連載 中学受験は親と子の協同作業

中学受験 幼児・低学年のうちからしてほしいこと してはいけないこと|中学受験は親と子の協同作業! 正しい理解がはじめの一歩 Vol.17

専門家・プロ
2018年10月18日 石渡真由美

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中学受験をするなら、4年生(小3の2月)のスタート地点で塾の上位クラスに入ることがアドバンテージになります。だからといって、幼児期から早期教育を始め、1年生から進学塾に通わせるのは、おすすめしません。

なぜなら、受験勉強の先取りは、その内容を理解できる年齢に達していないために、効果よりも弊害が強く出ることが多いのです。しかも、この時期にやっておくべきいろいろな学習の時間を奪ってしまうというデメリットもあります。

この時期に必要な学習は2つです。1つ目は、学びの土台になる生活知識や身体感覚を豊かにするための遊びです。2つ目は「読み・書き・そろばん(計算)」を中心とした基礎学習です。

小学生の学習の土台は幼児期の実体験

「中学受験をする予定なのですが、今からしておいた方がいいことはありますか?」

未就学児や低学年の親御さんからよくいただく質問です。きっと、「英才教育や右脳教育は早期にやっておいた方がいいですよ」「受験勉強の先取りをやっておきましょう」などの返答を期待されていると思うのですが、そういう時、私は必ずこう答えます。

「中学受験の勉強が始まる4年生までは、とにかくたくさん遊ばせてください」

低学年までの子どもに必要なのは、遊びを中心としたさまざまな体験をさせることです。「9歳の壁」と言われる年齢に達するまでの小学校低学年の子どもは、自分が見たことや体験したことが“考えるベース”となります。

自分の知っていることや経験したこと以外のことを問われてもなかなか答えることができません。それは、まだ抽象的な事柄を理解できる段階に至っていない事が理由です。でも、この時期に多種多様な遊びの中で、いろんな経験を重ねることで、その後に学習する抽象的な事柄が理解できる土台ができ上がってきます。

よく「図形はセンス」と言われますが、図形が得意な子は生まれ持った才能があるわけではなく、幼少期に折り紙や積み木などでたくさん遊んで身体感覚を身につけてきたから理解ができるのです。逆に幼少期にそういう遊びをしてこなかった子は、図形分野が苦手になります。

同じことはすべての教科にも言えます。幼少期から虫や植物などに親しんできた子は生物が得意になりますし、家族で鉄道の旅をした子は、地名に興味を持ち、それがのちに歴史や地理を学ぶ時に、「あ! あの時の、あのお寺のことを言っているんだな」と自分の体験と照らし合わせて理解を深めることができます。小学生の学びは、この実体験がとても大事なのです。

幼少期にたくさんお絵かきをすると算数に強くなる

そう言うと、あれもこれも体験させなきゃ! と力が入ってしまう親御さんがいますが、何も特別な体験をさせる必要はありません。日常の中でも十分に身体感覚を育むことができます。

子どもが何かに夢中になっていたら、それをとことんやらせてあげましょう。例えば、画用紙にクレヨンで絵を描いていたとします。つい夢中になって、机の方まではみ出してしまっても、「楽しく描いているのだな」と大目に見てあげて欲しいのです。

お絵かきというと、親は何を描いているのか、上手に描けているかに目が行きがちですが、実はもっと大切なことがあります。

幼い時から「描く(書く)」ことに慣れ親しんでおくと、描くことが苦になりません。中学受験の算数では、線分図を描いたり、補助線を描いたりして問題を解くことが多いのですが、幼少期に描くことに慣れていない子は、それを面倒くさがります。受験算数は描いて解くのが基本です。それを面倒くさがってしまう子は、算数が伸びにくい傾向があります。

国語の語彙力は、日常の会話や読み聞かせで育つ

中学受験の国語は、語彙力や体験の豊富さがとても重要になります。実は子どもは、目に入っているものをただ見ているだけで、注目はしていません。「これは○○という名前の花だよ。きれいな色をしているね」と、人から言われることで、初めて細部に注目します。

