連載 「下剋上受験」桜井信一 特別インタビュー

どうすればケアレスミスや計算ミスをなくせるのか?|「下剋上受験」桜井信一 特別インタビュー(8)


0

両親は中卒、それでも娘は最難関中学を目指した! そんなインパクトある実話がベースのTBS系ドラマ「下剋上受験」……。その原作者である桜井信一氏に、自身が監修を務める「マイナビ家庭教師」のこと、中学受験のこと、勉強方法についてなど、受験生を抱える保護者はもちろん、すべての親御さん必見の話を聞いた。

どうしたらミスを減らせるのか? ミスが減るから得点が増えるのではなく、その逆。学力が高くならないとミスは減らない

――「どうすればケアレスミスや計算ミスをなくせますか?」という相談が保護者から数多く寄せられるとうかがいました。

みなさん、塾の先生からは「ミスが多い」イコール「集中力が足りない」「演習量が足りない」などとアドバイスされるようですが、そもそもそんなに集中力の高い小学生ばかりだろうか? そこまで長時間集中していられるだろうか? 演習量を増やせば集中力は低下して当然……。そんなふうに思っています。

では、どうしたらミスを減らせるのか? 極端な話をしてしまうと、学カが高くならなければミスは減りません。ミスが減るから得点が増えるのではなく、その逆。ここを勘違いしている人が多いのではないでしょうか。

たとえば150点満点の算数の模試で78点の子がいたとする。計算間違いがなければ80点台だった。もっと集中力を上げて次回からはミスをなくすように注意した。でも、懲りずにまた繰り返す……。よくある話ですね。

しかし、これが98点の子だったとしたらどうでしょう。計算ミスがなければ大台に乗ります。模試の平均点というのはおおよそ半分くらいですから、100点を超えたあたりから偏差値は高いレベルで推移するはずです。

さらに118点の子だとどうでしょう。このクラスになると1問正解になるだけで順位が大きく変わってきます。当然、1問1問が大事になってくる。そうそう簡単にはミスれない……。おのずと問題に向き合う姿勢が変わってくるわけです。

――なるほど、同じ1問でも意味が違ってきます。

そうなんです。1問の重みを感じない限り集中力はなかなか高まらず、ミスも減っていかないんですね。だって78点も82点も大差ないでしょうから、「どっちでもいいや」とどこかで思っちゃう。

ところが高得点になればなるほど、ミスに対し本気で「もったいない!」と悔しがるようになる。そのタイミングでミスを減らす策を聞かされると「ぜひ試してみよう!」という気持ちになるでしょう。

けれど、その段階まで至っていないケースでは「つぎに注意すればいいや」程度の意識だと思うのです。いま78点付近、偏差値50付近の子の場合はミスをうるさく指摘するよりも、とにかく解けない問題を減らして学力を上げることが最優先ではないでしょうか。偏差値60に近づいていけば「ミスしたくない!」と自然に思うようになるはずです。

――意識が変わらない限り、ミスは減らないというわけですね。

では、ミスの代表格ともいえる「計算ミス」はどうすればなくなるのか? 実はこれ、意外と簡単に解決するんです。私たちはオークションでテキストを入手していたので、たまたま落札した本ができる子のお古だったり、その反対だったりしました。

両者の解き方を客観的に見比べてみると、できる子とできない子ではまるで計算手順が違うことに気づいたんですね。できる子は見事にミスが起きにくいステップを踏んでいるんです。それを散々分析したうえで、わが家では3つのルールを決めました。

1、よほどのことでもない限り、筆算をしない
2、繰り下がりの引き算をしない
3、割り算を使わない

「筆算をしないということは暗算力が必要?」と思われるかもしれませんが、数字に「円」をつけるとさほどややこしくなりません。

たとえば「21×5」は、「20円×5」と「1円玉を5枚」と考えるとたやすく暗算できます。「円」をつけて計算すれば、大きな数でも一桁間違って答えるようなミスを防げるのです。「8000+3000」を1100なんて勘違いすることもありません。

だってせっかくもらったお年玉が1100円に、一桁も減っちゃったら大騒ぎです。「990×8」もおよそ1000円の物を8個買ったと考えると、だいたい8000円。990は1000に10足りないから不足分は10×8で、8000から80を引く。

すると7920円となり、792や79200と誤って答えを出すこともありません。

――お金として数字を捉えることで、そこに量を感じられるようになる、と。

繰り下がりを避けたのは、引き算の際にミスが生じるケースがあまりに多いので、ならばいっそのことすべて足し算で解くというルールにしました。

子どもは足し算のほうが得意ですよね。引き算を足し算に変えるのは比較的容易です。

たとえば「142-128」の場合、仮に130センチを基準にしてそこから12センチ背の高い子と2センチ背の低い子の身長差は「12+2=14」というように、足して計算する方法にしました。

だんだん慣れてくると、数直線上の2点の間のどこかキリのよい数字を境に、左右の幅で考えられるようになります。

「筆算をしない」ということは、割り算に対応するのがむずかしくなってしまうんです。そこで割り算をやめて、代わりに分数を使います。「1÷2=1/2」というように、常に分数にして約分するようにしたのです。これで劇的に計算が簡素になり、小さな掛け算で仕留められるようになります。

このように、ミスというのはどんな時に起きるのかをひとつずつ列記することで、ある程度未然に防ぐことが可能なのです。ミスが起きやすい状況ごとに、それを防ぐための作戦を立てることが重要なんですね。

さらに計算ミスの防止策をトコトン研究してみて気づいたことがあります。ミスをなくす目的でたどり着いた計算方法が、結果的に計算を軽くしてくれました。これにより「算数を考える余カ」が残るんですね。

計算に必死だったため頻繁に起きていたミスが減るのと同時に、計算自体が楽になったことで頭の大半を問題を考えることに使えるようになります。思わぬ副産物でした。

文◎「マイナビ学生の窓口」編集部

※この記事は「マイナビ家庭教師」Webサイトに掲載されたコラムを再編集のうえ転載したものです


■「下剋上受験」桜井信一 特別インタビュー バックナンバー

※記事の内容は執筆時点のものです

0