連載 中学受験のイロハ 鳥居りんこ

あらためて中学受験について考える|中学受験のイロハ 鳥居りんこ(12)

専門家・プロ
2016年8月25日 鳥居りんこ

「緊急寄稿 名古屋の事件について」

2016年8月21日、名古屋市で大変残念な事件が起こってしまいました。

多くの方々からコメントを求められておりますので、今回は前回までの流れを無視しまして、こちらの媒体を使わせていただき、思いを綴らせてください。

皆さまも報道等でご存知でしょうが、大変痛ましい出来事です。詳細はまだ捜査中のようですが、新聞各紙の報道によると、父親は「私立の有名中学に進学させようとしたが、受験勉強の姿勢に不満があった」と説明しだしたそうです。

中学受験はお子さんを育てるツールのひとつにすぎません

マイナビコラムをご覧の皆さまには大変ショッキングな事件であり、また同時に「対岸の火事」とは思えなかったご家庭も多々お有りになるかと存じます。

なんでもそうですが、物には2面性があり、バランスで成り立ちます。中学受験も正と負が複雑に絡み合って存在しております。今回のことは「負」の部分が瞬間的にバーストしてしまったがゆえの結果だと思っているのです。

中学受験は怖いものだと感じた方もおられるかもしれません。しかし、中学受験が悪いのではありません。中学受験は子育てのツールのひとつでしかないからです。たかがツールなのです。

長い間の取材を通して感じることは、中学受験というものは合否に関わらず「とても良かった」と感じる層と「この経験はマイナスだった」と感じる層に2極化するということです。

この「良かった」という層に共通することは中学受験をわが子の成長の一過程と捉える傾向にあり、わが子の人生を長い目で見ていると言えます。

7月末に刊行しました拙書「中学受験 わが子を合格させる父親道」(ダイヤモンド社)から引用しますが、つまり、こういうことです。

「受験の結果は関係ない。ただ勉強が楽しいと思えるようになって欲しい。そのための受験であり、勉強だ」

これはある父親が発した言葉で、これにより妻子が救われたというものですがこのことに尽きます。

人は幸せになるために人生の旅を続けますが、その旅の行程で「読み書き算盤」ができ、他者とのコミュニケーションをとることができ、知らないことを知る喜びを「旅のお供」とできるならば、どれほど満ち足りた人生になるでしょうか。

それを私たち親はどこかで感じているから故に「中学受験」というチャンスを生かしてわが子が幸せになるための土台をプレゼントしようと悪戦苦闘しているのだと思います。

この大事なわが子の「知的好奇心」の芽生えこそを褒めて、認めて、大切に育てなければならないのですが、ここに中学受験の魔物が立ちはだかります。親子で1点、2点の違いに固執し、すべてが○か×かという思考になりやすいのです。

大切なことは合格することではありません。お子さんの人生です

私たちはもう気が付いているはずです。高偏差値校に合格し、優秀大学に行くことが「生きやすい人生」とは限らないということを。

目指すべきはもうそこではないという時代の変化に気がついていながら、中学受験はときとして日頃、冷静沈着な大人をも破壊します。

私は日頃、講演等では「テキストは(親が)投げる、破る、縛るものである」と言っておりますが、そういう世界であることは否定しません。しかし、頭の片隅に「この子が人生で最大限に伸びる瞬間を12歳にしない」ことを置いておいてください。

親子で頑張らなければ中学受験はできません。ですが、わが子の人生はその先、半世紀は優に超えて続くのです。

幼い時、わが子が「これは何?」と目を輝かして聞いてきた、その延長線上で「わかるって楽しい!」という単純な喜びを獲得することに重きを置いたご家庭のお子さんは長じたときの伸びがすごいです。

親は「わが子のため」という大義名分を振りかざしがちですが、せっかくの中学受験のチャンスであれば、12歳のピンポイントの「成果」ではない、もっと目には見えない大きなものをプレゼントするのだということを時々は思い返して頂きたいと切に願います。

※この記事は、「マイナビ家庭教師」Webサイトに掲載されたコラムを再編集のうえ転載したものです。


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※記事の内容は執筆時点のものです

鳥居りんこ
この記事の著者
鳥居りんこ 専門家・プロ

エッセイスト、教育・子育てアドバイザー&介護アドバイザー。「偏差値30からの中学受験」シリーズ(学研)などの著者。受験から子育てまでの講演・執筆活動多数。ブログでは、中学受験、大学受験、子どもと自分の就職、子育て、夫婦問題、老人介護問題、その他あらゆる女性が抱える難しくも、素敵な日々を綴っています。

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