中学受験ノウハウ 連載 中学受験との向き合い方

「ダメな点に目が行く……」わが子の弱点・欠点と向き合うための作法 ―― 中学受験との向き合い方

専門家・プロ
2023年2月22日 やまかわ

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首都圏の一部では、4人に1人の小学生が挑戦するともいわれる中学受験。子供の受験に親はどう向き合えばよいのでしょうか。この連載では、『中学受験は挑戦したほうが100倍子供のためになる理由』の著者である、田中純先生に中学受験との向き合い方をテーマにさまざまな話を伺います。

入試に向け、苦手科目や弱点と向き合うことになる受験勉強。「うちの子は欠点が多くて……」と考えてしまう親御さんや、卑屈になってしまうお子さんもいます。その結果、モチベーションが下がったり、不安・ストレスに苛まれたりすることもあるでしょう。今回は中学受験を進めるうえで「欠点・弱点とどう向き合うか」をテーマに田中純先生にお訊きします。

子供の欠点が目につく理由

――本日は、欠点・弱点をテーマに話をお訊きします

そのことを考えるうえで、一番はじめにお伝えしておきたいことがあります。欠点・弱点という言葉の「取り扱い」についてです。「欠けた茶碗」などと言うように、「欠」にはネガティブなイメージがありますよね。でも、欠点について過度にネガティブになっていただきたくないんです。「弱」についても同じです。フォルテ(強音)に対して、ピアノ(弱音)は決してネガティブではないのですから。

――う、なるほど……。とはいえ、わが子の「ダメな点」って、つい気になってしまうと思うんです。それはどうしてなのか。

そうですね。たとえば、目の前にツルンとした手触りの素材(あってあたり前)があったとしましょうか。ずっと触っていたくなるような、そんな安心感のある手触りをしています。でもそこに一か所だけ“ささくれ”(あってはならない)があったらどうでしょう?

気持ちを許して撫でていると、指先に「グサッ」と刺さってしまいますよね。刺さる前までは気持ちよく触っていた。それなのに、小さなささくれひとつで印象が変わります。自分自身や周囲の人に対して欠点ばかりが目につく……という人にも同様のことが言えます。

「この人にはこうあって欲しい」「自分自身はこんな姿でありたい」などといったように、自分の中に期待を持っているんですね。

その期待が濃厚(できて当たり前でしょ)なほど、ズレがあったときにトゲが刺さったような心の痛みというか、ある種の不安全(あり得ない)を感じてしまう。それが欠点というラベリングになってくるのではないでしょうか。

――保護者のフォローが必要な中学受験では、子供の「できない点」や「ダメな点」に目が行きがちです

家族のような身近な人に対しては、本来、誰しもが安心感を持っています。だけど、一度気になる欠点を見つけてしまうと、身近な存在であるだけに気になってしまう。それは、トゲに晒されているような緊張感のある状態です。

中学受験を志すご家庭の親御さんが、わが子の様子を見て「うちの子は欠点・弱点が多い」とイライラしてしまうのも、家族間ならではの悩みだと言えます。ただ、欠点・弱点と「点扱い」しているうちはまだマシなんです。扱い方を間違えると点が面になって、さらに人をダメ扱いしてしまうことがあります。「あなたはダメな子だ」という言葉は猛毒です。人としての存在価値を木っ端みじんにしてしまいます。

欠点・弱点をどう扱うか

――欠点が目についたとき、どのように取り扱うべきなのでしょうか?

まず頭ごなしに子供を詰(なじ)るのではなく、冷静に、丁寧に観察してみる必要があります。

大原則はヒトとコトを分別することです。

たった今、「子供を詰る」と言いましたけれど、違和感を覚えませんでしたか? 子供を詰るのは禁忌です。ダメ出ししていいのは行動に対して。目をつけるのはヒトではなくて「コトや行動の点」です。面ではありません。

それがどんな欠点なのか、それがもたらすマイナスの影響は一体どれくらいなのか。もしくは、欠点が役に立つかもしれないとするならば、一体どんな場面で役立つのか。「ちょっと待てよ。これって本当にこの子の欠点かな?」というように。

たとえば「神経質さ」は、言い換えれば「慎重さ」とか、「丁寧さ」という長所にも捉えられますね。固定的な視点ではなく、柔軟で多角的な視点で、相手の行動の点を結ぶんです。

そのように目を凝らしてふるいにかけてみた結果、「これは向き合わなくてはいけない欠点だ」と判断したときは、さらなる細かな観察と分析が必要です。同時に凝らしすぎることなく、目の力を抜いてボンヤリと眺めてみることもおすすめです。それが前述の柔軟性につながります。

――「うちの子は集中力がなくて……」などという場合、受験勉強を進めるうえでは、向き合わなくてはいけないと思います。どのような観察と分析が必要ですか?

