連載 中学受験は親と子の協同作業

塾はいつから行かせるべき? 覚えておきたい「低学年の学習」で重要なこと|中学受験は親と子の協同作業! 正しい理解がはじめの一歩 Vol.4

専門家・プロ
2018年7月19日 石渡真由美

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「子供が中学受験をする場合、塾はいつから行かせるべきなのでしょうか?」という質問をよく受けます。一般的には3年生の秋頃から塾選びを始め、新4年生への進級を前にした3年生の2月から塾通いが始まります。ところが、まわりを見ると1,2年生から塾に通わせている家庭も結構多い。でも、低学年からの塾通いはあまりおすすめしません。それには理由があります。

受験塾の低学年講座は中学受験に直結しない?

中学受験をするなら、いつから塾通いをすべきかを気にする親御さんが多いものです。新4年生コースから大手進学塾に通い、そこから3年かけて、受験のための勉強をするのが一般的です。大手進学塾とは、首都圏でいえば、SAPIX、日能研、早稲田アカデミー、四谷大塚などが挙げられます。

新4年生から塾に通うのが一般的と言いましたが、これらの塾には低学年向けのコースもあります。中学受験に強い塾が開設している低学年向けのコースなのだから、早いうちから通っていた方が受験に有利なのでは? と考える親御さんは少なくありません。でも、その中身はいわゆる先取り学習とも違い、あまり行く意味がないと私は考えています。

塾は早い段階から優秀な子を確保したい

塾の低学年向けコースは国語と算数の2科目が一般的です。算数は図形問題やパズルなど比較的難しいものを扱います。低学年の段階では、小学校の算数で、数量関連で習っているものが少なく、図形以外で難しい問題を多く作れないため、難問が図形関連になりやすいのでしょう。図形問題は大人が挑戦してもなかなか難しい問題が多いのですが、中学受験に直結する問題かといえば、そうではないと言えます。基本的に低学年の学習カリキュラムは、中学受験のカリキュラムとは切り離されていているのです。

こうしたコースを設けている理由は、少子化で中学受験者数が年々減少傾向にあることに危機感を覚えた大手進学塾が、早い段階から教育熱心な家庭の子を確保しておきたいという思いがあるようにも見えます。

低学年で大切なのは「勉強は楽しい」と感じさせること

低学年の塾通いをおすすめしないのには、ほかにも理由があります。塾では小学1年生のクラスでも成績表があり、偏差値も出ます。中学受験に成績順や偏差値は不可欠ですが、しかしいくらなんでも小学1年生からこれらの数字で、子供能力を判断するのは早すぎます。まだ幼くて、たくさんの可能性を秘めているこの時期から、競争原理で学習をしてはいけないと思うのです。

こうした塾で出やすい弊害は、まず親御さんが非常に早い時期から子供の成績にこだわってしまうことです。わが子が成績優秀でいつもクラスのトップにいるならいいでしょう。でも、そんな子はごくわずか。そのごくわずかな秀才とわが子を比較し、低学年のうちから「もっと頑張りなさい」「○○ちゃんはできるのに、なんでできないの?」などの言葉が増えていく。こんな状態はよくありません。

一度勉強嫌いになった子を勉強好きにするのは難しい

子供は頑張っているのに、お母さんに認めてもらえない。お母さんは勉強の時間になると、いつも怒っている。小学校低学年のうちからそんな生活が続いていたら、子供は確実に勉強嫌いになってしまうでしょう。

一度勉強嫌いになった子供を勉強好きにするのは、とても大変です。中学受験の勉強を始める前段階からこのような状態になっていては、そこから3年間頑張り続けるのは難しいでしょう。中学受験を成功させる秘訣は、子供が楽しく勉強できる環境をつくってあげること。それには、まず「勉強が好き」でなければ、続かないのです。

塾通いの前に、五感を使ったさまざまな体験を優先して

では、低学年のうちはどのように過ごすのがベストなのでしょうか? 学校の勉強だけをしていればよいのでしょうか?

低学年に大事なのは「読み」「書き」「そろばん(計算)」

3年生までにしっかり身に付けておきたいのは、塾で教えるような難しい問題ではなく、「読み」「書き」「そろばん(計算)」の基礎学力と、外遊びや暮らしの中で体験する生活知識です。

中学受験の国語の問題は長文が多いので、まず読むことに慣れておく必要があります。書くことが苦手だと、塾の授業の板書のスピードについていけなくなります。また、書くことを億劫がる子は成績が伸びません。計算は算数入試では入口にあたるもの。ここでつまずくと、その先の問題を解くことができません。つまり、この3つの基礎学力を鍛えておくことが大事なのです。

幼少期の生活体験から得た知識が学力の基礎となる

あとはたくさん遊ぶことです。幼少期の遊びや生活体験から得た知識は、その後の学習の基礎力として大いに活躍するからです。学びは五感を使って体験することで得ることができます。

たとえば、子供が公園で砂遊びをしているとします。親からすればただ楽しく遊んでいるように見えますが、実は子供はここで多くのことを学んでいるのです。実際に砂を触ることで、湿った砂は黒くて握りやすく、乾いているとサラサラして手からこぼれ落ちることを自分の身体で知ります。すると、少し大きくなって砂の型抜きをしようとなった時、子供はどうすると思いますか? 経験の引き出しがスルッと開いて、ぎゅっと握った砂を思い出し、砂に少し水を加えれば固まるはずと考えることができるでしょう。子供は自分の身体で得た経験や知識は忘れません。このように、幼少期の遊びや生活体験から得た知識は、その後の学習の基礎力となるのです。

「塾はいつから?」よりも「体験できてる?」を考えよう

低学年に必要なのは早期学習よりも、五感を使ったさまざまな体験です。遊びや生活で得た知識は、例えば中学受験の理科では、物理・化学・生物・地学のあらゆる分野において理解を助ける力になります。また算数では、積み木や折り紙で遊んだ経験が生きてきます。積み木をあれこれ動かして形を変えたり、折り紙を切ったり折ったりした経験は、中学入試の算数でとても役立ちます。また、友達と遊んだりケンカをしたりした経験は、他者理解を育み、国語の心情読解へとつながっていきます。つまり、中学受験の下地は、低学年で体験した遊びや生活によってつくられているのです。


これまでの記事はこちら『中学受験は親と子の協同作業! 正しい理解がはじめの一歩

※記事の内容は執筆時点のものです

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