連載 今一度立ち止まって中学受験を考える

学歴より経験? 社会に出てから本当に必要になるものってなんだろう|今一度立ち止まって中学受験を考える

専門家・プロ
2022年12月01日 石渡真由美

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近年、「学歴よりも人生経験を重視すべきだ」と主張する人が増えています。しかし、私はこの考え方に素直にうなずけません。なぜなら、学歴はないよりはあった方がいい面も、確実にあると考えているからです。それはなぜか。今回は人生における学歴の価値、社会に出てから本当に必要な力について考えていきたいと思います。

学歴はなくてもいいけれど、あった方がチャンスは広がる

お笑いタレントのカズレーザーさんが、自身のYouTubeチャンネルで視聴者からこんな質問を受けました[*1]。

「大学中退して地元で就職しました。大学卒業の方が給与がいいのはわかります。でも、学生時代のバイトや今の仕事で、学歴はもはや関係ないと思ってしまいました。カズさんは学歴・仕事ができるか・人間性でどれが一番大事だと思いますか?」

この質問に対して、カズレーザーさんはこう答えています。

「自分でおっしゃっているじゃないですか。大学卒の方が給与がいいと。そこが学歴ということです。学歴は1個の記号であって、自分という形を作るステータスの1個。それがあるかないか。背が高い低い、足が速い遅い、(中略)、そんなどうでもいい要素の1個でしかない。でも、そんなどうでもいい要素がいっぱい集まって人間になっているので、人間性の中にもしかしたら学歴も含まれているのかもしれません」

このコメントを聞いて、私はとても共感しました。そう、学歴はあってもなくてもいいけれど、あった方が信用を得られやすいし、将来のチャンスも広がる。現に今、私がこうして中学受験に関する連載を持たせていただけるのは、自分が中学受験を経験し、大学を卒業して、大手進学塾で塾講師としての経験を積んで、個人塾を立ち上げたという学歴・経歴があるからです。

また、現実的な話として、高卒と大卒とでは生涯賃金に約5000万円の差があると言われています[*2]。難関国立大学や難関私立大学を卒業すると、さらに差は広がります。

もちろん、収入に影響するのは学歴だけではありません。なかには、将棋の藤井聡太さんやプロ野球選手の大谷翔平さんのように、高卒でも大金を手に入れられる人は存在します。しかし、こうした方々は特別な才能を持っており、レアケースのため、安易に参考にすべきではないと考えています。いっぽう、学歴があった方が高い収入を得やすいという点は、統計から間違いなさそうです。

学歴は、社会に出るあなたの基礎力を保証してくれる

社会に出てから、基礎学力が必要になるシーンは、多くの子どもが想像しているよりも、ずっと多いように思います。

たとえば、ある人が起業家になったとします。会社を軌道に乗せるために経営を学ぶ必要がでてきました。経営学は算数・数学と関連しています。もし、算数・数学がまったくできなかったら、基礎からやり直さなければなりません。それは事業を進めていく上で、余計な時間を要することになります。

学歴は、その基礎学力があるということを、ある程度は保証してくれます。経営者としてのその人の実力を測りたいと考える資本家や協業先に、安心してもらう材料のひとつになるでしょう。

また、どこかの企業に勤めるにしても、やはり学歴はその時点での力を、ある程度保証してくれます。「これから学びに時間を使おうとしている人材」よりも「すでに基礎的な学びが完了している人材」に価値を見出す企業は少なくありません。

これに対し、近ごろは「学歴よりも経験」が重視されつつあるという反論もあります。少し前に、起業家の平原依文さんの発言「学歴中心の履歴書から経験中心の履歴書へ」が話題になりましたね。経験も、ひとりの人間を構成する重要な要素であることは間違いありません。

ただし、若いころの経験は、その人自身の努力や実力によるものなのか、その人の育ったご家庭の力によるものなのか、他人からは判断しづらいというポイントがあります。平原さんご自身も、「その経験は、裕福な家庭に育ったからこそものではないのか」といった批判を受けていらっしゃいました。

もちろん、学歴にも、家庭の影響は少なくありません。しかし、ペーパーテストの結果は、本人の努力次第でどうにかなる部分が大きいのも確かです。実際に、中学受験の世界で生きていると、無限にお金を使うわけにはいかない家庭のお子さんが、湯水のように中学受験に「課金」している裕福な家庭のお子さんを追い抜いて、努力と実力で難関校に合格していく光景を毎年見ることができます。

社会に出てから大事になってくることとは?

