中学受験ノウハウ 連載 今一度立ち止まって中学受験を考える

過去問を解くときの注意点と心構え|今一度立ち止まって中学受験を考える

専門家・プロ
2023年8月10日 石渡真由美

0

夏休みが終わり9月に入ると、6年生は過去問演習が始まります。

志望校の過去問でどのくらいの点が取れるか親子で気になるでしょうが、結果に一喜一憂しているだけでは意味がありません。

大事なのは、「過去問の正しい取り組み方」「解いた後の向き合い方」です。

過去問演習の目的は、入試傾向の把握と本番のシミュレーション

入試対策に過去問演習は欠かせません。しかし、過去に一度出た問題と同じ問題は、もう二度と出題されることはありません。では、なぜ過去の入試問題を解くのでしょうか?

最大の目的、それは「志望校の入試傾向をつかむため」です。小学3年生の2月から始まった中学受験の勉強も、6年生の夏休みで一通りの内容を学び終えます。これまでは塾で新しい単元を学び、演習を行って知識や解き方を定着させるという勉強を行ってきましたが、9月以降は入試本番で点が取れるように、志望校の入試に対応した勉強をしていく必要があります。

ひとくちに中学受験といっても、各学校の入試の中身はさまざまです。時間内にたくさんの問題を解かせて、知識とスピード(処理能力)を見る学校もあれば、問題の数は少ないけれど、自分なりの考えや解いた道筋を記述で答えさせる学校もあります。それぞれの志望校の問題形式に慣れておくために、過去問を解いて練習をしておくのです。

中学受験は4教科の総合点で合否が決まります。1教科だけ高得点が取れても、4教科続けて解ける脳の体力がなければ、合格はできません。

よく塾や習い事などのスケジュールの都合で「今日は○○中学の算数の過去問を解こう」「明日は国語の過去問をやってみよう」と、細かく予定を組むご家庭がありますが、それでは入試本番の状況とは違ってきてしまいます。過去問に取り組むときは、テスト時間と休憩時間をきちんと測って、4教科一気に解くようにしましょう。その際、教科も本番と同じ順番で解くようにします。そうやって、本番を意識して取り組むことが大切なのです。

ちなみに、昔は「算数を制する者は(中学)受験を制する」とよく言われましたが、時代が変わり多くの小学生が中学受験に向かうようになった現代においては、算数だけ出来ても合格できなくなってきました。4科目バランスよく取れることの重要度は、お父さんお母さんの受験時代からすると段違いに上がっていると言えましょう。その観点からも、過去問演習は4科目バランスよく取り組んでいくことが大切です。

本人の持ち偏差値より点数が取れすぎているときは要注意

過去問は第一志望校から解くか、滑り止め校から解くか、いろいろな意見がありますが、私は第一志望校から解いたほうがいいと考えています。なぜなら、早いうちから志望順位の高い学校の入試傾向を把握し、そのための対策により多くの時間を取るべきだと考えているからです。

もちろん、はじめはほとんどの子がレベルの高い問題に歯が立たないでしょう。合格最低点に達していないと、まるで不合格になったかのようにがっかりしてしまいがちですが、9月の段階であれば、合格最低点よりマイナス60点くらいであっても気にすることはありません。ここから苦手分野の対策を行い、出題傾向に慣れていけば、徐々に点数は上がっていくはずです。

時々「第一志望の過去問はもう少し実力がついてから解かせたい」といってしり込みをしてしまう親御さんがいらっしゃいますが、そういうご家庭はいつまでたっても実力が追い付かず、結局手遅れになってしまうことが多いです。

過去を振り返ってみてください。多くのお子さんは、小2や小3から塾に入って勉強してきたはずですよね。3年半塾に通ってきて「今はまだ実力が追い付いていない」のだとしたら、あと2~3ヶ月で追いつく筈ないとは思いませんか?それならば無理やりにでも第一志望の過去問に取り組ませ、実力が足りてないことを自覚させ、勉強量を増やさせるべきなんじゃないでしょうか。

待つ時間はもう終わったのです。これからは攻める時間です。しり込みしている場合ではありません。

過去問演習において注意すべきことがあります。もし本人の持ち偏差値(これまでの塾の成績や模試の偏差値)に比べて、本人の得点が高すぎる場合、お子さんがカンニングをしている可能性が高いです。

