中学受験ノウハウ 連載 書籍『やってはいけない塾選び』杉浦由美子さんに訊く

難関校合格実績が高い塾はなにが違う? 難関校・中堅校それぞれの特徴を踏まえた塾選びのコツ 書籍『やってはいけない塾選び』杉浦由美子さんに訊く#3

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御三家などの難関校の合格実績が高い塾といえば、サピックスを思いうかべる人も多いでしょう。

ところが 『中学受験 やってはいけない塾選び』(青春出版社)を読むと、サピックスを凌ぐ合格実績を誇る中小塾がいくつも紹介されています。

グノーブル、エルカミノ、エクタス、アントレ、スピカといった塾です。これらの塾は、ほかとどう内容が違うのか。難関校対策と中堅校対策の違いを踏まえたうえで、塾選びにはどう活かせばいいのか。

何十もの塾を直撃取材した、著者でノンフィクションライターの杉浦由美子さんに訊きました。

書籍『中学受験 やってはいけない塾選び』

「難関校」とは?「中堅校」とは? 出題傾向はどう違うの?

――中学受験を描く漫画『二月の勝者』(高瀬志帆・小学館)には、塾における難関校の合格実績は「運で決まる。地頭がいい生徒が入ってくるかどうかだ」という趣旨のセリフが登場します。これに杉浦さんは共感しますか?

難関校対策が得意な塾は存在する

「中学受験の勉強に向いている子」が入ってくるか否かは、合格実績をあげることの大きな要素ですが、それだけではありません。

サピックスの入室テストの合格に必要な学力のハードルは全然高くないですし、それはグノーブルも同じです。アントレは入塾テストすらやっていません。

それでも、難関校の合格実績が高くなるのは、やはりその塾が難関校対策に長けているからです。

難関校と中堅校を分けるのは偏差値60のライン

――『やってはいけない塾選び』の中でも、「難関校対策と中堅校対策は違う」と書かれていますね。何がどう違うかが気になりますが、その前にまず、「難関校」と「中堅校」という言葉の定義を、改めて教えてください。

中学受験のテキストの二大メジャーは栄光ゼミナール『新演習シリーズ』と四谷大塚の『予習シリーズ』です。

『新演習シリーズ』は、四谷大塚の模試偏差値60までの学校の対策に対応しています。いっぽう、『予習シリーズ』は中堅校から難関校までの対策ができます。

このように、難関校と中堅校を分けるめやすとなるラインは、偏差値60だと考えてください。

偏差値60を超えると、出題内容が難しくなる

たとえば、近年人気が高まり、偏差値も上昇している洗足学園中学校

かつて偏差値が60アンダーだったころは、算数では基本的な問題しか出題されず、私でもすらすら解けました。しかし、今は御三家に並ぶ偏差値になっているためか、問題が難しくなっていますね。

中堅校から難関校に変換したわけです。

偏差値60を境目に入試問題の傾向は全然変わってくると思います。

難関校の受験対策と中堅校の受験対策は何が違う?

――それでは、難関校対策と中堅校対策は、具体的にどう違ってくるのですか? 中堅校でも、問題が難しくなっているとよく言われます。中学受験の中心は算数なので、算数のお話をしていただけると幸いです。