ところで、社会人になって最も必要となる能力はなんでしょう?

私は、「言葉の力」だと考えます。人は一人では生きてはいけません。いろいろな人と関わりながら生きていきます。そうしたときに、言葉をたくさん知っていて、言葉の使い方をよく知っていると、人間関係がうまく構築でき、幸せな人生を送ることができます。私は先ほどから学歴は重要で、あるにこしたことはないと言い続けてきましたが、いくら勉強ができて、学歴があったとしても、人間関係を築くための「言葉の力」が欠けてしまうと、生きづらさを感じてしまうでしょう。

ただし、学歴には、言葉の能力がある程度は身についていることを示してくれるという利点もあります。言葉を学び、言葉を使って知識を増やす。その結果、手にしたものの一つが学歴であり、その人の人間性を表すものの一つなのだと思います。

もっとも、これは私の考え。人によっていろいろな考え方があるでしょう。正解を決める必要はありません。

もしお子さんが中学受験の勉強をしていく中で、「なんで勉強をしなければならないの?」「学歴があるとどんないいことがあるの?」などの質問を投げてきたら、親子で考えてみるといいのかもしれません。

 

【参考文献】
[*1]カズレーサーの50点塾「魅力的に振る舞おうとする人は魅力がない【カズレーザーコメント返し】」
[*2] 独立行政法人労働政策研究・研修機構『ユースフル労働統計2022 ―労働統計加工指標集―』21生涯賃金など生涯に関する指標


これまでの記事はこちら『今一度立ち止まって中学受験を考える

※記事の内容は執筆時点のものです

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宮本毅
宮本毅 専門家・プロ

1969年東京生まれ。武蔵中学・高等学校、一橋大学社会学部社会問題政策過程卒業。大学卒業後、テレビ番組制作会社を経て、首都圏の大手進学塾に転職。小学部および中学部で最上位クラスを担当し、多数のトップ中学・高校に卒業生を送り込む。2006年に独立し、東京・吉祥寺に中学受験専門の「アテナ進学ゼミ」を設立。科目間にある垣根は取り払うべきという信念のもと、たった一人で算数・国語・理科・社会の全科目を指導している。また「すべての子どもたちに自発学習を!」をテーマに、月一回の公開講座を開催し、過去3年間でのべ2000名近くを動員する。若い頃からの変わらぬ熱血指導で、生徒たちの「知的好奇心」を引き出す授業が持ち味。YouTubeチャンネル「アテナチャンネル」を運営。

■著書

『はじめての中学受験 これだけは知っておきたい12の常識』(ディスカヴァー・トゥエンティーワン)『中学受験 同音異義語・対義語・類義語300』(中経出版)『文章題最強解法メソッド まるいち算』(ディスカヴァー・トゥエンティーワン)『中学受験 ゴロ合わせで覚える理科85』(KADOKAWA出版)『中学受験 ゴロ合わせで覚える社会140』(KADOKAWA出版)『ケアレスミスをなくせば中学受験の9割は成功する』(KADOKAWA出版)『合格する子がやっている 忘れない暗記術』(かんき出版)

この記事の著者

フリーライター。子供の誕生をきっかけに、わが子の成長に合わせ、ベビー雑誌、育児・教育雑誌、塾専門誌で取材執筆。6年前に子供の中学受験を経験したものの、国立大学の附属中学で併設高校が無かったため、その3年後に“高校受験生の母”、またその3年後に“大学受験生の母”も体験。中・高・大の3つの受験を知る受験ライター。