連載 今一度立ち止まって中学受験を考える

「書くことが嫌い」「字が汚い」「図形が描けない」どうすればいい?|今一度立ち止まって中学受験を考える

専門家・プロ
2021年4月15日 石渡真由美

字が雑で丸がもらえない。計算ミスをしてしまう。親御さんからすれば、「なぜ、もっと丁寧に書けないの?」と思ってしまうことでしょう。つい厳しく言ってしまいがちですが、それはかえって逆効果です。では、どうしたらいいのでしょうか?

「ちゃんと書きなさい!」の言い過ぎは子どものやる気を削ぐだけ

「ちゃんと書きなさい!」
「どうしてあなたの字はこんなに汚いの?」

子どもの字について、厳しく注意をする親御さんは少なくありません。たしかに字がきれいであることに越したことはありませんが、あまりに字のことばかりを指摘すると、子どもは書くのが嫌いになり、かえって逆効果になってしまうこともあります。大人でもそうですが、自分の苦手なことをネガティブ評価されるのは嫌なものです。そこで「なにを!」と頑張れる人は、そう多くはいないでしょう。むしろ「どうせ私は……」と投げやりな気持ちになってしまうのではないでしょうか。

子どもに何かアドバイスをしたいのなら、前向な気持ちになれるような言葉を渡してあげましょう。どんな人でも、はじめは上手く書けません。「お母さんも1年生の頃は字がとても下手だったのよ。でもね、丁寧に書くようになったら、○○○になったのよ」といったように、「字を丁寧に書くと”いいこと”がありそうだ」ということを教えてあげるといいでしょう。そうすれば、「じゃあ、もう少し丁寧に書いてみようかな」という気持ちになるでしょう。

言葉で伝わらないようなら、一緒に書いてあげるといいと思います。たとえば図形がうまく描けない子がいます。そういう子には、親子で一緒に図形を描く練習をする機会を作ってあげましょう。そのときに、親御さんはわざと下手に描く演技をしてあげるといいですね。子どもは親の失敗を見ると、「大人でもうまく描けないんだな」とホッとし、「よし、じゃあ僕はもっと上手に描いてみるぞ」と俄然張り切ります。うまく描けたら「お、上手だね!」と褒めてあげましょう。そうやって子どもの気持ちをのせると、自分から丁寧に書くようになります。

また、「問題文に書いてある条件を書き出してごらん。ほら、そしたらこれとこれは条件に当てはまらないよね。これはどう? これは当てはまるね」と、子どもに寄り添って丁寧にアドバイスをしてあげるのも効果的です。ちゃんと書き出せば正解できる問題だったということに気づかせてあげられれば「考えることは書くことなんだ」と納得し、自分からやるようになります。このように本人が自ら気づくということは、どんな場面でもとても重要です。

親のアドバイスが効かないときは第三者に頼る

低学年のうちは「子どもの気持ちをのせる」ことが効果的ですが、高学年になると、思春期にさしかかり、親のアドバイスを素直に聞かなくなるようになります。特に中学受験の勉強が始まると、親御さんは四六時中、勉強の話をするようになり、必要以上にガミガミ言ってしまいがちです。それによって親子関係が悪くなってしまうこともしばしば。しかし親子関係が悪くなるくらいなら、そんな声かけはしない方がいいでしょう。

とはいえ、字が汚いために点が取れなかったり、計算ミスをしてしまったりするのは、入試では大きな痛手になるので、改善していかなければなりません。そういうときは、親が躍起になって正そうとするよりも、塾の先生など第三者の大人に伝えてもらうことをお勧めします。この年頃の子どもは、親の言うことは聞かなくても、信頼している塾の先生のアドバイスなら素直に聞くことが多いからです。子どもに言ってもなかなか直らなかったり、親子バトルになってしまったりする場合は、塾の先生に相談してみるといいでしょう。

