連載 ホメ夫先生のやる気引き出し術

中学受験入試シーズン到来。「珍回答」は封印してくださいね|全力珍回答! ホメ夫先生のやる気引き出し術(13)

専門家・プロ
2016年1月28日 辻義夫

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東日本は大荒れの天候があり、本格的な寒さも厳しいですが、関西では入試が始まり、東京、神奈川でももうすぐ統一入試日。受験生たち、体調に気をつけてがんばってください。

この時期、塾の教室では、異様なまでの「一体感」が生まれるものです。大手の進学塾の中には、入試前の6年生はハチマキを巻いて勉強し、授業の終わりにはみんなで「合格するぞ~!」みたいな雄叫びを上げるなんてところもあります。

入試会場にも各塾ののぼりや旗が舞い、まるでお祭りか何かのようになる学校もありますね。受験生みんなが、これまでやってきたことを存分に出し切ってほしいものです。

さて、今回はちょっと入試間際の珍回答のお話。

さすがに入試直前になると、「1点を失う怖さ」を子どもたちは痛感します。過去問を解いてみたら、「あと少しで合格だったのに」なんて経験をするからです。合否を判定する塾の模試の中には「A判定」とか「合格可能性80%」といった結果表記だけでなく「合格」「不合格」といった判定が出るテストもあります。

だからおのずと慎重になります。1点でも多く取るためにできることはないか。そんなことをしっかり考えるようになるのです。受験する学校の採点基準をよく確認することも大切ですし、できるだけ減点されないような答案を仕上げることも大切だと考えるようになります。ほとんどの子は……。

合格判定テストで1点の差を実感

多くの子は減点されないよう慎重になりますが、なかには、あっけらかんと乱雑な字を答案に書いてしまう子もいました。とっても明るくて楽天的な女子、M子さん。おい、そんな乱雑に書いて×になったらどうするんだよ、とこっちが心配になるのですが、本人はいたって楽天的。

「先生、考え過ぎだよ。大丈夫。」

なんて調子です。

そんなM子さん、塾で行われた、志望校にそっくりな問題で合否を判定するテストに臨みました。お正月です。入試直前、大一番ですね。実力は合格ラインになんとか届いていたので、ぜひここは合格をとりたい、私もM子さんもそう思っていましたし、順当にいけばそうなるのでは、と考えていました。

そして「合格発表」の日。彼女はいつものように明るくやってきました。

「どうだった?」

と聞くと、

「え?あ、だめだった」

とあっけらかんと言ったのですが、声にいつもの軽やかさはありませんでした。「予行演習」とはいえ、そりゃ本人としてはあっけらかんどころか、泣き出したい気持ちかもしれません。

二人で恐る恐る答案を眺めていきます。算数は難しかったようで、あまり点が取れていませんでした。国語が得意なM子さん、生命線の国語を見ていきます。

……まずまずだな。とるべきところはしっかり取れてるし、理科と社会にミスがあったけど、なんとか合格ライン何じゃないかな……。

成績表を確認します。

「ええと、合格最低点は……297点か。……え、君の合計296点じゃん?」

「1点差?」

「え~?」

「どこかあと1点くらい取れたはずだよね」

ともう一度国語の答案。

記述問題で1点減点されています。

「なんで減点されてんだろ……」

「あ……」

「ちょっと、『小さい』が『少さい』になってんじゃん!」

本人はきょとんとしています。

しばらくの沈黙の後、M子さんにこう言いました。

「入試って、答案が返ってこないから、どこで減点されたか分かんないんだよね……。」

たった1回のテストが子どもを成長させる

彼女はなんだかハッとした様子で、その日から少し変わりました。なんというか、物腰がちょっと落ち着いた感じで、明るい性格はそのままに、ちょっとお姉さんになった感じです。

志望校の入試では「珍回答」はなかったようです。いや、答案が返ってこないからわかりませんが。でも、ないと信じましょう。もちろんM子さんは合格しました。

たった1回のテストで、お子さんってこんなに大きく成長するんだなと、そんな経験でした。

受験生の皆さん、本番の入試だけは「珍回答」は無しにしてくださいね!

※この記事は、「マイナビ家庭教師」Webサイトに掲載されたコラムを再編集のうえ転載したものです


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※記事の内容は執筆時点のものです

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辻義夫

辻義夫

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中学受験情報局「かしこい塾の使い方」主任相談員

つじ よしお大手進学塾での指導経験を経て、中学受験専門プロ個別指導SS−1創設メンバーとして副代表、現在は顧問を務める。「わくわく系中学受験理科」と称される指導法、勉強法は「楽しく学べて理科系科目が知らない間に好きになってしまう」と好評。子どもの良いところをほめまくることから「辻・アインシュタイン・ホメ夫」の異名を持つ。「カレーライスの法則」「ステッカー法」など子どもが直感的に理解できて腑に落ちる解法を編み出す名人でもある。著書に『頭がよくなる 謎解き理科ドリル』(かんき出版)『中学受験 見るだけでわかる理科のツボ』(青春出版社)『中学受験 すらすら解ける魔法ワザ 理科・計算問題』(実務教育出版)などがある。

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