入試問題には合う・合わないがあるので、志望校の入試問題と相性が合えば、これまで受けてきた一般の模試(いろいろな学校の入試類題を出題したもの)の結果よりも高い得点を取ることは「まったくありえない」ことではないのですが、持ち偏差値が45の子が、偏差値60の学校の問題で高得点が取れてしまうということはまずありません。お子さんのカンニングを指摘すると、「うちの子に限ってそんなことはありません」と反論される親御さんがいますが、そういうケースは決して珍しくないのです。

お子さんがカンニングに走ってしまう原因は、親御さんが点数に一喜一憂してしまうからです。「こんな点数では合格できないわよ」「もっと頑張りなさい!」などとプレッシャーをかけてしまうと、親御さんを喜ばせようと思ったり、怒られるのが嫌だったりして、つい答えを書き写してしまうのです。

そうならないためには、親御さんは常に冷静でいることです。そして、解答はお子さんの手が届かない場所に管理しておくこと。また、過去問に取り組むときは、できるだけ親御さんの目の届く範囲で解かせるようにしましょう。

採点は親の仕事、ただし記述問題はプロに任せる

過去問は解いて終わりではありません。解いた後こそが大切です。

採点はお子さんに任せず、親御さんがやってあげてください。その際、甘めにならないように厳密に丸付けをするようにしましょう。例えば漢字のハネがきちんと書けていないのに、「このくらいならまぁいいでしょう」と○にしてしまう親御さんがいますが、それではお子さんのためになりません。

なぜなら、実際の入試では多くのケースで×になってしまうからです。厳しくチェックをしていれば「今度はしっかり書くようにしよう」と気をつけて書くようになりますが、何も指摘しなければそのままです。お子さんのためにも、ここは心を鬼にして厳しく採点をしてください。

ただ、親御さんが採点するには難しいケースもあります。国語や社会の記述問題の採点はプロにお願いしたほうがいいでしょう。記述には「この言葉を入れなければいけない」「この考え方に触れていなければいけない」などいくつかの採点基準があります。しかし、それを的確に捉えるのは難しく、塾の先生でも残念ながら「テキトー」な人はいます。きちんと正しい判断ができる、信頼のおける先生に依頼するようにしましょう。

採点結果で弱点把握。過去問の具体的な活用法

採点を終えたら一喜一憂せず、合格のために何が必要か冷静に分析し、作戦を練りましょう

正答率が高い問題が取れていなかった場合は、なぜミスをしてしまったのかきちんと原因を把握し、次は必ず取れるようにしておくことが大切です。ここを落としてしまうと、合格最低点には達することができません。できていないところを責め立ててばかりいても、得点は上がりませんし学力は高まりません。ここは親御さんが冷静になって、具体的に何をどう頑張れば、得点を上げられるか考えてみてください。

過去問対策は、合格最低点マイナス何点かで見ることが重要です。例えば算数が−20点、国語が−10点、理科・社会がそれぞれ−15点だったとします。9月の段階で合格最低点より60点も足りないと、とてもじゃないけれど合格はできないと思ってしまいがちですが、一つひとつ点検していけば、それほど恐れおののくことではありません。

「算数はここで計算ミスをしてしまったんだね。考え方は合っているから、あとは落ち着いて計算をするようにしようね」「国語は選択問題が苦手みたいだね。どういうときに迷ってしまうのかな?一緒に見てみよう」などと具体的にアドバイスをしてあげることで、簡単に克服できてしまうこともあるのです。そうやって小さなミスを減らしていく、覚えるべき知識は覚えるといった対策をしていきます。

中学受験は満点で合格する必要はありません。あと何ができるようになれば、合格最低点に到達することができるかという視点で、必要なことに取り組んでいきましょう。

たとえ熱望校であっても、過去問の結果次第で再検討を

ただし、一向に得点が上がっていかないようなら、志望校を再検討する必要があります。相性云々よりも、そもそもその学校が求める学力レベルに達していないという見方になってくるからです。熱望校なのでどうしても受験したいというのならチャレンジしても構いませんが、併願校には安全校を組み入れるなど、強気すぎる受験にならないよう気をつけてください。

私はよく「第一志望校ではなく、第一志望群」という考え方をおすすめしています。一つの学校を第一志望校にするのではなく、複数の学校を第一志望群としておき「そのどこかに合格できれば良し」とするのです。そうすれば過度なプレッシャーを感じることもないし、受験校選びを間違えることもありません。

過去問を正しく取り組み、解いた後はきちんと向き合う。受験生はここからが本当の勝負です。受験本番まであと半年、有意義な時間にしていきましょう。

※記事の内容は執筆時点のものです

0