算数を得意にするために必要な「能力」 ―― 親子のノリノリ試行錯誤で、子供は伸びる
こんにちは。中学受験専門塾 伸学会代表の菊池です。
中学受験でも高校受験でも大学受験でも、算数・数学は最も差がつきやすい科目です。
ですから、受験の合否は算数・数学が勝負を分けます。
そのため、私が指導している中学受験でも、ほとんどの子が、勉強時間に占める割合は算数が最も多くなります。
しかし、残念ながら、その努力がそのまま成果につながるとは限りません。
頑張って勉強しているのになかなか成績が上がらずつらい思いをする子も多いです。
あなたの周りにも、算数・数学が苦手で苦労している人がいませんでしたか?
果たして、すぐに算数の成績が上がる子と、なかなか成績が上がらない子の違いは何なのでしょうか?
今回はその違いについて、科学的な研究の結果も交えながらお話ししようと思います。
算数ができるようになるために必要な両輪
算数ができるようになるためには、土台となる能力と、公式や図の書き方といった解法の知識と、両者がバランスよく必要です。
わかりやすくイメージするために、サッカーで例えます。
速く走る・長時間走る・ボールを上手に蹴るといったものは、土台となる「能力」です。
これらは「速く走るためのフォーム」や「疲れにくい走り方のフォーム」、「上手にボールを蹴るためのフォーム」を言葉で説明してアドバイスすることはできます。
しかし、説明だけで身に着けさせることはできませんよね?
「能力」を鍛えるためには自分で練習する以外に方法はありません。
それに対して、この状況ではどのフォーメーションを採用するか、誰をマークし、誰にパスを出すべきかといった戦術は「知識」です。
「知識」は、言葉で説明して、教えることができます。
土台となる能力と戦術的な知識と、サッカー選手として活躍するためには両者が必要になるのはお分かりいただけるでしょうか?
算数の勉強においても同じようなことが言えます。
「数の大きさや割合の感覚」「図形の形をとらえる感覚」「空間・立体の感覚」などは土台となる「能力」です。
これらはボールの蹴り方や自転車の乗り方や泳ぎ方と同じく、言語化することが困難です。
ですから授業を聞いたところで理解することはできません。
鍛えるための基礎トレーニングを何度もやって、頭と体で覚えるしかないのです。
それに対して、この問題はどんな図や式を書けば良いかといった戦術は、「知識」として教えられます。
ですから、学校や塾での授業は、主にこの「知識」を学ぶ場になっています。
算数の成績を上げるためには「能力」と「知識」の両方をそろ得る必要があります。
そのことを示す研究として、例えばカーネギーメロン大学のリサ・ファツィオらが行ったこんなものがあります。
▼イメージを使う問題
▼数式を使う問題
数式を使う問題
※図は参考文献[*1]より引用の上で日本語の注釈を追加
小学5年生の子供たちに、 イメージを使うタイプの問題(上段のようなもの)と、数式を使うタイプの問題(下段のようなもの)をたくさん解かせました。
また、これとは別に、算数の一般的なテストを受験させました。
そして、これらの点数を比較したところ、イメージを使う問題がよくできた子は、算数のテストの点数が高いことがわかりました。
また、数式を使った問題がよくできた子も、算数のテストの点数も高いことがわかりました。
しかし、イメージを使った問題の点数と、数式を使った問題の点数の間には関係がありませんでした。[*1]
算数ができるようになるためには、数をイメージでとらえる「能力」と、数式に関しての「知識」の両方が必要だということがわかります。
そして、これらは一方を鍛えればもう一方が自然と育つわけではないこともわかります。
何しろ「能力」と「知識」の成績の間には関係が無かったのですから。
だから、一方が足りない場合はそれを鍛えるためのトレーニングが必要ということなのです。
数をイメージでとらえる感覚だけでなく、図形の形をとらえる感覚、空間・立体の感覚も、それぞれ同様に、算数の「能力」に分類されます。
図形の面積や体積の公式という「知識」を知っていても、複雑な複合図形の中で「おうぎ形」や「台形」や「三角すい」が見えてくる「能力」がなければ、レベルの高い問題は解けないのです。
算数が苦手な子の多くは「能力」が足りない
塾の授業は、多くの場合問題の解き方の「知識」の指導を行います。
一方、「能力」を鍛えるトレーニングは行っていません。
「能力」を鍛えるためには、最初のサッカーの例で言えば「走り込み」のような基礎トレが必要です。
たった1週間走りまくっても、短距離走も長距離走も速くはなりません。
だからサッカーの練習では、日々の走り込みがつきものですよね。
では、塾のカリキュラムにそういった「能力」を鍛える基礎トレがあるでしょうか?
