連載 脳を育てる勉強法|ドクター吉田

オナラについての詩をどう捉える? 受験医学のカリスマ、ドクター吉田の脳を育てる勉強法(3)


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灘中学・開成中・桜蔭中など、有名中学に合格するには、もともと頭のいい子で、さらに「ガリ勉」をしなければならないと、多くの親が思い込んでいるようです。

しかし、実際の入試問題を分析すると、この思い込みは間違いであることがハッキリわかります。ごく普通の家庭での親子の会話などが頻繁に出題されており、「共感する能力」こそ求められているのです。

子供だけでなく親も普通の人の感情を読み取ることができなくなってきている

たとえば、2014年の開成中の国語で、オナラについての詩が出題されました。孫がお風呂でしたオナラの泡を、祖父が真珠のようだと自慢したという内容です。この詩を読ませ、祖父がオナラを自慢した理由が問われました。

「祖父が孫を愛する気持ちが強いので、オナラまで自慢したくなった」というのが正解です。小学生にも難しい問題ではありません。しかし、私が主宰を務める「中学受験・お母さん塾」で、有名中学を目指す受験生に解いてもらうと、「オナラの泡が一列に並んだ形状が美しいため自慢した」といった的外れの解答をした子供が数多くいました。算数の超難問はスラスラ解けるのに、普通の人の感情を読み取ることは出来ないわけです。

さらに驚いたのは、その子の母親に同じ問題を解いてもらうと、子供と同じような誤答をしてしまう場合が多かったのです。スマホやゲームの影響で感情の劣化が進んでいると指摘されていますが、有名中学を目指す親子でも脳機能の異変が起こっている一端を目の当たりにし、私は背筋が寒くなる思いがしました。

難解な論説文から共感能力を問う問題へのシフト

開成中は、オナラが下品なものだと感じる人もいることを承知で出題されたはずです。あえてこの問題を作成された先生は、間違いなく私と同じ問題意識をお持ちになっていたのでしょう。

こうした傾向は、他の有名中学でも見られます。かつて私が在学していたときは、「東大入試で小林秀雄の難解な論説文が出るので、中学入試でも同じ傾向の説明文を出題するようにしているんだ」と、灘中学の国語担任の先生がおっしゃっていました。しかし、それから40年が経過し、こうした出題はなりをひそめ、ごく普通の家庭での親子の会話などが頻繁に出題されています。

中高一貫の有名中学にとって、大学受験の実績を上げるため、算数の難問を解ける子供に入学してもらいたいのは確かです。しかし、共感する能力が乏しい偏った脳機能の子供を入学させると、6年間、苦労させられるのは担任の先生です。だから国語では、あえて感情を読み取らせる問題を出題するのです。こうした傾向を踏まえ、「お母さん塾」では、夕食後、入試問題の出題文を題材に親子で話し合うことを呼びかけています。

※この記事は、「マイナビ家庭教師」Webサイトに掲載されたコラムを再編集のうえ転載したものです。


吉田たかよし(医学博士・心療内科医師)

灘中学、東京大学、国家公務員上級経済職試験、医師国家試験などの合格体験を元に、日本で初となる受験生専門の心療内科、本郷赤門前クリニックの院長を務める。カウンセリングと最新の磁気刺激治療を組み合わせ、「受験うつ」から早期回復を図るプログラムを開発。脳科学と医学を応用した受験指導にも取り組む。『今どきの大人を動かす「ほめ方」のコツ29』(文饗社)など著書60冊を上梓。

本郷赤門前クリニック
https://www.akamon-clinic.com/


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※記事の内容は執筆時点のものです

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