
カンニングは道徳論で諭すよりもリスクを教えたほうが納得する|今一度立ち止まって中学受験を考える
9月になると、6年生はいよいよ過去問対策が始まります。
志望校の学力レベルと子どもの実力があまりにもかけ離れていると、親子でショックを受けるかもしれません。
しかし、ここで「なんでこんな点数なの!」「もっと頑張りなさい!」と言い過ぎると、カンニングに走る子が出てきます。
では、もしお子さんがカンニングをしていたら──。
今回は子どもがカンニングをしてしまう心理について、考えていきたいと思います。
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子どもがカンニングに走ってしまう5つの理由
中学受験の指導に携わるようになって、かれこれ30年以上が経ちますが、毎年この時期になると増えてくるのがカンニングです。ただ、私の肌感覚でいうと、昔よりも今の子のほうがカンニングに走りやすいように感じています。それはなぜでしょう。
- 親の期待値と子の実力の乖離が大きい
- 子どもを「成績」「点数」でしか評価しない
- 褒めるばかりで叱ることが少ない子育てをしている
- 子どものプライドが過度に高いと「できない自分」を隠そうとする
- 忙しい親にもっと褒めてほしい、認めてほしいといった気持ちから、子どもが承認欲求を満たしたくて悪いことをしてしまう
詳しく説明していきましょう。
親の期待値が高すぎると、子どもは“できない自分”を隠そうとする
中学受験にするからにはできるだけ上の学校を目指させたい。昔も今もそう思って、中学受験を選択する家庭は一定数います。
しかし、近年はそこまで上を目指してはいないけれど、ボリュームゾーンの子をそれなりの学校に入れさせたいと中学受験をさせる家庭が増えています。
ボリュームゾーンの子の多くが目指す学校とは、いわゆる中堅校のこと。四谷大塚の偏差値でいうと45〜55が目安です。
しかし、ひとくちに中堅校といっても偏差値の幅は広く、解いてみると意外に問題は難しい。
親御さんからすれば、このくらいの偏差値の学校なのだから、過去問をやらせれば合格できる点数が取れて当然と思ってしまいがちですが、現実はそれほど甘くはありません。
余裕で合格点がクリアできると思っていた学校の過去問で思ったような点数が取れないと、親御さんに焦りが生まれます。
そして、「どうしてこんな点数なの! こんなんじゃ合格できないわよ」とヒステリックに感情をぶつけてしまったりするのです。
小学生の子どもにとって、親は重要な存在です。
大好きなお母さんお父さんを怒らせたくないという気持ちが強く働きます。子どもがカンニングに走ってしまう一番の理由は、親の期待に応えなきゃというプレッシャーから来るもの。
親をがっかりさせたくない、怒らせたくないから、ズルをしてでも「できたふり」をしてしまうのです。
「できていない自分を隠す」という点では、プライドの高い子もカンニングに走ってしまいがちです。
また、親御さんに褒められたい、認めてもらいたいといった承認欲求を求めて、カンニングをしてしまう子もいます。
見るべきものは点数ではなく、その子なりの成長
中学受験は当日の入試の点数で合否が決まります。また、そこに至るまでも、テストの点数でクラスがアップダウンしたり、模試の点数で偏差値がはじき出されたりと常に数字で評価される世界です。
しかし、親御さんがそういった点数や成績ばかりに目を向けるようになってしまうと、子どもはどんな方法であっても点数が取れればいいんだと勘違いするようになります。
確かに点数が上がることは、本人の努力の結果ともいえるでしょう。しかし、そこばかりに気を取られ「やれ点数が上がった」「下がった」と親御さんが一喜一憂してしまうと、子どもも結果だけで自分が評価されているように感じてしまうのです。すると、よい成績が取れたときはいいけれど、ダメだったときに親から突き放されたような気分になってしまいます。
親御さんから見ると、まだまだ努力が足りない、もっと頑張ってもらわなきゃ!と思うかもしれません。ですが、どんな子もみんなその子なりに頑張っています。入試本番半年を切っている今、頑張っていない子などいません。ですから、どうか結果だけではなく、お子さんが日々頑張っている姿にも目を向けて欲しいのです。
「前回のテストでは計算ミスがあったけど、今回はしっかり見直すのを忘れなかったんだね」
「3カ月前にやった模試、あのときはまだ理解が足りていなかったけど、今回もう一度やってみたらずいぶんできるようになったね」
といったように、その子なりの成長に目を向け、そこを褒めてあげるのです。
近年、「褒める子育て」が良いと言われていますが、褒めるポイントを間違えてしまっている親御さんは少なくありません。よい点が取れたときに「わぁ、すごい!」と褒めるのは、親御さんがただ嬉しいから褒めているだけに過ぎません。お子さんの成長を褒めるのであれば、その頑張った過程に目を向けることを忘れないでください。
また、「叱る」と「怒る」も違います。
「ほら、また間違えた! だから漢字練習をちゃんとやりなさい!って言ったでしょ」
これは、ただ親御さんが感情任せに怒っているだけです。
「あら? 今回は漢字の間違えが多かったね。そういえば、他の勉強で忙しくて、漢字練習をやっていなかったもんね。やっぱり漢字練習は毎日コツコツやっておいたほうがいいかもね」
これは、できていないこととやったほうがいいことを具体的に教えてあげているので、「叱る」になります。叱るといっても、ガミガミ言うのはダメですよ。落ち着いたトーンで諭すような感じで伝える、といったイメージです。こう言われれば、子どもも素直に聞くことができ、「確かにそうかもな。明日から漢字練習はしっかりやっておこう」と気持ちを切り替えることができます。
大事なのは今の点数ではなくて、この先、入試本番までどうやって力をつけていくかです。その舵取りに親御さんの言葉や言動が大きく左右することを心に受け止めておいていただきたいのです。
子どもには道徳ではなくカンニングのリスクを理解させよう
カンニングはしてはいけない。
それはカンニングをしてしまう、子ども本人も分かっています。では、なぜカンニングはしてはいけないのでしょうか?
