中学受験ノウハウ 連載 中学受験との向き合い方

子供の集中力を育むうえで考えたい、3つの「間」とは? ―― 中学受験との向き合い方

専門家・プロ
2022年8月05日 やまかわ

首都圏の一部では、4人に1人の小学生が挑戦するともいわれる中学受験。子供の受験に親はどう向き合えばよいのでしょうか。この連載では、『中学受験は挑戦したほうが100倍子供のためになる理由』の著者である、田中純先生に中学受験との向き合い方をテーマにさまざまな話を伺います。

学習効果を上げるには「この単元はある程度自信がついたから、今度は苦手な単元に取り組んでみよう」という意思を自発的に持ち、学習内容を決めることが大事です。戦略的に勉強を進めるためには、得意科目はもちろんのこと苦手科目にも逃げずに向き合う集中力が必要になります。今回は、集中力とはどんなものかを考え、次いでお子さんに集中力を発揮してもらうためのヒントを考えます。

集中力を構成する「推進力」と「操縦力」

私たちが普段用いる「集中力」という言葉。この要素を私なりに分解してみると、「推進力」と「操縦力」の2つの要素に分けられると思います。車で喩えるならば、「エンジン」と「ハンドル」です。

「推進力」は文字通り、前に進む力ですが、その源泉になるのは「うれしい」とか「楽しい」といった快感です。これが駆動すると、まるで川の流れに乗るような感覚、いわゆるフロー状態になって、どんどん流れに乗って勉強に取り組んでいきたくなる、そんな気持ちになります。

もうひとつの「操縦力」は、今必要なことに集中しつつも、状況によって意識的に別のことに集中する力です。アクセルを踏みっぱなしにして、とにかく直進するのではなく、ときにはブレーキを踏んだり、ハンドルを切って方向転換したり。何かを成し遂げるためには、自分の目的がどこにあるのかを念頭に置いて、自分自身を操縦する力も求められます。

では、この「推進力」と「操縦力」で成り立つ集中力は、どのようにして育むことができるのでしょう。意識したいのは3つの「間」です。

「時間」「空間」「人間」の3つの間

集中を左右する3つの要素。それは「時間」「空間」「人間」の3つの「間」です。それぞれを意識して、わが子の集中力をどう伸ばしていくか。親御さんの上手なサポートが必要となります。

時間 ―― その時間、懸命になることと勉強と休憩の時間配分

3つの「間」のひとつめは「時間」です。

子どもたちが時間を忘れて夢中になるものとして、ゲーム・漫画がありますね。ゲームや漫画には快感につながる要素が散りばめられています。そのため、長い時間集中して没頭できることがあります。しかし、ある種の苦しみを伴う行為の場合、長い時間集中するのは難しくなるでしょう。

たとえば「苦手科目を60分勉強するのが難しい……」というお子さんは、少なくはないはずです。そんなとき、「あなたは全然集中力がないんだね」などと、厭味を言ったり、怒ったり、詰(なじ)ったりするのは、子供の集中にとっては逆効果です。「やっぱり、この科目は苦手だな」とか、「自分は集中力がないんだな……」と、後ろ向きな気持ちがムクムク育って、勉強に対する意欲が萎えてしまうからです。

そういった言動ではなく、ここでしてほしいのは、「OK。じゃあまずは20分間、この科目に取り組んでみようか」といった、明るい声掛けです。そして、その子にとって集中しやすい時間の長さを、共に探してあげることです。20分というのはあくまでも例えばの話で、集中するのが難しい子であれれば、時間を短くしてもらっても構いません。

そして、その時間になったらその時間の中身について、親子で振り返ります。仮にお子さんから、「答えは出せなかったな……。途中までは一生懸命考えたんだけどね」という言葉があったら、「そうかぁ。一生懸命、いいね。答えは出せなかったけれど、20分間あきらめずに一生懸命挑戦し続けたんだね」と、まずは頑張りを肯定してあげましょう。この20分は時間的には「一生懸命」というより、「一所懸命」のニュアンスですが、それは些末なこと。「20分であってもそこに命を懸ける」 ―― これは集中以外の何物でもありません。

このような声掛けをすることで、子供は集中がどういった状況かを少しずつ理解します。「自分は集中できた」とか、「苦手なことも、この制限時間だったら、集中できたかも」といった前向きな感情も生まれやすいです。この「できた」や「できたかも」という体験は、ひとつの快感です。こういった経験を積み、もしもお子さんが慣れてきていたら、学習の時間を徐々に長くしていきましょう。

