連載 男女別学を考える

生徒と誠実に向きあう、自主性を育む伝統校・三輪田|男女別学を考える#7

専門家・プロ
2024年5月09日 杉浦由美子

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男子校、女子校が共学化するケースが増えていますが、いっぽうで、男女別学だからこそできる教育のよさもあるという声があります。男女別学校の現在と今後を考える連載です。

ここ数回の連載でも述べているように、この数年、男子校の人気が上がっているのは、伝統校のオーソドックスな教育の良さが見直されているからです。ICT教育や探究学習といった新しいものを取り入れつつも、従来から「人間性と学力を上げていく」という方針を続けてきた学校は信頼できると保護者に思われているようです。

女子校でも、その伝統校の人気復活の流れはあります。2024年入試では市ヶ谷にある三輪田学園が人気を集めました。

法政大学との高大連携を発表し、最大30人の協定校推薦の枠を発表したことが話題になりましたが、それはあくまでもきっかけであり、伝統女子校らしいオーソドックスで良質な教育が再評価されたように見えます。 

そこで今回は三輪田学園の入試広報部長・数学科教諭の上田谷留美先生に「三輪田学園の今」について伺いました。

三輪田学園

(写真提供:三輪田学園)

基礎学力の向上と探究学習をバランスよく         

──三輪田学園の生徒は推薦入試で大学に進学する割合が多いようですが、実際はいかがでしょうか。(杉浦)

2023年度実績で卒業生177名中、103名が推薦・総合型で大学に進学しました。

2023年度は法政大学への協定校推薦が18名です。

生徒の希望する進路への進学を指導するために、一般入試だけではなく、推薦入試にも柔軟に対応しています。

──総合型選抜に前向きな私立一貫校は実は少ない印象ですが、三輪田は積極的に指導されているのでしょうか。(杉浦)

基礎学力はもちろん大切ですので、小テストを頻繁に行うなどしてしっかり定着を図っています。理解が不十分な場合は補習をすることもあります。しかし、以前はあれもこれもと生徒全員に同じ量の課題や宿題を出していたのですが、今は、それぞれの生徒が得意を伸ばせるように、好きな教科や得意な分野をより深く学べるような指導を行っています。

英語は中学はすべて取り出し授業で、3つの習熟度別クラス編成となっています。数学の授業も中学2年から習熟度別のクラスで行っており、クラスによって進度はあまり変わらないのですが、扱う問題の内容や量が少し違います。

この難易度別のクラス分けは定期考査ごとに入れ替えがあります。

一方で、探究学習に関しても、中学から始めています。中学の総合的な学習の時間(探究学習)は、MIWADA-HUBと名付け、複数の専門分野から生徒自身が選んだ講座に所属して、課題を設定します。大学のゼミのようなイメージです。

その講座で情報収集や分析、発表を通じ、主体的な学びをしていきます。

高校に入ると探究学習はMIWADA-LABという名称になり、教科の枠を越えて、より進化した探究をしていきます。

理系教育にも力を入れており、生物・地学・物理・化学の4つの実験室があり、中学3年間で約100回の実験授業を行います。

総合型選抜のために探究学習をさせるというわけではありません。全員の生徒が自分の好奇心や将来の希望を追い求めるために、探究学習はあると思います。

また、三輪田では以前から読書教育に力を入れており、読書の時間があり、中学3年では卒業論文を書くための指導をします。

かつての在校生で、中3社会科読書の卒業論文で「脳死下での臓器移植」について書いた生徒がいました。それがきっかけで医学の道を志し、医学部に進学し、現在は医師として活躍しています。読書教育も探究学習のひとつになっていると思います。

──学力を上げるための学習と探究学習のバランス良いように思えます。探究学習を活かして総合型選抜入試に挑戦する生徒もいると思いますが、それに対してはどういった指導をされますか。(杉浦)

大学で国文学を勉強したいなら国語の教員、社会系の学科に進学したいなら社会科の教員、また、音楽大学に進学したいならばもちろん音楽の教員が適宜、アドバイスをしていきます。

図書館には5,5000冊の蔵書がありますが、社会の教師はどこにどの本があるかを把握しています。

ですから、探究のテーマを聞いて、「それならこの本を読むといい」と本を手渡したり、論文の指導もしたりします。

「過保護になりすぎない」指導が自主性を育む

──中には総合型選抜を意識して、探究のテーマ設定も「こうしたほうがいい」と指導する学校や塾もありますが、そこまではやらないということですね。(杉浦)

「過保護になりすぎないこと」は心がけています。「テーマを決めるのは本人。もちろん必要ならばアドバイスをします。

伝統校というと校則が厳しい印象をお持ちの保護者も多いですが、三輪田は髪型の決まりも緩やかです。もちろん、パーマをかけたり、髪を染めてはいけませんが、学生らしく、清潔感がある髪型でしたら、細かい指導はしておりません。指導をしません。制服もニットだけでも3色ありますし、ボトムスはスカートだけでなくスラックスもあり、生徒たちは自分で選んだ組み合わせで着用できます。

自主性を育む指導をしているためか、学校見学会では生徒たちが広報ボランティアとして積極的に手伝いをしてくれています。

この前の春休みに受験生の前で模擬授業をしたのですが、生徒たちが「なにを教えよう」という企画から考えていました。

受験で必要な算数の流水算や図形を教えたり、英語を教えたりしていました。

──伝統校というと規則が厳しいイメージがありますが少し違うのですね。今回、取材させていただいて、デジタルツールが実に充実していることにも気づきました。(杉浦)

三輪田学園の電子黒板

授業で活用されている電子黒板(写真提供:三輪田学園)

教師、生徒ともに、iPadを一台所有しています。この中にテキストや問題集も入っていますから、宿題もデジタルで配信したり提出したりすることも多いです。もちろん、紙のノートを提出することもあります。Microsoft Teamsも利用しています。

また、電子黒板を設置している教室もあります。デジタルなのでそこに書かれた内容もすべて保存ができますし、QRコードを読み取って、iPadに転送もできます。

欠席した生徒が授業の内容を把握するためのフォローに使用することもあります。

デジタルツールを駆使して、学習の効率化を図っていきたいと考えております。

取材を終えて

──三輪田学園では、小学校では内気で「人前で話すのが苦手……」という性格だった生徒が、三輪田に入学して、積極的にリーダーシップをとったり、学校説明会で受験生の前に出て学校のよさを自ら発信することにチャレンジしていく生徒が多くいるそうです。

生徒の自主性・主体性を育む同校の教育方針があってこそというのはもちろんですが、取材の中では、「思春期の女子たちは、男子の目がない環境のほうが自分らしさが出せて積極的になりやすいこともあるのだろう」というお話も出ました。

男女別学の存在意義を改めて感じさせられるエピソードでした。(杉浦)

※記事の内容は執筆時点のものです

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