「集中力」というテーマも取り扱い注意ですね。「集中しろ!」と号令をかける前頭葉の神経伝達物質の不足や、調節の不具合で集中が困難な人達もいますから……。そういう器質的な難度の無い人という前提で、お答えしましょう。

まずは、「この子が集中できることや、夢中になることって、どんなことだっけ?」と考えて欲しいです。

具体的には「この子が、やり抜いたことは何だろう」、「最後まで読みきった本は何だろう」などといった、できたことの振り返りです。遊びや漫画、ゲームであっても、その子ならではの興味を持つポイントや考え方、こだわりというのが細部に宿っているはずです。こうした興味・関心・好奇心が、子供の集中力を引き出すカギになります。

「集中力を鍛えたい」というのであれば、具体的で小さいハードルを設けて達成感を覚えさせるのもよいです。たとえば「3分間は集中して、問題に向き合ってみようよ」とか、あるいは「この基本問題が一問解けるまでは、集中してみようか」などでもいいと思います。そうやって細かくしたり、程良くハードルを下げたりする。

そのほうが、乗り越えようとしたときに、その子の中で何が起きているのかを、子ども本人も親も振り返りやすいんです。「あれ? こうなったときに、集中力が削がれやすいかも」とか、「この部分でわからなくなった……」といったように。自分の集中状態を客観視して「いま・ここ」に焦点を当てる練習をしていくことで、集中力が鍛えられていきます。

課題を特定したら、対処の仕方を試行錯誤しながら身につける。その対処方法は塾の先生のようなプロからアドバイスをもらったりしながら進めていく。できない場合は、さらにハードルを下げたり、前に戻ったりしながら試していくとよいでしょう。

そして小さなハードルを乗り越えたら、たとえば「3分間、集中できたじゃん!」といった具合に、肯定的な言葉を与えてその子を勇気づけていくんです。そして、また少しハードルを上げた次の目標を一緒に立てる。

そうやって「やって、できた!」という達成感を味わってもらうことです。これがやる気の源です。

――なかなかできるようにならないと、「何でできないの!」と、声を荒げてしまうことや、「うちの子は褒めるところなんてない」って思ってしまうこともあります。少しずつ順番立てて声を掛けていくというのが難しいですね……。

見えないものを見ようとすることになりますから、簡単ではないかもしれません。親にとって、見えやすいのは子供が失敗したことや、うまくいかないことですから。

その子の中で何が起こっているのか、思いを馳せるには想像力が必要です。「今、この子にはこの問題がどう見えているんだろう?」といった心の目です。

「頑張っているけど、結果が出ていないことは、どんなことなんだろう?」とか。そういう点に親が心の目を働かせて、たとえば「あなたは今、こういうふうにしようと思っているのかな?」などと、問いかければ基本的には子供って嬉しいと思うんです。

自分がやろうとしてまだできていないことを、私の親は察しようとしてくれている、見守ってくれている――この安心感はモチベーションを育む土台になります。もちろん、できなくてその子が苦しんでいる場合は、ちょっとしたアドバイスや提案を織り交ぜてもいいと思います。

そうやって「こういう風にしたら上手くいくかも……」という予感が生まれたときに、「できた!」となれば、きっと嬉しくなりますよね。その体験を積み重ねていくことで、またやりたくなる。「もうちょっとやってみようかな」と思う。

だから、子供の水面下の頑張りや努力に対して、親がいかに眼差しを向けるかということが問われると思うんです。水面下というのは見えない。見えないところは月の欠けた部分のように、「無い」と認識されてしまいかねないのです。

子供と話し合うための5つの作法

――欠点、あるいは弱点のことで、子供と話す場合。いわば子供にとっては「耳の痛い話」ですが、気をつけるべきことはありますか?