また、国語にはさまざまな情景表現が出てきますが、経験値が乏しい小学生の子どもには、それがどういう情景を指すのか理解できません。

小鳥のさえずりを聞いたり、気持ちの良い風を受けたりして、「すがすがしい朝だね」と言われて初めて「すがすがしいというのはこういう感覚のことを言うのだな」と理解できるようになるのです。つまり、この時期の親子の会話、特に親から与えられる言葉がとても大切なのです。

語彙力を伸ばすのに、読み聞かせも有効です。読み聞かせをする時は、絵を見せながら読んであげましょう。そうすることで、情景をイメージすることができます。

読み聞かせと言うと、幼児が対象と思いがちですが、子どもが望むのであれば、小学校低学年までは続けていただいて構いません。年齢に応じて、少しずつ文章の言葉を難しくしていくといいですね。

言葉は聞いて、使って覚えるものです。幼少期からたくさんの言葉を投げかけてあげましょう。情感的な言葉は、実体験がないと身につきにくいものですが、親御さんが「こういう景色の時はこんな表現があるよ」「こういう経験をするとこういう気持ちになるよね」など言葉で教えてあげるといいでしょう。そうすることで、子どもの世界はどんどん広がっていきます。

年長から少しずつ机に向かって座らせる習慣をつける

低学年までは、とにかくたくさんの体験をさせることが大事です。一方で、年長から少しずつ机に向かって勉強をする習慣もつけさせましょう。

年長なら迷路などの遊びの要素があるドリル、低学年なら「読み・書き・そろばん(計算)」を鍛えるドリルを毎日少しずつ取り組ませて、学習習慣を身につけさせましょう。学習時間の目安は、算数と国語各学年×10分です。小学1年生なら、算・国各10分ずつ。小学2年生なら算・国各20分ずつということになります。これらの学習は、これから中学受験で勉強する学習の必要な道具となるもので、手を抜いてはいけません。

また、えんぴつを持ち始める時に、正しい持ち方を徹底させてください。正しいえんぴつの持ち方は、小学1年生の国語の教科書には載っていますが、授業では指導されないことがほとんどです。

しかし、正しくえんぴつを持つことができないと、字が汚くなったり、筆圧が弱くなったり、姿勢が悪くなったりします。字が汚かったり、筆圧が弱かったりすると、計算ミスにつながったり、書き間違えをしたりするリスクがあります。一度良くない持ち方が身についてしまうと、途中で直すのはなかなか難しいのです。鉛筆を使い始めた時期に正しい持ち方を身につけさせてください。

また、姿勢が悪いと疲れやすく、長時間勉強をすることができません。中学受験では、長時間の勉強に耐えられる体が必要です。それには、体力や筋力だけではなく姿勢も大切なのです。猫背・ひじつき・頬杖などは注意してあげてください。

幼児・低学年に大事なのは、「私ならできる!」という自己肯定感

中学受験の勉強は、4年生〜6年生の3年間と長期戦です。ここで大事なのは、勉強を嫌いにならないことです。子どもは好きなことなら、時間を忘れてずっと続けられます。この「熱中力」を中学受験の勉強が始まる低学年までにたくさん経験させてあげてください。

親御さんからすれば、「なんでこんなことに夢中になっているの?」と理解できないこともあるかもしれませんが、そこで否定的な言葉をかけずに、ニコニコ笑って見守ってあげて欲しいのです。

子どもは遊びの中でさまざまな発見をします。工夫をします。そして、やり遂げます。この経験が、中学受験に限らず、これからの学びにきっと活かされていきます。

また、子どもが何か一生懸命に取り組んでいたら、たとえそれがあまり上手でなくても、失敗してしまっても、前向きな声かけをしてあげてください。「うわぁ、ここ細かく描けたね! すてきだね」「前はうまくできなかったけど、できるようになったね。よかったね」

こうした言葉をかけ続けてあげることで、「私ならできる!」「頑張ればできるようになるんだ!」と思える子になります。この自信が、中学受験には欠かせないのです。


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※記事の内容は執筆時点のものです

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