連載 今一度立ち止まって中学受験を考える

「思考力が大事」とはいうけれど、そもそも思考力って何?|今一度立ち止まって中学受験を考える

専門家・プロ
2020年4月17日 石渡真由美

近年、「思考力」という言葉が叫ばれるようになりました。最近ではそれに加えて「発想力」といったものも重視される傾向があります。では「思考力」や「発想力」は、一体どんな力なのでしょうか。

「詰め込み教育」から「思考力」を重視する教育へ

文部科学省のホームページによれば、国際化・情報化・科学技術の進展など今日の激しく変化する社会のなかで、子ども達は生涯にわたって、心豊かに主体的・創造的に生きていくことができる資質や能力を身につけることが求められており、そのために自ら学ぶ意欲や思考力・判断力・表現力などの資質や能力を重視する学力観に立ち教育がおこなわれるべき、と述べられています。すなわち現代の教育においては「自ら学ぶ意欲」と「思考力・判断力・表現力」を重視しているといえそうです。

従来型の学校教育は、とかく画一的で記憶を中心にした詰め込み教育になりがちであり、それにより落ちこぼれ・少年非行・校内暴力などの教育問題・社会問題を招いたという批判にさらされてきました。その反省から「学ぶ意欲」と「思考力」を重視する新しい学力観が生まれ、今日においてもその流れは変わっていないといえるでしょう。

では、この「思考力」というものを、私たちはどのように高めていけばいいのでしょう。「思考力や想像力なんてものは生まれつきの才能であって、努力によって身につけることはできない」などという人もいます。本当にそうなのでしょうか。

思考力とは、知識があってこそ生み出されるもの

私はこの「思考力」を「①状況を把握し、②情報を分析し、③的確な手段を講じ、④新しい手法を生み出す力」と定義しています。すなわち「思考力を身につける」にはこれら4つのちからを順番に身につけていけばよいことになります。

しかし、最近の傾向では、①②が軽視され、③④ばかりがクローズアップされているように感じます。そのために「思考力」というものが漠然としてとらえどころのないもの、身につけることが困難なものとイメージしてしまっている人が多いのではないでしょうか。「思考力」に対して、過大に恐れる必要はありません。上記の①②③④を順番にマスターしていけば自然と「思考力」は身につきます。

①の「状況を把握する」力とは、言い換えると「読解力」ということになります。集団や社会の中での自分の立ち位置を把握したり、人間関係をつかんだり、場の空気を読んだりすることはすべて「読解力」に起因します。逆に言うと読解力がなければクライアントの要求や組織に求められていることを的確に把握することができず、どんなに素晴らしい想像力やいいアイデアを持っていても、それを活かすことは難しくなります。そしてこの「読解力」は、国語という科目の中で身につけていくことが可能です。

②の「情報を分析する」力とは、「データの読み取り力」です。データを的確に素早く読み取るためには、たくさんの知識を持っている必要があります。例えば、今ここに「SARS不顕性感染に関する疫学的データ」があるとしますね。このデータを分析するためには、統計学や免疫学など様々な知識が必要となります。当然医学生理学上の専門用語もたくさん知っていないとなりません。でないといちいち辞書で調べたり、ググったりしなければならず、分析にものすごく時間がかかってしまうことになります。すなわち「データの読み取り力」とは膨大な知識の上に成り立つものであると言えるのです。こうした知識は、理科や社会といった基本教科で身につけていくことが可能です。

この①と②の力は、「思考力」を下支えする基礎力となるもので、決してないがしろにしてはいけません。今日の教育では、「思考力・表現力・分析力・判断力」といったものが重視されがちであり、それはしばしば「知識一辺倒の教育」のアンチテーゼとして語られます。しかし本来は「思考力」と「知識力」とは二項対立の相反するものではないのです。

思考力を特別視する必要はない。まずは基礎学習をしっかり行うこと

③の「的確な手段を講じる」力とはすなわち、「問題解決能力」のことを指します。目の前に何か問題が発生したとき、どのような方法で解決するのが適切なのかを考察する力ですね。ここでの訓練は「トライアルアンドエラー(試行錯誤)」が有効です。まさに算数や数学により身につけられる能力です。ところが最近は、これができない子どもが非常に多くなりました。粘り強く考えずに問題からすぐに目を背け投げ出してしまう傾向が強いようです。これでは「思考力」が身につくはずもありません。

一足飛びに「思考力」だけを身につけるうまい方法はありません。もしそのような方法が存在するのだとしたら、今頃その方法が教育のスタンダードになっているはずですよね。世界のどの国を見回しても、基礎教育に10年以上もの年月を割いています。国語・理科・社会・算数という基礎的な学習を粘り強く繰り返すことでしか、思考力を身につけることはできないのです。それは一見大変なことのように思えますが、逆に言うと基礎学習をしっかりと行っていれば、①→②→③→④のルートを経てやがて「思考力」が手に入るということです。「思考力」とは一部の才能ある人の専有物では決してない、誰にでも入手可能なものなのです。特殊な学習は一切必要ありません。粘り強くやり通すことこそ、「思考力」への近道なのです。


これまでの記事はこちら『今一度立ち止まって中学受験を考える

※記事の内容は執筆時点のものです

宮本毅
宮本毅 専門家・プロ

1969年東京生まれ。武蔵中学・高等学校、一橋大学社会学部社会問題政策過程卒業。大学卒業後、テレビ番組制作会社を経て、首都圏の大手進学塾に転職。小学部および中学部で最上位クラスを担当し、多数のトップ中学・高校に卒業生を送り込む。2006年に独立し、東京・吉祥寺に中学受験専門の「アテナ進学ゼミ」を設立。科目間にある垣根は取り払うべきという信念のもと、たった一人で算数・国語・理科・社会の全科目を指導している。また「すべての子どもたちに自発学習を!」をテーマに、月一回の公開講座を開催し、過去3年間でのべ2000名近くを動員する。若い頃からの変わらぬ熱血指導で、生徒たちの「知的好奇心」を引き出す授業が持ち味。

■著書

『はじめての中学受験 これだけは知っておきたい12の常識』(ディスカヴァー・トゥエンティーワン)
『中学受験 同音異義語・対義語・類義語300』(中経出版)
『文章題最強解法メソッド まるいち算』(ディスカヴァー・トゥエンティーワン)
『中学受験 ゴロ合わせで覚える理科85』(KADOKAWA出版)
『中学受験 ゴロ合わせで覚える社会140』(KADOKAWA出版)
『ケアレスミスをなくせば中学受験の9割は成功する』(KADOKAWA出版)
『合格する子がやっている 忘れない暗記術』(かんき出版)

この記事の著者

フリーライター。子供の誕生をきっかけに、わが子の成長に合わせ、ベビー雑誌、育児・教育雑誌、塾専門誌で取材執筆。6年前に子供の中学受験を経験したものの、国立大学の附属中学で併設高校が無かったため、その3年後に“高校受験生の母”、またその3年後に“大学受験生の母”も体験。中・高・大の3つの受験を知る受験ライター。

合わせて読みたい