字をきれいに書かせることに躍起になるよりも、子どもの精神年齢を上げる努力を

ただ誰がどう言おうと、本人が納得していなければ、あまり効果は望めません。字が汚い、図形がうまく描けないといったことは「技術的な問題」というよりも、書くことを面倒くさがる「精神的な問題」である部分が大きいのです。一方、今の入試は、書きながら(手を動かしながら)考えないと答えが出せない問題が多く出題されています。複雑な条件を整理したり、グループに分けたりする作業は、頭の中だけでやるには限度があります。書かずに答えを出そうとすると、高確率でミスが出ます。

少し話が変わりますが、長年中学受験の指導をしてきて、ここ数年感じることがあります。それは、自分の行動に責任が持てない子が増えていることです。中学受験には親のサポートが必要ですが、学校や塾の支度までを親御さんがやっていたり、子どもが忘れ物をしたら親御さんがわざわざ届けにきたり、ということが多々見られます。かわいいわが子に失敗をさせたくない気持ちはわからなくもありませんが、親が何でもフォローをしていては、子どもに責任感を持たせることはできません。

実は、この「自分のことに責任を持つこと」が、学習面においてもとても大事なのです。中学受験は精神的に大人の子の方が有利な受験です。大人びた子というのは、基本的に字をきれいに書きます。それは採点者のことを考えて、読みやすい字を心がけたり、後で自分が見たときにわかるように書いたりしているからです。一方、精神的に幼い子は他者への配慮や、自分の未来について予測するといったことがほとんどありません。「面倒くさいから書かない」「とりあえず書いておく」「言われたから書く」といった、自分の「今」のことにしか思いが至らないものです。そういう子に「ちゃんと書きなさい!」と言ったところで、改善するのは難しいです。字をきれいに書かせることに注力するよりも、自分のことは自分でやる習慣をつけ、大人に育てていく方が、長い目で見たときは効果が高いと感じています。

字が汚さを改善するだけではなく、子どもの精神成長を促す努力も並行してやっていきましょう。そうすることでいろいろな波及効果、たとえば「勉強しなさい」と言わなくて済むとか、子どもの成績が自然に上がっていくなども期待できて、一石二鳥です。


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※記事の内容は執筆時点のものです

宮本毅
宮本毅 専門家・プロ

1969年東京生まれ。武蔵中学・高等学校、一橋大学社会学部社会問題政策過程卒業。大学卒業後、テレビ番組制作会社を経て、首都圏の大手進学塾に転職。小学部および中学部で最上位クラスを担当し、多数のトップ中学・高校に卒業生を送り込む。2006年に独立し、東京・吉祥寺に中学受験専門の「アテナ進学ゼミ」を設立。科目間にある垣根は取り払うべきという信念のもと、たった一人で算数・国語・理科・社会の全科目を指導している。また「すべての子どもたちに自発学習を!」をテーマに、月一回の公開講座を開催し、過去3年間でのべ2000名近くを動員する。若い頃からの変わらぬ熱血指導で、生徒たちの「知的好奇心」を引き出す授業が持ち味。

■著書

『はじめての中学受験 これだけは知っておきたい12の常識』(ディスカヴァー・トゥエンティーワン)
『中学受験 同音異義語・対義語・類義語300』(中経出版)
『文章題最強解法メソッド まるいち算』(ディスカヴァー・トゥエンティーワン)
『中学受験 ゴロ合わせで覚える理科85』(KADOKAWA出版)
『中学受験 ゴロ合わせで覚える社会140』(KADOKAWA出版)
『ケアレスミスをなくせば中学受験の9割は成功する』(KADOKAWA出版)
『合格する子がやっている 忘れない暗記術』(かんき出版)

この記事の著者

フリーライター。子供の誕生をきっかけに、わが子の成長に合わせ、ベビー雑誌、育児・教育雑誌、塾専門誌で取材執筆。6年前に子供の中学受験を経験したものの、国立大学の附属中学で併設高校が無かったため、その3年後に“高校受験生の母”、またその3年後に“大学受験生の母”も体験。中・高・大の3つの受験を知る受験ライター。