中学受験ノウハウ 学習 連載 今一度立ち止まって中学受験を考える

物語文の得意・不得意は「精神的にどれだけ大人か」がカギに|今一度立ち止まって中学受験を考える

専門家・プロ
2022年11月03日 石渡真由美

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国語入試で必ず出題される物語文。しかし、物語文が苦手で、国語の成績の足を引っ張ってしまっているというケースは少なくありません。「日本語で書かれているのだから、きちんと読めば分かるはず」と親は楽観的に捉えがちですが、それほど単純な話ではないのです。

今回は物語文に強くなる秘訣をご紹介します。

ジュニア文庫は早めに卒業、漫画なら少年漫画よりも少女漫画を

「うちの子、本を読むのは好きなのに、物語文が苦手で……」

中学受験の指導にあたるようになって20年以上が経ちますが、毎年必ずいくつかのご家庭からこのようなご相談を受けます。親御さんからすると「なぜ?」と不思議に感じるのでしょう。

読書好きな子は、日頃から文字にたくさん触れているので、国語が得意と思われがちです。確かに、幼い頃から本に慣れ親しんできた子は、国語が得意になる傾向はありますので、あながち間違いとは言い切れません。しかし、みんなが得意になるかというと話は別。ひとくちに“本好き”といっても、子どもによって読み方はさまざまです。お気に入りの本や図鑑を何度もくり返し読む子もいれば、物語のストーリー展開を楽しむだけでササッと読み終えては、次の本に手を出し、手当たり次第に読んでいく子もいます。両者のどちらが物語文で苦戦するかといえば、後者です。

ストーリーの展開を楽しむ子は、話の続きを早く知りたくて、ナナメ読みをします。単純に読書を楽しむのであれば、それでもいいでしょう。しかし、国語のテストで点を取るには、文章を精読する力が求められます。特に物語文は、複数の登場人物がどういう体験をして、どういう感情がわき起こり、それによってどのように成長したかといった“心の成長”の把握が必要になります。つまり、どれだけディテール(詳細な情報や状況)をつかみ取れるかがカギとなるのです。

ところが、ストーリー展開を楽しむ子は、場面の変化ばかりを追ってしまい、その行間に隠されている登場人物の気持ちに気づくことができません。特に子ども向けのジュニア文庫を好んで読む子は、その傾向に陥りやすくなります。心情理解に漫画は有効かというご質問を受けることがありますが、もし漫画で心情理解の訓練をさせるのなら少年漫画よりも少女漫画の方がいいでしょう。少女漫画の方が登場人物の心の機微が詳細に描かれていることが多いからです。

近年の中学受験の国語入試に出題される物語文は、場面設定が小学生の子どもが知らない世界だったり、自分とは違う世代や立場の人が主人公の話だったりと、小学生の子どもが理解するには内容がとても難しくなっています。以前は「こういうときは、こういう感情になる」「こういう言葉が出てきたらこういう意味だと捉える」といったように、大手塾などではマニュアル化して指導に当たっていました。けれど今では、こうしたパターン学習に疑問を持った学校が、裏をかいてより難しい内容の問題を出すようになり、難化傾向は加速していくばかりです。

では、どんな対策をしていけばよいのでしょうか?

中学受験のプロがすすめる、物語文が得意になる3冊

まず、志望する学校が国語入試でどんな物語文を題材にしているか、見てみるといいでしょう。

従来のように受験生と同じ年頃の子どもが主人公の物語文を出題する学校もあれば、男子校の入試で女の子の恋心や、キャリアウーマンのお母さんの心の葛藤を聞いてくる学校もあり、近年の国語入試の物語文の幅はとても広がっています。

中学受験では難関校ほど成熟度の高さが求められます。成熟度の高さとは、どれだけ大人っぽい考え方ができるかどうかです。成熟度を高めていくには、日頃から読む本も少し大人びたものを選ぶといいでしょう。

私がおすすめするのは、次の3冊です。

『その日の前に』(重松清著・文春文庫)

〈ストーリー〉

昨日までの、そしてこれからも続くはずだった毎日を不意に断ち切る家族の死。死にゆく妻・母を静かに見守る父と子の心を中心に、日常の中にある幸せの意味を見つめる物語。

〈精読ポイント〉

命の重要性や恋愛感情を知ることで、大人になるとはどういうことかを考えるきっかけになる。父親の気持ち、母親の気持ちの理解を深められる。

『カラフル』(森絵都著・文春文庫)

〈ストーリー〉

自殺により一度死んでしまった男が、もう一度、今度は男子中学生の身体に入って、生きることをやり直すという不思議な物語。

〈精読ポイント〉

自殺、援助交際など、小学生の子どもにはあまり触れさせたくないと思うような内容でも、世の中を知るためには必要。主人公やまわりの登場人物の心の変化を丁寧に読み取ることで、心情理解が鍛えられる。

『熱風大陸 ダーウィンの海をめざして』(椎名誠著・講談社文庫)

〈ストーリー〉

熱気70℃、灼熱のオーストラリア砂漠を4WDで駆ける“あやしい探検隊”の過酷で愉快な冒険物語。

〈精読ポイント〉

いくつもの困難が待ち構えている過酷な熱風大陸を実際に走っているかのような疑似体験ができ、物語の登場人物達と一緒に精神的に成長を得られる。人生経験がまだ浅い小学生は本の中での経験を通じて、「こういうときにはこういう感情がわき起こるんだな」「こういう経験をすると、こういう気持ちになれるんだな」と知ることができる。