気をつけるべき作法は5つあります。

①エクスキューズ

まず1つは「事前のエクスキューズを忘れないこと」。相手が聞きたくないことを伝えるときには、「ちょっと話したいことがあるんだけどいい?」と伝えることが大事です。そういった前置きがなく、急に耳の痛い話をされると、多くの場合、へそを曲げてしまいます。だけど心の準備ができていれば、ほんの少しだけ気持ちは和らぎます。

②話は多くても3つまで

2つめは「耳の痛い話は多くても3つまで」ということ。「お父さん/お母さんさ、あなたに聴いてほしいことが3つあるんだよね」と言った具合に伝えます。本当は1つがいいんですけれど。多くても3つが限界でしょう。クドクドと長い時間お説教をしても、聞き手は集中を切らします。そうなると、伝えたつもりが、相手には「何の話をされたかはよく覚えていない」「なんだか親からイヤな話を沢山された」というマイナスの印象が残りやすい。だからできるだけ限定して、手短に伝えましょう。

③過去を蒸し返さない

3つめは「過去を蒸し返さないこと」です。「あなた、あの時もできなかったでしょう?」といった発言ですね。こういった言葉を浴びせたところで、過去を変えることはできません。過去のこと持ち出して、追求したくなる気持ちもわかりますが、その子のこれからの成長を願うならば、それは胸にしまっておくべきです。建設的な話し合いをするのであれば「これからどうしようか?」に目を向けましょう。すなわち……

④処方箋を用意する

欠点・弱点を示されても「どうしようもない」では負荷を背負わされるだけです。4つめは、それらを克服したり、欠点・弱点と折り合いをつけたりする術を伝える準備をしてから話し合うことです。

⑤感謝の言葉

5つめは「『聞いてくれてありがとう』という言葉を忘れないこと」です。

聞きたくない話に耳を傾けるのは、とても疲れることです。もちろん話す側も疲れることではありますが……。伝えるべきことを伝えたら、まずは大人側がそのことに対してきちんと感謝の言葉を伝えるべきでしょう。その結果、お子さんが「話を聞いてよかったな」と少しでも思ってくれたら御の字です。このような苦しい話し合いも、最後は気持ちよく感謝の言葉を伝え合って終われたら最高です。耳の痛い話であればあるほど、大事な話である場合が多いのですから。

中学受験だけでなく、今後の人生において親子で大事な話し合いをする局面は度々訪れるはずです。今言った5つの作法を意識すると、嫌な内容でもお互いに腹を割って話がしやすくなります。

子供が自分の欠点を悲観している場合

――親自身ではなく、子供本人が「自分は周りの子と比べてまったく勉強ができない……」と考えている場合はいかがでしょう?

欠点というラベルを自ら貼っていって、「こんなに沢山になっちゃった……、もう嫌だ」みたいなことですね。そのシールの貼り方が、大人から見ると「おいおい、ちょっと待ちなよ」ということって、たくさんあると思います。

だから、「周りの子と比べてまったく勉強ができない」と考えて、モチベーションが低下しているのであれば、

  • 「まったく」って一体どれくらいなんだろうね?
  • 具体的に何の勉強の、どこの部分ができないのかな?
  • 誰と比べているのかな?
  • その人に勝たないといけない理由、競わないと行けない理由ってあるのかな?

といった事柄を親子で確認し合ってみることですね。

そうして悲観を客観に変える練習を親子でやってみましょう。

実際にはわりと理解できている部分もあるはずですし、誰かに勝たないと幸せになれないということは受験にはありません。前回もお伝えしましたが、受験はあくまで自分との戦いです。

このようにして不安の中身を親子で分別していくと、気持ちは楽になります。気持ちが楽になるというのは、ある種の快感のひとつです。

初めのうちは親のアシストつきで自分自身の欠点と向き合う必要がありますが、慣れていけば自分ひとりで不安と向き合って、自己解決できるようになっていきます。

――親子で欠点と向き合って、「うちの子は算数が苦手だ」という結論に達した場合、どのようにして克服していくべきでしょうか。

お肉が苦手というお子さんに塊のステーキを出したら、きっと嫌がりますよね。でも、ステーキを小さくサイコロ状に切ったらどうでしょう。ちょうどいい努力して克服するには、その欠点、あるいは弱点は一口大であったほうがいいわけです。

