連載 ホメ夫先生のやる気引き出し術

塾の授業がわからないのは「子どもの聞く力」「講師の伝える力」どっちのせい?|全力珍回答! ホメ夫先生のやる気引き出し術(24)

専門家・プロ
2016年7月26日 辻義夫

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こんにちは。辻・E・ホメ夫です。

夏休みが始まりましたね。

……で、梅雨明けはまだなの?

そう、この原稿を書いている時点では関東地方の梅雨明けはまだ。で、調べてみると、過去には8月に入ってから梅雨が明けたこともあったそうです。

首都圏では水不足が叫ばれる中、街ではゲリラ豪雨と思われるにわか雨が降ったり、なかなかうまくいかないものですね。

さて先日、そんなゲリラ豪雨の話をあるお子さんとしていた際、雷についての話題になりました。

屋上に「平井 信」が立っている?

「先生、屋上ビアガーデンとか行く?」

「行ったことあるよ。どうして?」

「この前お父さんが行ったんだけど、急に雨が降ってきたんだって。土砂降りの」

「そりゃ大変だったね」

「屋上でビールなんか飲んでて、雷とか大丈夫なの?」

「ビルには避雷針が立ってるから、大丈夫じゃないかな。でも雷が鳴ったらビールどころじゃないよね」

「ひらいしん?」

「そう、高いビルには避雷針が立ってるんだ。避雷針に雷が落ちる事で、ほかのものに落ちないようになっているんだ」

この話で彼女は非常に驚いた顔になったのですが、聞いてみると避雷針を知らなかったそうです。

で、話を聞きながら彼女が思い浮かべていたのが

「平井信(ひらいしん)」

……いや、この漢字で思い浮かべていたかどうかわかりませんが、「ひらいしん」という男性を想像していたそうです(笑)。

雷に打たれるために平井信さんが立ってるなんて、怖すぎます (T_T)

「先生、いまのもう一回言って。」という子

このように、知らないとかよく聞いていなかったとかで「え?なになに?」という反応をする子はとても多いのですが、なかには疑問や自分が伝えたいことで頭が一杯になって聞けない、という子もいます。

先生が言ったことに対して、それじゃあこれはどうなの? あれは?……といった疑問がどんどん出てきて、それを伝えようとあれこれ考えていて、次の話が聞けないのです。

一斉授業の塾で指導していたころ、担当し始めて間もないクラスに、決まって説明が終わった直後に「先生、いまのもう一回言って」というT君という子がいました。

当時まだ若く未熟だったホメ夫が、つたない指導力で一生懸命授業をしていた……。いや、今でも一生懸命やってますよ。でも当時は技術や余裕が圧倒的にありませんでした。で、これは大切と思うところを一生懸命説明し終わったあとで、T君が必ず「もう一回言って」と言うのでガクッとくるわけです。

ほかの子どもたちは、

「おいおい、ちゃんと聞いとけよ」

「先生、コイツ◯◯先生の授業でも、いっつも『ちゃんと聞け』って叱られてるんだよ。」

と囃し立てます。

「T君、今言ったこと、聞いてた?」

「うん、聞いてた」

「ほんと?」

「ほんとだよ」

一切悪びれる様子もなく、ほんとにわからないんだ、という表情。若かったホメ夫は、自分の説明がわかりにくかったのだと思い、T君が理解しているかどうか、注意深く観察しながら説明するようになりました。

「聞いていない」の正体がわかりました

すると興味深いことがわかりました。T君はホメ夫の言うことを聞きながら、それに関連する別のことを思いついてそれについて考えたり、出てきた疑問についてホメ夫と同時にしゃべっていたり、つまり結果として「聞いていなかった」のです。

たとえばこんな具合です。

「このようにして、水に流されてきたいろいろなもの、石とか砂とかドロとか、そんなものが沈んで、つもってできたのがたい積岩っていうんだ。砂が積もってできたのがサ岩、小石が積もってできたのがレキ岩……」

こうして説明している間に、T君の頭の中に「?」が生まれます。

「先生、たい積岩の『たいせき』って、あの『体積』って字?」

この疑問が生まれた瞬間から、T君はこの疑問から離れられなくなって、あとの説明をあまり聞くことができません。

「T君、説明はちゃんと聞かなきゃダメだよ」

こう言うのは簡単ですが、「ちゃんと聞きなさい」と言っても、すぐにできるようにはなりません。

「なにか疑問ができても、とりあえず先まで聞いて欲しいんだ。最後まで聞くとわかるように話すからね」

とT君には伝え、できるだけ疑問にとらわれずに最後まで聞くように言いました。またホメ夫の「しゃべり」が未熟だということも痛感し、話し方にも工夫するようになりました。

もしもお子さんが塾の授業をよく理解していないと感じ、「あの子、ちゃんと聞いてるのかしら」と思ったら、「ちゃんと聞く」とはどういうことか、このように言葉にして伝えてあげるのもひとつの手です。

そもそも子どもにとって、講師の話はわかりにくい

こうやって子どもたちのことを注意深く観察し、話し方にも気を配るようになると、これはT君だけのことではなく、子どもは多かれ少なかれ大人の話をわかりにくいと感じ、努力しながら聞いているという当たり前のことがわかってきたのです。

子どもの側に努力して乗り越えてもらったほうがいい場合もあれば、大人の側から歩み寄って、子どもにわかりやすい言葉を探すのがいいこともあります。

次第にホメ夫の話し方の技術も、T君の聞く力もついてきました。

「こうやって、水に流されてきた石とか砂とかドロとかが沈んで、つもってできたのがたい積岩なんだ。たい積岩の『たいせき』は面積・体積のあれじゃないよ。難しい字じゃないんだけど、あとで説明するね。で、砂が積もってできたのがサ岩、小石が積もってできたのがレキ岩……」

先生が説明をちょっとしくじっただけで、子どもたちの理解度は大きく下がります。ホメ夫の持論なのですが、話を「難しい」「わかりにくい」ものとして子どもたちに受け取られた瞬間、「負け」なのです。講師として。

さて、こうやって子どもたちに鍛えられ、子どもたちの様子や自分の話し方に気を配る余裕が出てくると、ナイスな「返し」もできるようになります。

「先生、今のもう一回言って」

「ひと文字あたり10円になりま~す」

「さっきので100万回目だぞ。次で100万1回目だからな。よく聞いておくように」

などなど、子どもたちから「またそれかよ~」っていう嬉しいツッコミが得られる「お約束」の返し、みなさんが知っている先生たち、どんなレパートリーをお持ちでしょうか。

お子さんに聞いてみましょう(^^)

※この記事は、「マイナビ家庭教師」Webサイトに掲載されたコラムを再編集のうえ転載したものです


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※記事の内容は執筆時点のものです

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