他にもたくさんおすすめの本はありますが、厳選するとこちらの3冊になります。

どの本もストーリー展開が面白く、つい先へ先へと読みたくなりますが、ここでのポイントは「精読」です。

時間がかかっても、何度読んでもいいので、まずはじっくり読むことを心がけてみてください

読んでおしまいではなく、読後に親子の会話で理解を深める

物語文の理解は、登場人物の把握が9割といっても過言ではありません。「誰が」「いつ」「どのようシーンで」「どのような気持ちになったのか」を丁寧に読み取る習慣をつけましょう。その際に、「文章をちゃんと読むのよ」と言ったところで効果は低いでしょう。

そこで、ぜひやっていただきたいのが、読んだ後の親子の対話です。親御さんも同じ本を読み読み終わった後に、本の内容について質問をしてみてください。このとき、テストの問題のように「誰が」「いつ」「どのようシーンで」「どのような気持ちになったのか」と問い詰めるのはNG。「登場人物の中で、あなたは誰が一番好き? 誰が推し?」といった感じで気軽に聞いて見る方が、子どもは乗ってくるでしょう。

そして、「あのシーンは良かったよね」「あそこの台詞はグッときたね」など、自由に語り合ってみましょう。こうした楽しい会話を通じて、「本を読んだらお母さんとまた語り合いたいな」「私はこういう感想を持ったけど、お母さんはどう思ったのかな」と気になるようになり、じっくり読むようになります。

物語文に強くなるには、「どれだけたくさんの言葉や知識を知っているか」も重要です。言葉の意味を知らなければ、文章も問題文を読み進めていくことができませんし、知識が乏しければ「この物語は何ついて書かれたものか」も分かりません。国語力をつけるのに最も大切なことは「親子の対話」です。国語が得意な子の共通点は、親子の会話をよくしている点が挙げられます。そうした家庭では、相手が子どもだからといって易しい言葉だけ並べるようなことはせず、大人と会話をするときと同じように難しい言葉を交えながら話をします。そうやって、子どもは新しい言葉を覚えていくのです。

また、テレビでニュースを観るときもただ見るのではなく、「これはこういうことなんだよ」「こういう事情でこうなっているんだよ」と子どもが分かるように教えてあげたり、親でもうまく説明ができないときには、「どうしてこんなことが起きてしまったんだろうね」「あなたはどう思う?」と子どもの意見や考えを聞いたりします。そうやって、物事について考える習慣を身につけていくのです。考える体験を積み重ねていくことが、読解力を鍛えます。

日々のニュースの中には、戦争、殺人、いじめ、虐待など子どもには見せたくないショッキングなものもあるでしょう。しかし、子どもの国語力を伸ばしていきたいのであれば、現実も教えてあげることが大切です。

近年の国語入試の物語文は、本当にさまざまな背景の物語が出題されます。世の中の事情を知らないと、登場人物の心情どころか、一体何の話をしているの?という状況になってしまいかねません。中学受験は成熟度が高い子ほど有利な受験です。成熟度を上げるには、大人扱いをすることが大切なのです。そして、それは家庭内で育んでいくものだと私は思います。

物語文を得意にする秘訣は、少し大人の本を渡し、多少時間がかかってもいいから細部までじっくり読むように促すこと、家庭内の対話の質を高めていくこと。ぜひ、今日から始めてみてください。


これまでの記事はこちら『今一度立ち止まって中学受験を考える

※記事の内容は執筆時点のものです

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宮本毅
宮本毅 専門家・プロ

1969年東京生まれ。武蔵中学・高等学校、一橋大学社会学部社会問題政策過程卒業。大学卒業後、テレビ番組制作会社を経て、首都圏の大手進学塾に転職。小学部および中学部で最上位クラスを担当し、多数のトップ中学・高校に卒業生を送り込む。2006年に独立し、東京・吉祥寺に中学受験専門の「アテナ進学ゼミ」を設立。科目間にある垣根は取り払うべきという信念のもと、たった一人で算数・国語・理科・社会の全科目を指導している。また「すべての子どもたちに自発学習を!」をテーマに、月一回の公開講座を開催し、過去3年間でのべ2000名近くを動員する。若い頃からの変わらぬ熱血指導で、生徒たちの「知的好奇心」を引き出す授業が持ち味。YouTubeチャンネル「アテナチャンネル」を運営。

■著書

『はじめての中学受験 これだけは知っておきたい12の常識』(ディスカヴァー・トゥエンティーワン)『中学受験 同音異義語・対義語・類義語300』(中経出版)『文章題最強解法メソッド まるいち算』(ディスカヴァー・トゥエンティーワン)『中学受験 ゴロ合わせで覚える理科85』(KADOKAWA出版)『中学受験 ゴロ合わせで覚える社会140』(KADOKAWA出版)『ケアレスミスをなくせば中学受験の9割は成功する』(KADOKAWA出版)『合格する子がやっている 忘れない暗記術』(かんき出版)

この記事の著者

フリーライター。子供の誕生をきっかけに、わが子の成長に合わせ、ベビー雑誌、育児・教育雑誌、塾専門誌で取材執筆。6年前に子供の中学受験を経験したものの、国立大学の附属中学で併設高校が無かったため、その3年後に“高校受験生の母”、またその3年後に“大学受験生の母”も体験。中・高・大の3つの受験を知る受験ライター。