連載 ホメ夫先生のやる気引き出し術

子どもの引っ込み思案は悪? いえいえ、それも個性です|全力珍回答! ホメ夫先生のやる気引き出し術(25)

専門家・プロ
2016年8月09日 辻義夫

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こんにちは。辻・アインシュタイン・ホメ夫です。

前回の記事は夏休みがはじまったばかりの頃でしたが、もうすでにお盆目前。

みなさん、帰省や旅行など、家族イベントの準備中でしょうか。

さて、今回は珍回答というより「回答なし」、つまりあまりにもシャイ過ぎて、質問に対して回答にならない、要は答え(られ)ないお子さんに関してです。

題して「引っ込み思案は悪なのか?」です。

自分の意見をしっかりと相手に伝えることが大切、ということが間違っているとは思わないのですが、引っ込み思案、というか極端な話、ほぼ全く喋らないお子さん、実は少なくありません。

喋らないのは学習障害?

おとなしいお子さんのお母さんは、そのこと自体を心配します。もっと積極的になってほしいとか、塾の先生に質問しに行ってほしいとか、ヤキモキします。元気よく先生になついていくお子さん、活発なお子さんはいろいろ先生に教えてもらってどんどんできることが増えるのに、うちの子ったら……。そんな気持ちになるのです。

あんまりおとなしくて、心配するあまり「学習障害の疑いがあるのでは……」と考えたりして、さらに不安が増して……、といった相談をしに来られるお母さんもいます。

なにせ、世界中のお母さんたちの最大の関心事はわが子のこと。心配事は尽きません。

そんなお母さんにホメ夫はお伝えするのですが、「引っ込み思案」は別に珍しいことではないし、悪いことでも責められるべきことでもありません。

そんなお子さんも、家では快活に喋るそうです。ただ、家の外で、特に大人の人に対して喋るのが苦手なのです。答えが間違っていたら何か言われるかもしれないし、だいいち恥ずかしい。

そもそも大人の人は、子どもである自分が思いもよらないことを知っていて、「何だそんなことも知らないの?」なんて言われるかもしれない。

そんな気持ちがあるのです。

ちょっと大げさに書きましたが、大きく外れてはいないでしょう。

ほぼ全く喋らないお子さん相手のマンツーマン授業とは

ホメ夫が講師として教える個別指導教室、SS-1(エスエスワン)での指導は完全な1対1です。その生徒であるお子さんの中には、先述のような「ほぼ全く喋らないお子さん」もいます。

入会(いわゆる「入塾」のことです)前に、必ず無料の体験授業があるのですが、その体験授業にて。

ホメ夫「割合が苦手って聞いたんだけど、『もとにする量』とか『くらべる量』って言葉がわかりにくいのかな?」

お子さん「……」(コクリと頷く)

ホメ夫「そうか。そうだよね。じゃ、もうそんな言葉は忘れちゃおう」

お子さん「……」(ちょっと笑顔になる)

ホメ夫「割合ってのは、要するに『何倍』ってことなんだ。『8割』ってあったら、『0.8倍』ってこと。『AはBの8割』ってあったら、『AはBの0.8倍』ってことなんだ。どう?わかる?」

お子さん「……」(頷く)

こんな調子です。授業を後ろで見ているお母さんが焦って割り込むこともあります。

お母さん「Yちゃん(お子さんの名前)、先生が聞いてるでしょ!答えなさい!」

そんなときは、いったんお母さんに堪えてもらいます。

大丈夫です。返事なんかなくても。だって表情を見ていれば、お子さんが今どんな常態かはわかります。

「はっきり言わなくちゃわかんないでしょ」

こうやって切り捨ててしまうことは簡単です。でも講師がそんなことしていたら、嫌われて終了です。荒療治は成功することもありますが、それはほぼテレビのなかだけの話です。

普段の授業も無言。状態を知る手がかりは……

そんなこんなで、ほぼ全く喋らない小6のお子さん、Yさんの担当になったホメ夫。体験授業はほぼ無言の受講でした(^^)

で、ふだんの授業も基本は無言。

頷く、ちょっと微笑む、首を傾げる、迷う、まばたきする、えんぴつを人差し指でトントンと叩く、ちょっと眼の焦点がずれる……。

そんなサインがYさんの状態を知る手がかりでした。でもそれで、いろんなことががわかるようになるんです。嘘だと思われるかもしれませんが、ほんとです。

慣れて、少しずつ自分の事を話すようになったYさんですが、それでもこちらの質問にひとこと、ふたこと返すので精一杯です。でも大きな前進です。

そんなYさんの入試が近づいてきました。実力的には「ちょっと格上」感があるK中学校。でも、ずっと憧れてきた学校だから、この学校だけは絶対に諦めずに受ける!という熱い思いは、家での様子をお母さんから聞いてホメ夫ははじめて知ったのでした(^^)

合格のひとことは……

試験を受けた帰り、Yさんとお母さんが教室に寄ってくれました。

ホメ夫「Yちゃん、試験はどうだった?緊張した?」

Yさん「……うん。」(コクリと頷く)

ホメ夫「手応えっていうか、『やってきたことを出しきった感』みたいな感じはある?」

そこでYさんは「ふ~っ」と息を吐いてコクリとうなずきました。

よし。それでいい。結果を待とう。

合格発表の日。

SS-1では、合格でもそうでなくても、必ずご家庭と連絡を取り合って、合格ならいっしょに喜び、そうでないなら今後の対策を一緒に考える、そんな入試期間をご家庭といっしょに過ごすことにしています。

K中学校の合格発表は現地まで行かなければわからない、今や古典的なタイプ。合格発表の会場にYさんとお母さんが行っているはずです。

発表の時刻の十数分後、教室の電話が鳴ります。

「もしもし」

「……」

「Yちゃん?」

「……」(ふ~っと息を吐き出す)(Y、ちゃんと自分で言いなさい、とお母さんの小声が)

「……どうだった?」

「……合格……しました……」

これほど講師として嬉しいことはありません。

「!!!良かったじゃん!!!おめでとう!!!今どんな気分?」

「……うれしい……」

噛みしめるように言ったYさんの言葉。

その行間には、語られることのない無数の喜びの言葉が渦巻いていたはずです。

数年後

SS-1を「卒業」したYさんのお母さんに、ばったり会いました。

「先生、Yは中学校に入って、自分と同じ名前のミュージシャン……っていうんですか、その方に憧れて、バンドを始めたんです。毎日ギターの練習をしてるんですよ。中学校もあってるみたいで。お友達もけっこう多いんです。意外じゃないですか?」

いや、お母さん、意外ではありませんよ。

子どもは成長し、ちょっとしたことがきっかけで、どんどん変わっていきます。大人がびっくりするくらいのスピードで。

Yさんも今は成人し、いい大人になっているはず。

ときにはまだギターを弾いているでしょうか。

※この記事は、「マイナビ家庭教師」Webサイトに掲載されたコラムを再編集のうえ転載したものです


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※記事の内容は執筆時点のものです

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