中学受験ノウハウ 連載 今一度立ち止まって中学受験を考える

勉強しないわが子にイライラする……。怒りの感情をどうコントロールすればいい?|今一度立ち止まって中学受験を考える

専門家・プロ
2022年5月26日 石渡真由美

なかなか勉強を始めようとしない。テストで低い点でも平気な顔をしている。わが子の姿を見て「早く勉強しなさい!」「どうしていつもこんな成績なの!?」と、イライラしたり、怒ったり……。そんな日々をどうにかしたいと思っている親御さんは多いことでしょう。

中学受験、イライラのもとは?

中学受験の勉強が始まると、「宿題を始めようとしない」「やる気が感じられない」「成績が一向に上がらない」など、お子さんに対して何らかの悩みが出てきます。子どもに言っても改善が見られないと、「もっと言い聞かせなきゃ!」と思えてきます。

こうした状況が繰り返され、ストレスが蓄積すると、徐々に(あるいは突然)子どもにイライラをぶつけてしまったり、きつい言葉で叱責したりするようになります。しかし、親が感情を爆発させると、子どもは高確率で心を閉ざし、防衛しようとします。ともすると、やる気を見せるどころか逆効果になり、親子の溝が深まることもしばしばです。

親が感情をあらわにした結果、お子さんのやる気が損なわれる状況は、親御さんとしても決して本意ではないはずですから、「このイライラ感情をコントロールしたい……」と考える人は少なくないでしょう。そもそも、なぜそんなにもイライラしてしまうのか? まずはその理由を的確にとらえることが大事です。

アンガーマネージメントの考え方によると、人は自分が考えていた予定や未来が、自分の思い通りにいかないとイライラの感情が生まれるといいます。

この話は、「渋滞」に喩えてみるとわかりやすいかもしれません。スイスイ走れるはずの道なのに、それがなんらかの理由で渋滞している。すると、「なんで今日に限って!」とイライラします。渋滞と同じように、「子供はこうあるべき(こうあって欲しい)」と思っていたことが、現実でその通りにならないと、イライラします。

高すぎる理想。あるべき姿、あって欲しい姿とのギャップ

特に中学受験の場合は厄介です。「あるべき姿」としているもの、理想が高すぎることが多いからです。次のような「当然、○○べき」的思考回路に陥りやすいということです。

  • 受験生なんだから、当然、学校から帰ったら塾の宿題を終わらせておくべき
  • 塾に通っているんだから、当然、成績は上がっていくべき

ところが親御さんのこうした理想的な受験生像は、なかなかその通りにはならず、イライラします。ですから、こうした怒りの感情を生み出す状況を変えたいのであれば、もともと考えていた理想像を疑って、冷静に見つめ直す必要がありますし、理想と現実を近づけるために、これまでとは違ったアプローチで試行錯誤することが必要です。場合によっては、子どもの成長を待つことも必要でしょう。

中学受験は、わずか10〜12歳の小学生が挑む受験です。この時期の子ども達はまだ発達の途中段階で、しかもその成長には個人差があります。親の理想通りにできることと、できないことがあるのです。「うちの子は、言っても聞かない」という話を良く耳にしますが、多くの場合、「言ってわかる成長段階」に入っていないといえます。

精神的にまだ幼い子であれば、「休まずに塾を通えているだけでも立派だよね」と捉えることもできるはずです。このように、これまでの「理想」や「当然」を疑って、一時停止できれば、親御さんのイライラは少なからず軽くなるはずです。理想をどこまで下げられるかは各家庭のポリシーや判断によりますが、「子どもがなかなか変わらない。親の私もイライラする。そんなループをなんとかしたい……」と思っているのであれば、お子さんの成長に合わせて理想レベルを下げることを一度検討してみてもいいかもしれません。

怒りを鎮める「6秒ルール」、それでもダメなら

とはいえ、中学受験をするからには日々の勉強は欠かせません。理想レベルを下げたところで、いつまでもゲームをしていて、なかなか勉強を始めないわが子の姿を見てしまったら、つい叱りたくもなります。親もひとりの人間ですから、毎度毎度心に蓋をするのが難しいのも容易に想像できます。時に荒っぽいコトバが出てしまうのも、致し方無い面はあるでしょう。

でも、そこで感情を爆発させることを常習化させてしまったら、いずれ本格的な親子闘争へ発展するのが目に見えています。感情をあらわにして、仮に一時的に子どもが勉強をしたとしても、「親に怒られたからやる」、「親に怒られないようにやる」といった、動機になりかねません。しかも、そうした状況が続くと、怒らなければ勉強しない、言わなければやらない子になってしまいます。その結果、親も子もイライラがどんどん蓄積し始めます。

もしお子さんに対して怒りの感情が爆発しそうなときは、心の中で6秒数えて深く呼吸し、できるだけ心を落ち着かせることをおすすめします。やってみると実感すると思いますが、それなりに効果があります。それでも腹の虫が収まらない場合は、トイレに行ったり、冷蔵庫にある飲み物を飲みに行ったり、家の中でも良いので、とにかくイライラするその場から一時離席することです。そうやって自分の心をまず落ち着かせてみましょう。落ち着いてから「ちょっとお母さんの話を聞いてくれる?」と話を切り出してみるのです。

