする
  • テキストを拡大コピーして宿題を解きやすくしてあげる

「原点」に立ち返る

最後にこれだけはお伝えしたいのが、「誰の、何のための受験なのか?」といったことを受験期間中に何度も思い出してほしい、ということです。そのために「受験ノート」をつくっておくことをおすすめします。

具体的には、次のような内容をノートに記しておきましょう。

  • 受験のコンセプト
  • 「ゆる中学受験」を志した理由
  • どんな中高生活を送ってほしいか
  • 理想的な生活を送れる学校はどこか

受験生活を続けていくと、当初の目的を忘れ、方針がブレてしまうことは良くある話です。どこの中学も受からなかったら恥ずかしい、ママ友にバカにされたくない ―― といった親自身の見栄やプライドから「偏差値が少しでも高い学校を目指すこと」などを優先してしまうケースも少なくありません。しかしこのような状況にあっても、手元にノートがあれば「受験の目的」をいつでも再確認できます。親子にとって最善の道に向け、再び舵を切ることもできるでしょう。

実際、受験を終えた親御さんから次のようなお手紙をいただいたこともあります。

受験ノートを見返して、何度救われたかわかりません。子どもにはノビノビと中高生活を過ごしてほしくて受験をさせた、ということをあのノートを見るたびに思い出し、気持ちを入れ直すことができました。

中学受験の情報は色々飛び交っているので、考えがブレてしまうのは仕方ありません。でも、受験を始めたころの気持ちに立ち返ることは何度でもできるはずです。「受験のコンセプト」を点検すること、そして悩んだときは受験の目的に立ち返り、軌道修正をはかっていきましょう

迷ったら、まずは行動に移そう

私自身、これまで多くの子と接してきましたが、お気に入りの学校を見つけ、その学校から合格を勝ち取った子は入学後もノビノビと毎日を過ごしています。「中学は楽しい?」って聞くと、「本当に楽しい!」と笑顔で答えてくれる子も多いんですね。

もちろん、中学受験は簡単ではありません。壁にぶつかることや、悩むことも多いでしょう。それでも、中学受験をする価値はあります。そして受験をはじめた目的を忘れず、最後まであきらめない強い気持ちがあれば、受験生活は乗り越えられます。

「あのとき中学受験をして良かった」と思い返せる日が来るためにも、迷ったらまずは行動に移すことも意識してみてください。黙って机の前に座っていても、いいアイデアは生まれません。「行動しなさい! 変わりなさい!」と子どもを叱ったところで、彼ら・彼女らはまだまだ小学生です。まずは、親御さんが立ち上がりましょう。そして周囲のサポートも頼りつつ、これからも力強く歩んでいきましょう!

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これまでの記事はこちら『親子で疲弊しない「ノビノビ中学受験」

※記事の内容は執筆時点のものです

亀山卓郎
亀山卓郎 専門家・プロ

かめやま たくろう|明治学院高等学校、成城大学卒業。大手塾・個人塾などで教務経験を積んだ後、2007年に転居のため千葉県及び江戸川区の塾を閉鎖し、台東区上野桜木で「進学個別桜学舎」をスタート。首都圏模試の偏差値で60を切る学校への指導を専門に「親子で疲弊しないノビノビ受験」を提唱している。第一薬科大学付属高校上野桜木学習センター長。YouTube「下町塾長会議」構成員。著書「ゆる中学受験ハッピーな合格を親子で目指す」(現代書林)、「めんどうな中学生(わが子)を上手に育てる教科書」(ブックトリップ)、構成・問題監修「LIZ LISA Study Series中1/中2」、監修「おっぱっぴー小学校算数ドリル」(KADOKAWA)

この記事の著者

編集・ライター。学生時代から都内で6年間塾講師を務める。塾講師時代は、おもに作文・国語・英語の科目を担当。小学生から中学生までの指導にあたる。現在は編集・ライターとして教育関連をはじめ、街歩き・グルメ記事の執筆取材をおこなう。