
はじめて設定する志望校の偏差値レベルは高いほうがいい?|宮本毅の「合格のための喝!」
「志望校は、はじめは偏差値高めに設定しておかないと、行きたい学校には行けないの?」
「志望校は、はじめは偏差値低めに設定しておいて、徐々に上げていくべきなの?」
賛否両論入り混じるテーマですね。
私の塾に説明を聞きに来られる方や、メールなどで質問される方からも、この問題についてはよく相談をお受けします。
今回は質問コーナー「合格のための喝!」の第1回ということで、この問題に切りこんでみたいと思います。
はじめて設定する志望校の偏差値レベルは?
■質問内容
子どもは中学受験を目指して勉強を始めたばかりです。
最初の志望校は高めに設定しておかないと、行きたい学校には行けないと聞きました。
でも、最初は低めで設定しておいて、徐々にレベルを上げていくのがいいという人もいます。
はじめての志望校は、どうやって選べばいいのでしょうか?
いきなり結論を書いてしまいますと、私の意見としては
「志望校の偏差値は、最初は低めに設定した方がいい!」
となります。
一般的には「志望校の偏差値を高く設定しておかないと、自分の行きたい学校の偏差値に届かない」「目標が低すぎるとモチベーションが上がらず、気合が入らない」などの理由から
「志望校は高く設定すべき」
と主張される方のほうが多いでしょう。
「志望校は最初は低めに設定した方がいい!」
なんて真逆なことを言うと、塾の大御所の先生方からはお叱りを受けそうなのですが、低めに設定しておいたほうがいい理由について、順にご説明していきたいと思います。
まず、そもそも論として、「志望校」って何なんですかって話です。
志望校って、行きたい学校ってことですよね。
通わせたい学校の偏差値が、もともと高いのなら仕方ないですが、受験生の親御さんを見ていると、その学校を志望する理由として
「偏差値が高いから」
とおっしゃる方が非常に多い。
つまり、中身も見ずに、偏差値だけで学校を決めてるって印象です。
あくまで個人的な経験からくる印象として、これはパパに多い気がしています。
なかには、偏差値表の60のところに横線を引いて、
「こっから下の学校には行かせる意味がない」
なんて言い放っちゃうパパもいるんです。
「そんなざっくりした考え方でお子さんの6年間を決めちゃっていいの?」
って、こちらが心配になります。
また、偏差値って、使っている資料によって全くちがう数値になるものなんです。
たとえば、私の出身校である武蔵中について言えば、首都圏模試センターということころが出している偏差値表では「偏差値74」というスーパー優秀な学校ですが、サピックスの偏差値表ではかつては55くらい(2022年現在では偏差値61)の、超平凡な学校という認定でした。
どこぞのパパみたいに
「偏差値60より下の学校なんて行かせる価値ナシ」
と断じてしまうと、
「え? じゃあ、この学校はいったいどっちなの?」
となる学校がたくさん出てきちゃいます。
志望校の偏差値レベルが高すぎる場合に起こる4つの問題
志望校を高めに設定しないほうがいい理由は、4つあります。
まず1つめは、「子どもにとって高すぎる目標は実感しにくい」ということです。
日々、受験を目指す子どもたちを見ていても、「志望校の偏差値が高いほうが頑張れる」といった印象は、まったくありません。
また、私自身、中学受験の経験がありますが、子どものころに眺めていた私立中学案内に書いてある偏差値に対して、高ければ「スゲー」という感想は持っていましたが、それが具体的にどんな数値なのかは、正直いって理解していませんでした。
ぼんやり「すごいなぁ」思うくらいで、「こんなに高いんだから頑張らないと」という発想にはまったく至りませんでした。
「偏差値の高い学校を志望校にすれば子どもは頑張る」というのは、実際に小学生のときに受験した経験のない大人、あるいは、小学生のときに考えていたことをすっかり忘れてしまった大人が、勝手に抱く幻想であると思います。
2つめに、「志望校が高偏差値だと、子どもに根拠のない自信を植えつけてしまう」という危険性があることです。
問題集をたくさん買うと、頭がよくなったように感じて、かえって勉強しなくなる、というのに、よく似ていますね。
3つめに、「なかなか成績が追いつかない場合に、志望校の偏差値レベルを「下げる」必要が出てくる」からです。
志望校のレベルを「下げる」ことになると、本人も親御さんも強い喪失感を感じてしまいます。モチベーションも大きく損なわれ、本来ならラストスパートが必要な受験の終盤戦で、大きなブレーキがかかってしまいます。
最後に、「高すぎる目標は、子どもをカンニングに追いこみかねない」ことですね。
これは小学生の受験生において、もっとも気をつけたほうがいい問題といってもいいくらいだと思っています。
自分の実力と、親が熱望する目標校との間に大きな乖離が見られる場合、子ども心として「親に心配かけたくない」「親の期待にこたえたい」「自分のプライドを守りたい」などの心理(強迫観念と言ってもいいかもしれません)が働き、ついついカンニングをしてしまったりします。
やがて、それが常態化していくと、本人も親も「どれが本当の実力なのか」わからなくなってしまいます。
最終的には滑り止めとしていた学校にも落ちてしまう、そんな不幸なことにもなりかねません。
小学生なんて、まだまだこれから、いくらでも明るい未来を思い描けるのに、こんな人生の初期の段階で「カンニングぐせ」をつけてしまったら、本人の将来にとって、大変な損失であると言わざるを得ません。
新しい志望校の考え方の提案
いっぽう、志望校のレベルを最初は低めに設定していた生徒の場合はどうでしょう。
低めといっても、具体的には、今の実力で、合格する可能性が70~80%くらいと模試で判定されるレベルを想定しています。
目標が自分の実力と近いということで、より具体的に、たとえば算数のケアレスミスをなくせば目標に届くとか、社会の暗記をもうちょっと頑張れば達成できる、といった感じで、課題への現実的なアプローチが可能です。
また、成績が上がってくれば、先生や親御さんから褒められる機会も増えますので、子ども本人のモチベーションも上がりやすいです。
面談のときに塾の先生から「最近成績が上がってきてますから、もう少し偏差値の高いこちらの学校を受けてみてはいかがですか?」なんて言われたら、それはそれは、親子で天にも昇るくらい、「今夜はすき焼きね」ってくらい、嬉しいんじゃないですか?
なんといっても、家族全体が明るくなりますし、そうした明るいご家庭の方が、中学受験も絶対うまくいくものです。
「でもやっぱり、あこがれの学校は諦めたくないの」
と、どうしても譲れない方もいらっしゃるでしょう。
ですから、ちょっとだけ発想の転換をしてみませんか。
第一志望校って、誰が「1校だけ」と決めたのでしょう。
なにも1校だけに限定する必要なんてないんです。第一志望は「〇〇中と△△中と□□中!」ってことにすればいいじゃないですか!
「第一志望校」ではなくて「第一志望校群」ってことです。
模試なんかで、どうしても順序を決めなくてはいけないときだけ、仮の順序を割り振ればいいんです。
「第一志望校群のうちのどれかに受かればいいよねー」と、はじめはふんわり決めておく。
そして、第一志望校群のなかには、今の実力から見て合格が現実的に感じられる学校を入れておく。
こうすることで、高偏差値の学校を諦めることなく、かつ、本人はプレッシャーを感じることなく、健全に中学受験ライフを送れるんじゃないでしょうか。
※記事の内容は執筆時点のものです
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