リフレッシュの時間を持つ。「怒る」「叱る」ではなく「諭す」

怒りはある程度未然に防ぐこともできます。人の怒りには、だんだんボルテージを上げていくように怒りを溜めていく人と、瞬間湯沸かし器のように突然爆発する人のふたつの傾向があります。まずは、自分はどちらの傾向があるか振り返ってみましょう。

ボルテージタイプの人は、イライラが増えてきたなと思ったら、意識的かつ、定期的にリフレッシュすることをおすすめします。仲の良い友人と外出するでもよいですし、毎月決まった日にエステの予約を入れておくなどでもよいと思います。たとえば、「月例テストの翌日は親も休養の日!」などと予定化しておくのです。そうすれば「休養日まであと○日……!」と思えるはずです。

瞬間湯沸かし器タイプの人は、「私はストレスがかかると、突然爆発する」ということを普段から自覚したうえで、怒りを溜め込まないようにしたいところです。私は多くの方にテニスやゴルフをおすすめしているのですが、「思いっきりボールを叩く」という行為はかなりストレス発散となります。もちろん必ずしも球技でなくても良いですが、「思いっきり○○する」というのは、スッキリするためのひとつのポイントです。

加えてどちらのタイプにも言えることですが、普段の学校と塾のパパ友・ママ友関係以外のところに、受験とは無縁の友人をつくっておくことも、ストレス発散には有効に働きます。というのも塾に通う親同士でランチに行ったりすると、互いにマウントの取り合いとなり、かえってストレスを溜め込むことになってしまうからです。

最後に、怒りのタイプがどちらの場合であっても、子どもに何か伝えたいときは、自分の心が落ち着いている状態で伝えることが大事だとお伝えします。そのときには、諭すように伝えるのが効果的です。サービス業のクレーム対応では、相手の目を見ながら、低い声でゆっくりと話すのが望ましいと言われています。それと同じように、子どもに何か伝えたいときは、子どもの目を見て低い声でゆっくり話してみましょう。

「勉強しなさい!」と声を荒げるのではなく、「○○は中学受験をすると決めたんだよね。だったら、どうやって勉強を進めていこうか?」と本人に意見を聞いてみたり、「お母さんは○○にこうして欲しいの」と自分の考えを伝えてみたりして、落ち着いて対話をしてみるほうが、「じゃあ、僕は今日、これとこれをやるね」と勉強が進めやすくなります。

親御さんの心が落ち着いていれば、子どもはやる気を出して勉強に向かうと、必ずしも言い切れない面はあります。しかし、逆にいつもイライラしている親御さんのそばでは、子どもが自らやる気を出したり、安心して勉強することはできないのです。中学受験生に必要なのは、親の叱咤よりも安心感なのです。


これまでの記事はこちら『今一度立ち止まって中学受験を考える

※記事の内容は執筆時点のものです

宮本毅
宮本毅 専門家・プロ

1969年東京生まれ。武蔵中学・高等学校、一橋大学社会学部社会問題政策過程卒業。大学卒業後、テレビ番組制作会社を経て、首都圏の大手進学塾に転職。小学部および中学部で最上位クラスを担当し、多数のトップ中学・高校に卒業生を送り込む。2006年に独立し、東京・吉祥寺に中学受験専門の「アテナ進学ゼミ」を設立。科目間にある垣根は取り払うべきという信念のもと、たった一人で算数・国語・理科・社会の全科目を指導している。また「すべての子どもたちに自発学習を!」をテーマに、月一回の公開講座を開催し、過去3年間でのべ2000名近くを動員する。若い頃からの変わらぬ熱血指導で、生徒たちの「知的好奇心」を引き出す授業が持ち味。YouTubeチャンネル「アテナチャンネル」を運営。

■著書

『はじめての中学受験 これだけは知っておきたい12の常識』(ディスカヴァー・トゥエンティーワン)『中学受験 同音異義語・対義語・類義語300』(中経出版)『文章題最強解法メソッド まるいち算』(ディスカヴァー・トゥエンティーワン)『中学受験 ゴロ合わせで覚える理科85』(KADOKAWA出版)『中学受験 ゴロ合わせで覚える社会140』(KADOKAWA出版)『ケアレスミスをなくせば中学受験の9割は成功する』(KADOKAWA出版)『合格する子がやっている 忘れない暗記術』(かんき出版)

この記事の著者

フリーライター。子供の誕生をきっかけに、わが子の成長に合わせ、ベビー雑誌、育児・教育雑誌、塾専門誌で取材執筆。6年前に子供の中学受験を経験したものの、国立大学の附属中学で併設高校が無かったため、その3年後に“高校受験生の母”、またその3年後に“大学受験生の母”も体験。中・高・大の3つの受験を知る受験ライター。