中堅校対策は、過去の入試問題を学ぶことが効果的

「かつて開成で出た問題が、今では中堅校で出る」といった記事をインターネットなどで見かけたことがあるかもしれません。

ただ、これは、「今の中堅校が、かつての開成中学校と同レベルの難問を出すようになった」という話ではないんです。

難関校は、新しいタイプの問題をどんどん作り出していきます。難関校が新しいタイプの問題を出題してしばらく経つと、今度は中堅校が同じような問題を出すんです。

つまり、中堅校は基本的に「どこかで見た問題」を出すことが多いんです。

そのため、中堅校対策としては、過去の中学受験で出題されたことのある問題を解いておくことで、合格に近づきます。その分、対策しやすいということにもなります。

「新しい」から「難しい」、難関校の入試問題

ところが、先に述べたように、難関校は「見たこともないような新しいタイプの問題」を出します

『二月の勝者』では、旅人算の問題をダイヤグラム……グラフ化し、図形的に解くシーンがあります。つまり、一見、「旅人算」なのに、実は「図形」の問題なんですよ。

こんな風に、「○○に見せかけて実は△△」といった問題が多いのが、難関校の問題の特徴です。パズルクイズの難問っぽいといいますか……。

難関校の出題傾向に有効な対策は「手玉を増やす」こと

――見たこともないような新しいタイプの問題……それを、難関校の受験生は解かなくてはいけないとなると、確かに大変ですね。実際に、そういう難問を解けるようになるためには、どんな対策が効果的なのでしょう?

「○○に見せかけて実は△△」の「実は△△」を見つけるためには、一つの問題を多角的にみて、複数の解き方で解いてみるトレーニングが必要です。

先ほど述べたように、旅人算も視点を変えたら図形の問題になる。でも、普通の旅人算の解き方でも、解けないことはないです。

ある大手塾の幹部は、難関校対策に必要な要素として、「手玉の多さ」という表現をしました。

ひとつの問題に対してひとつの解き方ではなく、複数の解き方を思いついて、実際に解いていく根気のよさ。それが、難関校が受験で問うてくる「思考力」なんです。

難関校の合格実績が高い塾は、この「手玉」を多く教えていくんですよ。

難関校対策塾の授業光景は想像よりずっと賑やか

生徒に教える手玉の数が多い塾ほど、難関校の合格実績が高くなる傾向があります。

それも、講師が一方的に教えるのではなく、生徒たちに「こういう解き方があります!」「いや、僕はこうだと思います!」と、意見を出させていく形式が多いんです。

だから、実は難関校に対策する上位クラスほど授業はうるさくなりがちですね。

同じ理由で、難関校対策は集団授業が適しているといわれています。

今、個人指導塾だけで受験対策をするケースも増えてはいます。でも、仲間がいれば議論ができますし、その方が記憶に残りやすい。

多角的に問題を捉え、複数の解き方を試すうえでは、やはり集団塾のほうがいいんです。

難関校対策に特化した塾を選ぶリスクとは?

――聞けば聞くほど、難関校を受けるためには、難関校対策に長けた塾に通う必要があるように感じます。逆に、難関校対策が得意な塾のデメリットはありますか?

御三家に受かるような子は確かに元々勉強が得意ですが、トレーニングの仕方によって、結果は全然違ってきます。

子どもをどうしても難関校に入れたいというのであれば、やはり、そこに狙いを定めた塾に入れることはありなのかもしれません。

でも、中学受験は実際にやってみないと、子どもがどこまで伸びるかわかりません。サピックスのα1クラスから御三家に進学した生徒でも、最初は下のクラスだったということは多々あります。

難関校に特化した塾に入れると、思ったほど偏差値が伸びず「偏差値58ぐらいの中堅校が第一志望」となった場合、その塾では苦戦するリスクも考えるべきでしょう。難関校対策に強い塾の中には、偏差値60アンダーの生徒を放置する塾もあります。

そのあたりをよくわかっている保護者は「仮に中堅校を狙うことになってもちゃんと面倒を見てくれる塾」を選び、四谷大塚や日能研といった大手塾に入塾させる子ことも多いです。

もちろんその選択にもデメリットはあり、テキストやメソッドが難関校対策のみに最適化されてはないから、「何がなんでも筑駒に入れたい」という場合は不利になる可能性もあります。

塾の得意・不得意を把握せず、説明会の印象の良し悪しで塾を選ぶ保護者も多いのですが、入塾後のことを想像してから塾を選ぶことは大切だと思います。

 

※記事の内容は執筆時点のものです

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杉浦由美子 専門家・プロ

ノンフィクションライター。会社員や専門学校講師などを経て、2005年からライターとして活動を開始。『AERA』『婦人公論』『文藝春秋』などの総合誌でルポルタージュ記事を書き、『文春オンライン』、朝日新聞『論座』などで教育やジェンダーなどの記事を執筆する。『女子校力』(PHP新書)、『ママの世界はいつも戦争』(ベスト新書)など著書多数。