連載 今一度立ち止まって中学受験を考える

中学受験をすると決めたら、親が持っておくべき覚悟3つ|今一度立ち止まって中学受験を考える

専門家・プロ
2021年4月02日 石渡真由美

ここ数年、首都圏で中学受験をする家庭は増加傾向にあります。地域によっては、クラスで7割以上の子が受験をするとも聞きます。「みんながやっているから」と、中学受験を決断するご家庭も少なくありません。しかし中学受験の勉強は長期間に及び、ひとたび始めると途中でやめることは難しいです。また、精神的にまだ幼い小学生の子どもを毎日勉強に向かわせるのは並大抵のことではありません。つまり、中学受験を始めるにはどうしても親の覚悟が必要不可欠なのです。

宿題管理の覚悟

長年、中学受験の指導をしていて、最近特に感じることがあります。それは中学受験を甘く見ている親御さんが多いことです。小学生がチャレンジする中学受験は、本人がまだ精神的に幼いため、どうしても親のサポートが必要になります。

昔は中学受験をする家庭といえば、早くから「うちはこの子に○○になって欲しいから、中学受験をさせる」といった固い意思があり、親もそのためのサポートを献身的に行っていました。ところが今は、「塾に高い授業料を払っているのだから、塾が子どもの成績を上げるべき」と、塾に丸投げしてしまう方が少なくありません。

たしかに塾に支払う授業料は、決して安くはありません。しかし、塾は勉強を教えるところであって、必ずしも成績を伸ばしてくれるところではないのです。そもそもそう思っている親御さんは、勉強の本質をあまり理解されていないことが多いと感じます。子どもの学力が向上するのは、授業を聞いているときではなく、宿題で授業内容を振り返るときです。

スポーツに置き換えて考えてみしょう。たとえば、バスケットボールの八村塁選手が、お子さんに「得点が決まりやすいシュートのしかた」をアドバイスしてくれたとします。それを聞いたお子さんは「なるほど!」と思うに違いありません。なにしろ指導してくれるのはNBAで活躍するあの八村塁選手なのですから。では、「なるほど!」と思ったその後すぐに、子ども達は上手なシュートが打てるようになるでしょうか。残念ながらただ説明を聞いただけでは、シュートを決められるようになるわけではありませんよね。それと同じで、塾の授業をただ聞いているだけでは、成績が上がるはずはないのです。

大切なのは、その後です。スポーツ選手が好プレイ・好成績を残せるのは、日々練習に励んでいるからこそで、自主的なトレーニングや反復練習があってはじめて、上達が得られるのです。スポーツ選手の反復練習にあたるのが、「塾の宿題」です。宿題で授業の振り返りをし、演習を重ねることで、その解法が自分の知識として定着していきます。そこを疎かにして、成績が飛躍することはあり得ないのです。

では、その宿題を誰が管理するのか? やはり小学生の場合は、親御さんが管理するしかないと考えます。なかには、自分で何でもできてしまう子もいますが、そうした子は一握りに過ぎません。ほとんどのお子さんには、親御さんのサポートが必要なのです。宿題の管理は、宿題をやったかどうかだけでなく、お子さんがどこまで理解できていて、どこでつまずいているかなども見てあげる必要があります。必ずしも親御さんが勉強を教える必要はありませんが、理解できていないところがあったら、塾の先生に質問をするよう促すなど、子どものつまずきをそのままにしないことです。

中学受験をすると決めたなら、親御さんは覚悟を持ってサポートをして欲しいと思います。ただし、何でも親がやってあげるべきだというわけではありません。「宿題を管理して、わからないことをそのままにしない」「教科に興味を持たせる働きをする」「子どものモチベーションを上げる」など、親にできることをやってあげればいいのです。

結果に対する覚悟と、数字に現れないプロセスを評価する覚悟

中学受験に挑む家庭が増加傾向にあるのは、そこに希少価値があるからです。みんなが行きたい学校に入れてしまえば、中学受験する価値はなくなってしまうでしょう。しかし現実問題、中学受験で第一志望校に進学できる子は、全体の約3割に過ぎません。多くの親御さんは、自分の子が第一志望校に入ることを期待して受験をさせますが、実際に入れる子は10人中3人だけです。つまり大勢の子は、それ以外の学校に進学するということです。そのことを承知のうえで、受験に挑んでほしいのです。