ただし、勉強は「我慢比べ」ではありません。チンプンカンプンな状態に、ただひたすら長時間耐えるだけ試練は、害があっても利は期待できません。じっくり考えたり、いくつかの方法を試したり、習熟のための反復だと理解したうえでの集中であれば、ある程度の苦痛に耐える意味はあります。

また、集中したあとには休息(リフレッシュする時間)を取り、エネルギーを補うことも忘れてはいけません。お菓子を食べたりジュースを飲んだりといった脳に糖分を送ることも大事ですが、時間を区切ってゲームをしたりマンガを読んだりと、子供にとって“甘みのある時間”をつくることも気分転換になります。もちろん、中途半端な休息にならないように時間は決めておきましょう。「休憩時間終了まで残り10分だからここで1回ストレッチをしておこうかな」、「あと5分で勉強再開だから一回顔を洗ってこようかな」というような、時間配分を意識する習慣が身に付いたらしめたものです。

空間 ―― その空間に「気持ちよさ」はありますか?

意識すべき「間」のもうひとつは、勉強をする際の「空間」です。五感に合わせて考えてみましょう。

たとえば、お子さんが勉強中に、親御さんが隣で楽しそうにテレビを見ていたとします。仮にお子さんが苦手な勉強を我慢しながらやっている場合、「お母さんはこんなに楽しそうなのに、どうして私ばかりこんな苦痛を味わわないといけないの!」と思って気持ちが萎えてしまうこともあるでしょう。五感に入ってくるこうした不快感を極力取り除いて、勉強する本人がその空間に気持ちよさを見出せるようにすること。これも親のサポートのひとつだと思います。

ほかにも、たとえば音楽がありますね。無音のほうが集中できるという人もいれば、音楽を聞くことで集中力が出てくるという人もいます。暗記系の科目のときに聞いたほうがいいのか、計算や作文などの際に聞いたほうがいいのか、そのタイミングも人それぞれです。イヤホンで聞くのかスピーカーで聞くのかというところでも、好き嫌いは分かれてくるかもしれません。

視覚で考えるならば、目線の高さも集中力に影響します。姿勢を正して座ったとき、机に広げた教科書がストレスなく読めるよう調節したいところです。このほかにも疲れたときに、ふと机から視線をずらした近くの場所に、心の栄養が得られる視覚的情報を配置しておくのもいいと思います。家族写真や好きな芸能人の写真、座右の銘などを貼っておくのもよいでしょう。

臭覚も忘れてはいけません。アロマテラピーでは集中力アップ効果が期待できる精油が紹介されています。テキストやネットで情報を得てお試しになっても悪くありませんが、留意すべきは「香りの好みはそれぞれで、嫌いならやめておく」ということです。

人間 ―― 感情をコントロールして子供を導く

もうひとつの「間」は、「人間」です。

子供が集中力を阻害されがちな要因のひとつが、「親のイライラ」です。親御さんに「全然集中してないじゃない!」とか、「やる気あるの⁉」と声を荒げられるのは、子供からすると脅威で不安全です。怒っている親から離れたくなったり、その場をごまかそうと考えたりと、目の前の問題に向き合うことが難しくなってしまいます。このように、自分自身にネガティブな視線・感情を向けてくる人間が身近にいると、人はやることに集中できなくなってしまうのです。

とはいえ、親御さんだってイライラしてしまうことはあるでしょう。でも、大人ですから自分の感情は自分でコントロールしたいところです。もし、そうなってしまったときには、気持ちの余裕を回復させるために、(できれば明るい)ため息をついてリラックスするとか、親子でひと休みしてお茶をしたりして、緊張度をひと目盛りでも、ふた目盛りでも緩める工夫をしましょう。言うまでもありませんが、子供の目の前でのため息は嘆息(たんそく)と捉えられかねません。子供に見えないところでため息をつくか、子供を誘って一緒に「盛大に明るく」ため息をつきましょう。その後でクスクスと笑いが漏れるようであれば、ヒットです。

そうして緊張が解けて、少し落ち着きを取り戻せたら、「私は目の前にいるわが子にどう育ってほしいのか?」を考えてみてください。きっと「そもそも、この子に幸せな人生を送って欲しいんだ」とか、「自立して一人前の大人になってほしいんだよな」といった想いがあることに気づくはずです。「この子が立派な大人になるために、今勉強を頑張っているんだから」と考えることができれば、懐の深い状態でゆとりを持ってお子さんに接することができることもあるでしょう。

