連載 脳を育てる勉強法|ドクター吉田

五輪から学ぶ正しいライバル関係の築き方 受験医学のカリスマ、ドクター吉田の脳を育てる勉強法(5)


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2016年のリオ五輪、競泳の男子400メートル個人メドレーでは、子供の頃からライバル関係にあった萩野公介選手が金メダル、瀬戸大也選手が銅メダル。子供の成長にとってライバルの存在がいかに大きいか、改めて痛感させられる快挙となりました。「うちの子にもライバルが必要だ」と感じた親も多いと思います。

そんな今だからこそ、子供の脳機能を扱う心療内科医として私は警告します。親が我が子に対してライバルの存在を意識させるというのは、絶対にやってはいけないことです。ストレスによって子供の心がゆがみ、長い目で見るとかえってコツコツ努力することができない脳機能になってしまうという調査結果が得られています。

ライバルを引き合いに出すことにより、子供の心を痛めている

特に受験生の場合は、悪影響が顕著です。私が主宰を務める「中学受験・お母さん塾」で、勉強を投げ出してしまった小学6年生を分析したところ、親がライバルを引き合いに出して発奮させようとしたケースが8割を超えていました。

「◯◯君は模擬テストでいい点をとったのに、あなたはどうしてできないの?」

親は子供に良かれと思ってこうした叱咤激励をするわけです。でも、言われた子供は意地の悪い比較をされたと心を痛めます。「隣のご主人は、年収があなたの2倍だそうよ」と妻から言われた夫と、心理状態は同じ。真綿で首を絞められるような嫌な気分になるだけです。これでは、健全な意欲などわいてくるはずはありません。

親は自然にライバルを見つけ出せる環境づくりに注力すべき

でも、勉強にライバルは必要ないというわけではありません。モチベーションについての研究でスポーツだけでなく、勉強についてもライバルがいたほうが努力は持続でき、良い成績に結びつくことがわかっています。

ただし、そのためには2つ条件が必要だということも浮き彫りになっています。

ひとつは、親からの押し付けではなく、子供が自分の意志でライバルを見つけ出すこと。そしてもうひとつは、ライバルに対して尊敬の気持ちを持てるということです。

この2つの条件を満たせば、前向きな心理が養われるため、健全な自己向上欲を育めるのです。実際、萩野選手と瀬戸選手の関係は、どちらの条件も満たしており、それがリオ五輪のメダルに結実したわけです。同レベルの中学を目指す受験生と知りあえる機会をつくってあげるなど、子供が自然にライバルを見つけ出せる環境づくりを親がしてあげると良いでしょう。

※この記事は、「マイナビ家庭教師」Webサイトに掲載されたコラムを再編集のうえ転載したものです。


吉田たかよし(医学博士・心療内科医師)

灘中学、東京大学、国家公務員上級経済職試験、医師国家試験などの合格体験を元に、日本で初となる受験生専門の心療内科、本郷赤門前クリニックの院長を務める。カウンセリングと最新の磁気刺激治療を組み合わせ、「受験うつ」から早期回復を図るプログラムを開発。脳科学と医学を応用した受験指導にも取り組む。『今どきの大人を動かす「ほめ方」のコツ29』(文饗社)など著書60冊を上梓。

本郷赤門前クリニック
https://www.akamon-clinic.com/


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※記事の内容は執筆時点のものです

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