もちろん理想的な結果は、第一志望校に合格することです。しかし、そこにこだわり過ぎたり、そこしか無いなどと考えたりすると、不合格だったときに親も子も辛い思いをします。中学受験をするのなら、結果や偏差値だけではなく、それまでの努力や過程をしっかりと評価するべきです。残念ながら第一志望校には手が届かなかったけれど、毎日勉強に向かう姿勢がついた、勉強のやり方が身に付いた、努力することの大切さに気づけたなどといった、成長が見られたら、それは立派な成功と言えます。そうした数字に現れないプロセスを評価する覚悟をもって、中学受験に臨まねばなりません。

撤退する勇気をもつ覚悟

中学受験は12歳の2月の時点での学力で合否が決まってしまう受験です。いわば「最大瞬間風速」で決まってしまうのです。しかし、まだ発達途中にいる小学生の子どもは、いつ伸びるかわかりません。同じ台風であっても発生したばかりと充分に発達した後とでは、風速も勢力も規模も異なりますよね。また、同時に発生した台風であっても、発達していくスピードはまちまちなので、同じタイミングで比べたときにAの台風の方がBよりも勢力が強い台風であったとしても、1週間後には強さが逆転している、ということはよくあることなのです。ですから、たとえ中学受験の段階で成績が伸び悩みうまくいかなかったとしても、12歳の時点の学力で、人としての価値が決まってしまうわけではありません。

なかなか成績が上がらなかったり、やる気を見せなかったりするお子さんに、「何でこんな問題ができないの?」「何であなたはダメなの!」ときつい言葉を投げてしまう親御さんは少なくありませんが、それは絶対にやめてください。子どもの自己肯定感を下げるだけです。それによって勉強が嫌いになったり、自信が持てなくなったりする危険性があります。それは「早期教育の弊害」としてもよく議論されることです。子どもが勉強嫌いになってしまうくらいなら、中学受験はやめた方がいいでしょう。

第一志望校を目指せるかどうかは、塾の先生に聞いてみるといいと思います。実は、5年生の段階でおおよその学力は見えてくるものです。特に国語が苦手な子は必ず伸び悩みます。「現状だと、第一志望校の合格は正直難しそうだ」と率直に言ってくれる先生がいたらその先生は、いい先生だと信用していい思います。現時点の力では難しい場合、第一志望校から勇気を持って撤退する判断も必要ですし、場合によっては中学受験そのものから撤退する選択肢も用意しておくべきでしょう。そういった撤退する勇気を持つ覚悟が親には必要なのです。


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※記事の内容は執筆時点のものです

宮本毅
宮本毅 専門家・プロ

1969年東京生まれ。武蔵中学・高等学校、一橋大学社会学部社会問題政策過程卒業。大学卒業後、テレビ番組制作会社を経て、首都圏の大手進学塾に転職。小学部および中学部で最上位クラスを担当し、多数のトップ中学・高校に卒業生を送り込む。2006年に独立し、東京・吉祥寺に中学受験専門の「アテナ進学ゼミ」を設立。科目間にある垣根は取り払うべきという信念のもと、たった一人で算数・国語・理科・社会の全科目を指導している。また「すべての子どもたちに自発学習を!」をテーマに、月一回の公開講座を開催し、過去3年間でのべ2000名近くを動員する。若い頃からの変わらぬ熱血指導で、生徒たちの「知的好奇心」を引き出す授業が持ち味。

■著書

『はじめての中学受験 これだけは知っておきたい12の常識』(ディスカヴァー・トゥエンティーワン)
『中学受験 同音異義語・対義語・類義語300』(中経出版)
『文章題最強解法メソッド まるいち算』(ディスカヴァー・トゥエンティーワン)
『中学受験 ゴロ合わせで覚える理科85』(KADOKAWA出版)
『中学受験 ゴロ合わせで覚える社会140』(KADOKAWA出版)
『ケアレスミスをなくせば中学受験の9割は成功する』(KADOKAWA出版)
『合格する子がやっている 忘れない暗記術』(かんき出版)

この記事の著者

フリーライター。子供の誕生をきっかけに、わが子の成長に合わせ、ベビー雑誌、育児・教育雑誌、塾専門誌で取材執筆。6年前に子供の中学受験を経験したものの、国立大学の附属中学で併設高校が無かったため、その3年後に“高校受験生の母”、またその3年後に“大学受験生の母”も体験。中・高・大の3つの受験を知る受験ライター。