気持ちを整えることができたら、あらためて勉強しているお子さんの横に寄り添ってみましょう。「この子には今、この問題がどう見えているんだろうか」とか、「今どんな気持ちで勉強しているんだろうか」といったように、子供の気持ちに思いを馳せてみてください。苦手科目の勉強はやっぱり集中しにくいものです(われわれ大人もそうですよね)。そんなときは、がれきの中から親子で一緒に宝探しをするような感覚で、その分野でできていること、理解していることをもう一度探し直すところから始めましょう。

「理解していること」「理解していないこと」の境目が見えたら、今度は理解している範囲を少しずつ広げていきます。問題に対して理解不足の様子が目立つときは、学習内容をひとつ遡ってみましょう。「お、ここまではわかっているんだね!」という部分が見えたらそこでプラスワンです。「じゃあ、もうひとついってみよう」と言って、少しずつ新しいことを足した問題を出してみる。こうしたサイクルを繰り返すなかで、「やればできる」「やってできた」という気持ちをお子さんが持つことができれば、苦手意識はだんだん緩和してくるはずです。

また、目の付け所を指南する ―― つまり、「どこに集中するか?」を教えてあげることも、集中の操縦法上達に役立つでしょう。漠然と「勉強に集中する」ことの焦点を、絞って絞って絞る。すなわち、「この問題の、どこのどこのどこ」に集中するのかを、ピンポイントで示してあげるのです。これって、テレビの天気予報の常套手段ですね。「明日の天気のポイントは3つです」と伝えることで視聴者の認知のターゲットを3つに集めるのです。

 

勉強における苦手分野というのは、薬に似ています。人間は苦みを毒だと思いますから、苦手なものを避けたくなります。ただ、その苦い薬を「糖衣錠」にする ―― 甘いものでくるめば飲みやすくなりますよね。このように考えると苦手科目の勉強も、苦味を“甘美なもの”で包むという工夫ができると思います。たとえば、お子さんの取り組みをありのまま肯定的に認めたり、ときには思いっきり称賛してあげたり、ご褒美なんかをあげたりして心に糖分を与えることです。

そうやって、苦手分野と向き合うことに慣れていきます。そして、自分は「できる」「できるかも」「できた」という経験を積むことで、「この薬は苦いけど自分のためになるんだなぁ」ということも徐々にわかってくるでしょう。苦手分野と向き合うことは自分の役に立つ、と理解できれば、誰かに促されずとも自発的・主体的に取り組めるようになるかもしれません。

集中力を育むということ

「本当に集中している状態って、せいぜい15分程度」

人によっては、こういう言い方をされる人がいます。たしかに嫌なことに対して、他者から強制力で集中しているケースではそうなのかもしれません。しかし、好きなことや興味・関心があることであれば、15分どころじゃなくて半日ずっとそれにのめりこんでしまう、「やめられない、止まらない」モードに入ることがありますよね。

今回は中学受験に限らず、小学生のお子さんを持つ親御さんたちのことを鑑みて一考しましたが、とりわけお子さんが低学年のうちは、何かに夢中になる「推進力」、すなわちエンジンを育む体験をたくさんしてほしいです。自分をコントロールする「操縦力」、すなわちハンドルの操縦方法は、そこから小学校高学年にかけて学ぶこと。時間・空間・人間の3つの「間」を意識して、お子さんの集中力を育んでいきましょう。


これまでの記事はこちら『中学受験との向き合い方

※記事の内容は執筆時点のものです

田中純
田中純 専門家・プロ

開成中学校・高等学校、国際基督教大学(ICU)教養学部教育学科卒業。神経研究所付属晴和病院、中高教諭、学校カウンセラーを経て公文国際学園開講準備に参加。現在は赤坂溜池クリニックやNISE日能研健康創生研究所、コミュニティ・カウンセラー・ネットワーク(CNN)などでカウンセリングやコンサルテーションを行っている。相性はDon先生。著書「ストレスに負けない家族をつくる」「中学受験は挑戦したほうが100倍子供のためになる理由」(みくに出版)。公式YouTubeはこちら

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この記事の著者

編集・ライター。学生時代から都内で6年間塾講師を務める。塾講師時代は、おもに作文・国語・英語の科目を担当。小学生から中学生までの指導にあたる。現在は編集・ライターとして教育関連をはじめ、街歩き・グルメ記事の執筆取材をおこなう。