連載 今一度立ち止まって中学受験を考える

早期教育よりも、発達段階に合わせた学習を意識する|今一度立ち止まって中学受験を考える

専門家・プロ
2020年7月09日 石渡真由美

近ごろ、低学年のうちから塾に入れる家庭が増えています。しかし、「急ぎすぎ」は禁物です。なぜなら子どもには成長の発達段階があり、早すぎる塾通いはタイミングが悪いというケースもあるからです。

子どもの発達段階4つのステップ

今の中学受験は昔と比べて学習量が増えています。また、年々内容も難しくなっています。高度な内容を多く学ばなければならないのですから、「早いうちから始めた方が有利では?」と考えたくなる気持ちは理解できます。しかし、私は過度な早期教育には反対です。なぜなら子どもには成長の発達段階があり、適切なタイミングで勉強をしなければ、効果が薄いからです。

スイスの心理学者ジャン・ピアジェは、子どもは次の4つの段階を経て発達していくという説を唱えています。

①感覚運動期(0~2歳ごろ)
脳に入った刺激に単純に反応する。

②前操作期(2~7歳ごろ)
ごっこ遊びなどをするようになる。

③具体的操作期(7~11歳ごろ)
数や量の概念が確立し、具体的な事物に対する思考が可能となる。

④形式的操作期(11歳以降)
形式的・抽象的な思考が可能となる。

この発達段階には個人差がある点が重要です。

これはかつての私の教え子の話です。算数に苦手意識を持っている女の子がいました。その子は、小学4年生で習う和差算が苦手でした。和差算の解法に「線分図」というものがあるのですが、形式的・抽象的な思考が必要になるため、発達段階が「形式的操作期」に入るまで、理解するのに苦労します。その子もそうでした。4年生以来、自分は算数が苦手だと思い込んでいたのです。

ところが、6年生になると、徐々に算数ができるようになりました。苦手だった和差算もスラスラ解けるようになり、「なんで私、こんな簡単な問題がわからなかったんだろう?」と笑っていたほどです。要は6年生になって、成長が追いついたのです。このように、子どもの発達段階によって、理解できるものと、理解できないものがあるのです。

早期教育の問題は勉強に対する壁を作ってしまうこと

中学受験の勉強は抽象的な問題のオンパレードですから、発達段階が「形式的操作期」に入っていないと、理解が難しい内容が多々あります。子どもの発達段階を度外視して早くからあれこれ始めると、「○○は難しい」という意識が植え付けられてしまいます。できないことが続くと「勉強嫌い」に発展することすらあります。もちろん、よほど成熟度が高い子であれば、早い段階からの学習でも無理なく学べることはあります。しかし、全体的に見れば、そうした子はわずかです。

人気の大手塾は、低学年から塾に入れておかないと、4年生からの席を確保するのが難しいと、一部の地域のママ友の間では囁かれているようですが、大切なのは塾通いを早めて“人より有利”と安心するのではなく、子どもの発達段階に合わせた着実な勉強を進めていくことです。

低学年で力を入れたいのは国語力をつけること

では、低学年のうちは何をすればいいのでしょうか? 一番力を入れて欲しいのは、国語力を鍛えることです。

長年、中学受験の指導に携わるなかで、近年特に感じるのは、文字を読むのが苦手な子が増えていることです。授業の後に「先生、この問題がわからない」と質問にやって来る生徒がいます。私はその時に必ず「問題文をもう1回読んでごらん」と言います。それでも、わからないという場合は、「じゃあ、3回読んでみて」と言います。すると大部分の子が「あ、そういうことかー!わかった!」と自己解決します。つまり、わからないのはちゃんと問題を読んでいないからで、問題文をきちんと読みさえすれば、実は問題が解けてしまうわけです。

今の中学受験の勉強は膨大な量があります。子ども達は「早く宿題を終わらせなきゃ!」と慌てた学習をしがちです。そのため、問題文を読んでいるようで、読んでいないことが多いのです。しかし、問題を正確に読まずに、正しい答えを出すことはできません。

ですから低学年のうちは、文章を読むトレーニングをしてほしいと思います。おすすめは音読です。音読は、意味ごとに区切って読む習慣が身につくので、読解力を養うことができます。言葉を知るという点では、読書もおすすめです。しかし、闇雲にたくさん読めばいいというわけではありません。読書、とりわけ小説は好きなのに、国語が苦手という子は少なくないのです。読書を楽しむことはいいのですが、ストーリー展開を早く知りたくてナナメ読みをするクセがつきやすいからです。それよりは、好きな1冊の本を何度も読む方が、国語力を上げるという点でいえば、効果的です。

親子で同じ本を読んで感想を言い合うのもいいですね。子どもは多くの言葉を家庭で覚えます。わが子を頭のいい子にしたいのなら、家庭内での会話を積極的に増やしてほしいと思います。中学受験では語彙の多さと読解力の高さが重要です。早い時期から塾に通うよりも、低学年のうちは家庭で語彙を増やし、読解力を身につける方が効果は高いのです。


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※記事の内容は執筆時点のものです

宮本毅
宮本毅 専門家・プロ

1969年東京生まれ。武蔵中学・高等学校、一橋大学社会学部社会問題政策過程卒業。大学卒業後、テレビ番組制作会社を経て、首都圏の大手進学塾に転職。小学部および中学部で最上位クラスを担当し、多数のトップ中学・高校に卒業生を送り込む。2006年に独立し、東京・吉祥寺に中学受験専門の「アテナ進学ゼミ」を設立。科目間にある垣根は取り払うべきという信念のもと、たった一人で算数・国語・理科・社会の全科目を指導している。また「すべての子どもたちに自発学習を!」をテーマに、月一回の公開講座を開催し、過去3年間でのべ2000名近くを動員する。若い頃からの変わらぬ熱血指導で、生徒たちの「知的好奇心」を引き出す授業が持ち味。

■著書

『はじめての中学受験 これだけは知っておきたい12の常識』(ディスカヴァー・トゥエンティーワン)
『中学受験 同音異義語・対義語・類義語300』(中経出版)
『文章題最強解法メソッド まるいち算』(ディスカヴァー・トゥエンティーワン)
『中学受験 ゴロ合わせで覚える理科85』(KADOKAWA出版)
『中学受験 ゴロ合わせで覚える社会140』(KADOKAWA出版)
『ケアレスミスをなくせば中学受験の9割は成功する』(KADOKAWA出版)
『合格する子がやっている 忘れない暗記術』(かんき出版)

この記事の著者

フリーライター。子供の誕生をきっかけに、わが子の成長に合わせ、ベビー雑誌、育児・教育雑誌、塾専門誌で取材執筆。6年前に子供の中学受験を経験したものの、国立大学の附属中学で併設高校が無かったため、その3年後に“高校受験生の母”、またその3年後に“大学受験生の母”も体験。中・高・大の3つの受験を知る受験ライター。