連載 3年後の中学受験

2023年の中学受験の振り返りとこれから|3年後の中学受験#1

専門家・プロ

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コロナ禍、少子化、物価の高騰……社会経済の影響を受けて、刻々とその姿を変えていく中学受験。

どんな子どもでも小学6年生というタイミングで受験と向き合わなければならない以上、中学受験の「今」だけでなく、「今後、何が変わって、何が変わらないのか」について、保護者は見きわめておきたいもの。

多くの中学受験塾や保護者への取材を重ねてきたノンフィクションライターで、『中学受験 やってはいけない塾選び』(青春出版社)の著者の杉浦由美子さんが、3年後を見据えて、中学受験のこれからを探る新連載がスタート!

初回である今回は、2023年中学受験の注目ポイントを振り返りつつ、今後の大きな流れをとらえます。

2023年の中学受験は少子化にも関わらず、首都圏では受験生の数は増え、6万6500人で、受験率は初めて22%を超えました。[*1]

今年の受験生は2020年の2月に新4年生として塾に入って、コロナ禍の中で丸3年間、勉強してきました。オンライン授業が普及し、欠席しても自宅で授業動画をみたり、分からなかった所を動画で確認したりすることが可能になったことの恩恵を受けた受験生たちでもあります。

「開成は西日暮里にあるから人気」はなぜか

その2023年の受験でまず注目されるのは、一昨年、去年と2年連続で減っていた開成の出願数が増えたことです。2022年1206人から2023年1289人となりました。[*2]

御三家を含む難関校人気は落ち着いてきているといわれて久しいですが、取材をしている立場からすると、開成は人気が高まっているようにみえます。

2022年に行った現場の講師たちへの取材では「感触として、開成は難しくなっている。学力が高い層が2月1日に開成を受ける傾向が強くなっている」という話も出てきました。

なぜ、学力上位層が開成を受験するのか。

いくつかの要因がありますが、その理由のひとつは、コロナ禍で埼玉の受験生が通学時間をなるべく短縮したいと考えているからでしょう。

開成は西日暮里にあり、麻布(広尾)や駒東筑駒(ともに池尻大橋)に比べて、埼玉からのアクセスがいいです。

埼玉は東京に比べ、中学受験率は高くありませんが、少数精鋭の「教育熱心な家庭」が存在します。

南浦和や大宮にある大手塾の校舎は、模試の平均点が高いという話も耳にします。

住居費を抑えるために東京ではなく埼玉に住み、浮いたお金を教育費につぎ込む。

専業主婦家庭もまだまだ多く、ママが中学受験を全力で取り組むケースも多々見受けられます。「ガチ受験」をする家庭が多い地域なのです。

その埼玉県に住む学力上位層が、「麻布は仮に受かっても通うのが大変だから、少しリスキーになっても開成にチャレンジしよう」となっているわけです。南浦和駅から麻布の最寄り駅・広尾駅までは片道1時間かかりますが、開成なら半分で済みます。

通いやすさを優先するトレンドが開成の人気を押し上げているようにみえます。

偏差値アンダー50の学校が難しくなっている

私立トップ校の開成に人気が集まる一方で、四谷大塚偏差値で40から50ぐらいの学校、いわゆる中堅校も難しくなってきています。ある中堅校では合格最低点があまりに高いので、採点担当の先生たちが何度も確認をし直したといいます。

中堅校が難しくなる現象にも、いくつかの理由があります。

まず、学力の高い受験生が安全校として中堅校を受けるケースが増えていること。

中学受験全体が過熱していますが、その中で、かつてと違って「一定の偏差値の学校に入れないのであれば、公立中学に進学して高校受験でリベンジ」というケースが減り、みな、どこかの私立に入学をする傾向が強まっています。そのため、偏差値が高めの受験生も「絶対に受かる学校」として、偏差値アンダー50の学校を受けるようになってきています。

また、中堅校自身の努力も人気の原因です。

取材を続ける立場からみて、中堅校は御三家のようなネームバリューがない分、努力をしているので、いい学校が実に多いです。そういった情報が拡がっているため、偏差値が低くても内容がいい学校になら通わせたいという保護者が増えているのです。

そのため、「絶対に受かるだろう」という偏差値の中堅校も、過去問を全くみないといった風に対策を怠ると、残念な結果になるという状況が起きています。この状況は、今後も続くでしょう。

プロモーションがうまくいきすぎたか。新規校・芝国際の高倍率

そして、今年、話題になったのが芝国際の入試の高倍率騒動です。入試は複数回行われ、日によっては定員に対しての応募者の数が83.5倍という倍率になりました。

その情報がSNSで拡散され、注目され、批判が起きました。ようは炎上したのです。

さて、新規校が高倍率になるのはよくあることです。2021年広尾小石川は115倍を超える倍率の回もありました。では、なぜ、芝国際は炎上したのでしょうか。

芝国際は約30回も説明会をし、塾にも働きかけ、「ぜひ、受験してください」とプロモーションをしてきました。それで受験をさせたのに、蓋を開けたら超高倍率となれば、「あの低姿勢な『ぜひ、受けてください』アピールはなんだったのか」と文句をいいたくなる保護者や塾関係者がいるのかもしれません。

そこに、合格発表時間の遅れや出題ミスなどが起きたので、不満の声が一気に高まってしまったようにみえます。

この騒動をみて、私はかつて新宿南口でのクリスピードーナツのオープニングを思い出しました。

街でドーナツを配るといったプロモーションに期待以上の効果があり、大行列ができ、東京の新名所になってしまったのです。

新規のスイーツのお店には多くの人が行列を作るように、新しい学校も受験生が殺到するわけです。

新規校がプロモーションを頑張るのは当然なことで、それで批判されたのは気の毒でもありました。

今回の芝国際の騒動が、今後の新規校の入試にどう影響があるかは注目です。

中学受験の過熱はいつまで? 沈静化の兆しも見え始めた

ここまでを読んで「中学受験は大変なんだ。うちの子は大丈夫なんだろうか」と心配になる方もいらっしゃるでしょう。

この中学受験の過熱も再来年の2025年ぐらいまでで、それ以降は沈静化していく可能性が高いでしょう。

少子化にプラスして、物価の高騰の影響があり、2023年は中学受験塾に入る新4年生の数が減っている塾もあるようです。そして、この傾向は、来年以降も続くとみられているからです。

その中で、どの塾も生徒獲得のために、サービスを手厚くしていくでしょう。保護者としては、それをうまく利用したいですよね。

今回は2023年の受験の熱戦ぶりを振り返ってみました。次回以降は中学受験が今後、どうなっていくかを取材したデータを元に書いていきたいと思います。

参考文献

[*1]コアネット教育総合研究所『2023年 首都圏中学入試総括レポート』

[*2]開成中学校・高等学校『入試案内&中高入試&入試状況・結果』

※記事の内容は執筆時点のものです

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