こう質問すると、多くの親御さんは「自分で考えずに答えを見て書くのは、自分のためにもならないし、人としてやってはいけないこと」と道徳論を持ち出します。確かにそれも間違いではないのですが、それだけでは子どもには響きません。
私はカンニングをしないほうがいい理由を子どもたちにこう伝えています。
「例えばテストで分からない問題が出たときに、隣の子の答えを見たとするよ。その子の答えが合っていたとしたら、○がもらえるかもしれないけれど、隣の子が優秀な子とは限らないよね。間違っている可能性だって十分あるよね。そんな2分の1の確率に自分の人生を賭けるのって、相当リスクがあると思わない? だったら、自分の力を信じて解いてみたほうがいいよね」
こんなふうに、カンニングのリスクを理解させることを目的にすると、子どもたちもわりとすんなり「そりゃそうだ」という展開になります。
「カンニング」=「悪」という考えが親を動揺させる
私の塾では、子どもたちに向けて必ず、カンニングをしてはいけないことと、そのリスクを伝えることにしています。また、新学期には親御さんたちに向けて、6年生のこの時期になると、カンニングをする子が増えることお伝えしています。
すると、みなさんは「なるほど、どうそうなのね」と笑って聞いていますが、いざお子さんのカンニングを指摘すると、「うちの子に限ってそんなことあり得ません!」と反論される方は少なくありません。そういう親御さんは、カンニングを道徳論で考えようとするので、「カンニング」=「悪」という思考回路からわが子を非難されたように感じてしまうのでしょう。
ここで激しく反論されると、私もそれ以上は言いにくいのですが、敢えて指摘をしないでいるのは、お子さんにとって不利になる、リスクを放置することだとも思うのです。
「カンニングしたからダメ」ではありません。塾講師からすれば、ありふれたこと。
子ども達は大人が思っている以上にずる賢いのです。
どうか、子どもはみなカンニングに走る可能性があるという事実を、冷静に受け止めていただきたいと思います。そして、子どもにカンニングをさせず、入試本番まで子どもが効果的な学習を積み重ねて成長を続けるために、親御さんにできることがあるという風に考えていただきたいのです。
例えば、私の塾では「子どもがカンニングをしないように、過去問の解答はどこかにしまっておいてくださいね」と親御さんにお伝えしています。
親御さんが「うちはタンスの中に入れてカギをかけているから絶対に見ることができません!」とおっしゃる場合、「ではそのカギはどこにありますか?」と重ねて聞くこともあります。肝心のカギが子どもでも簡単に手の届く場所に置いてあったりすると、隠したということにはなりません。
どんな子でも100%大丈夫、ではないのです。だからこそ、私たち大人が協力し合って改善を目指していく必要があるのです。
また、夏休み明けから過去問に取り組み、思った以上に結果が悪くても、むやみに動揺しないでほしいということも繰り返し親御さんにお伝えします。
6年生の今の段階で過去問がパーフェクトに解ける子なんていません。できなかったところは、なぜできなかったのか原因を見つけ、そこを改善していけば点数は上がっていきます。むやみに焦ったり、嘆いたりする必要はありません。
極端な話、親御さんが冷静でいれば、お子さんは落ち着いて勉強に向かうことができます。
まとめ
今回の記事では、子どもがカンニングに走る理由と、それを防ぐための親の関わり方についてお話しました。
もしもあなたのお子さんがカンニングをしてしまったら、必要なのはただ叱りつけることではありません。まずは親御さん自身が、これまでの子どもへの向き合い方を思い返し、原因を探してみてください。
親の期待値が高すぎなかったか?
「成績」「点数」だけで子どもを評価していなかったか?
感情的に叱りすぎていなかったか?
容易にカンニングできる環境をつくっていなかったか?
こうした視点で親子関係を見つめ直すことができれば、きっと解決の糸口は見つかるはずです。
入試本番まであと半年。最後までお子さんの力を信じて、今できること、やらなければいけないことを着実に取り組んでいきましょう。
※記事の内容は執筆時点のものです
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