その子の一口サイズにするっていうのは相手が小学生であれば、大人の仕事ですよね。

一口サイズを切り分けるコツは、「どこの、どこの、どこ?」とWhereを数回繰り返し問いかけたり、自問自答する練習をしたりすることです。

「あなた算数がホント苦手ね。もっと算数を頑張らなきゃね」って言われても、できるようになるのは難しいわけです。たとえば、算数の中でも「植木算が苦手」っていうくらい細かくして――もっとできるのであれば、植木算のどこが苦手なのか、苦手な箇所だけでなく、理解している分野はどの部分なのかを仕分けしていけるとよいですね。

その結果、「計算の部分はわりとできているかも、でも図を描いて整理するのが苦手かな」というのがわかったのなら、簡単な問題を使って図を描いてみる。図を描いて自分で考えて、やってみて正解できたなら、別の基本問題を同じやり方で解いてみる。

基本問題で解けるようになるまで反復練習をし、十分に解けるようになったら徐々に難易度を上げていきましょう。一つひとつ階段を上って「やって、できた!」という感覚を味わいながら進めてみるのです。

親自身のセルフコントロール

――中学受験では、お子さんの至らない点がたくさん見えてくると思います。親自身がイライラせず、クールにお子さんの受験をフォローするためには?

「親自身のセルフコントロール」って大事なテーマになると思います。

私たちは、つい「子供自体をどうしよう?」という問いの立て方をしがちですが、そこに「待った」をかけることも必要です。

親自身が子供の欠点が気になっている自分、あるいは「この欠点は許せない!」と思っている自分のねば・ネバした基準、その基準を緩めることで「まぁいいか」となるようなこともあるわけです。

親がセルフコントロールできないということになれば、それは親自身の欠点になるので、自分の欠点とどう向き合うのかということになります。「わが子の欠点が気になってしょうがないんですよね」っていう、気になっちゃう自分の欠点――それを親自身がどうハンドルしていくかです。

――そのハンドルさばきを上手にするためには?

アンガーマネジメントの2時間くらいの講座が必要ですね(笑)。

以前のコラム(ねば・ネバ思考が怒りのもと? 親と子の負の感情をコントロールするには )でもお伝えしましたが、あらためてお伝えすると、ひとつは自分が何を見てどう思っているかを、客観視することが大事です。「自分は今、子どものどこに気を取られて、マイナスな気持ちになっているんだろうか」といった一旦停止です。

アンガーマネジメントのステップ1は、アンガー(怒り)の持ち主を確認するということです。また、「わが子のその欠点が、私をイライラさせる」というのは間違いです。

にはそれがわが子の欠点に見えて、『の基準ではそれが許せない』というの思いが、をイライラさせる」のです。

イライラしている状態は、「今自分が見ているものと、自分の中にある標準(あたりまえ)を照らして、これって許せない!(ありえない)」っていう、ねば・ネバした状態です。

そのことを相手にどう伝えるか。でも、変な伝え方をすると相手には響かない。相手はむしろへそを曲げて「もう、うんざりだよ!」ってなってしまうかもしれない。

中学受験では、親は子供にどうなって欲しいかと言えば「本当は、前向きに勉強を頑張ってほしい」わけです。

じゃあ、その子が前向きに勉強を頑張るためには、どうするか。「今の自分(親)の感情・基準」をどう制御することが適切なのか。仮に制御しきれなかったとしても、相手(子)に何をどう伝えるかというのは、それはある意味自分の気持ちとちょっと切り離してみることが必要です。

たとえば、前述したように「3つ聴いてほしいことがあるんだよ」とか、指示や命令ではなくて、提案みたいな感じで伝える。「こうするともっといいと思うんだけど、考えてみてよ」とか。そういった、その場にふさわしいかもしれない行動を自分が取るには、怒りでカッカとしていたのでは難しくなりますから、まずはちょっと落ち着く。

「今、この子の欠点に気を取られてイライラしているけれども、一方でこういうことは、ほかより出来ているじゃん」とか、「今まで出来なかったけど、ここまでは克服してできるようになってきたよね」とか、そうやって振り返ったときに、怒りの温度が少し下がれば、それは上手く親自身がアンガーマネジメントできているということです。

そう。親も子供と一緒に成長していくということなんですね。

親が自分の弱点を克服しようとする姿を手本として、子供も自分で自分の欠点を克服したり、弱点に折り合いをつけたりして自分を成長させる。他者からのフィードバックを得て、自らを成長させようとする態度こそが、欠点・弱点を栄養にする向き合い方なのです。


これまでの記事はこちら『中学受験との向き合い方

※記事の内容は執筆時点のものです

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