残念ながら、ほとんどの塾にはありません。
一般的な塾のカリキュラムでは、「第〇回 立体の切断」といった形で、1週間立体の問題の解き方の知識を習って終了です。
もともと空間・立体の感覚がある子はそれであっさり解けるようになりますが、そうでない子はなかなか解けません。
算数・数学が苦手な子たちは、それでもなんとかできるようになろうと、一生懸命いろいろなパターンの問題を解き、その問題ごとに解法を「知識」として覚えようとします。
算数であれば「はじき」とか「くもわ」とか、数学であれば「2aぶんのマイナスbプラスマイナスルートb2乗マイナス4ac」とか、よくわからないまま呪文のように公式を丸暗記して、なんとかあてはめて解こうとします。
ですが、算数・数学の問題は少しいじっただけで、まったく違う印象になります。
出題パターンは無限大。
覚えきれるわけがありませんね。
知識での対処は、早々に限界を迎えるのです。
「能力」を鍛えるためのトレーニング
では、どうすればこの算数に必要な「能力」が鍛えられるのでしょうか?
算数・数学というと、図形問題と文章問題があり、それぞれ「図形的な感覚」「割合的な感覚」などが必要になります。
意外なことにこれらは大元の部分ではつながっているようです。
研究によると「空間認識能力」を育てることで、算数力全般が向上したそうです。
ですから、受験勉強をスタートする前の早い段階から「空間認識力」を育てるトレーニングをしておくことで、算数・数学が得意になる下地を作ることができます。
「空間認識能力」を育てるトレーニングとしてご家庭の中で簡単に取り組めるものとしては、積み木・パズル・ブロック遊び・粘土・折り紙・工作・お絵描きなどいろいろありますね。
また、身体を動かすことも「空間認識能力」を育てることにつながることがわかっています。サッカー・バスケットボール・ダンス・水泳などなど、習い事としてやる方も多いと思いますが、それらは全て算数力向上につながっています。
こうした能力は、年齢1ケタのうちの方が育ちやすいそうです。
幼少期のうちから塾・習い事で知識を増やしても、それだけでは早い段階で頭打ちになります。
知識は後からでも身に付けられますので、まずはしっかり遊び、身体を動かし、算数脳のトレーニングをするようにしてくださいね。
そうすれば、あなたのお子さんは算数・数学で得点を稼いで受験を有利に戦えるようになりますよ。
そして高学年の子たちであっても、算数の能力が育っていないなと感じたら、今から可能な限り空間認識能力を育てる訓練を始めましょう。
確かに若いうちの方が運動をしたときに筋肉はつきやすいですが、中年になってからでも運動をすれば筋肉はつきますよね。
それと同じように、ベストな時期ではなかったとしても、やることで確実に成長は見られます。
大人でも空間認識能力は伸ばせたということが研究でわかっていますので、少し時期を過ぎただけの高学年の子たちであれば、まだまだ伸ばせます。
諦めずに取り組んでくださいね。
【参考文献】
[*1]Relations of different
types of numerical magnitude representations to each other and to mathematics achievement.”
Citation: Fazio, L. K., Bailey, D. H., Thompson, C. A., & Siegler, R. S. (2014)
※記事の内容は執筆時点のものです
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