中学受験ノウハウ 連載 今一度立ち止まって中学受験を考える

大手塾に向いている子・向いていない子 転塾するタイミングは?|今一度立ち止まって中学受験を考える

専門家・プロ
2023年3月09日 石渡真由美

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中学受験の勉強を進めていく上で必要になる塾。

でも、大手塾から中小塾、個別塾、オンライン塾などいろいろあって、何を基準に選んでいいのか分からないという方もいるでしょう。

今回は大手塾に向いている子、向いていない子についてご説明していきたいと思います。また、転塾のタイミングについても触れていきます。

中学受験をするなら「とりあえず大手塾へ」はあながち間違いではない

中学受験をするなら、塾の活用はほぼ必須といっていいでしょう。

なぜなら、中学入試の内容は、小学校の授業で習うことよりもはるかに難しいからです。また、とくに算数においては特殊な受験スキルも必要になってくるため、それを専門に指導する塾で学ばなければ対策が難しいからでもあります。

中学受験をすると決めたら、最初に検討するのが大手塾でしょう。大手塾に通うメリットは2つあります

1つは、大手塾には受験に必要なカリキュラムが整っていることです。学年ごとにいつ何を勉強するかという年間学習スケジュールがしっかり組み込まれているため、それに沿って学習をしていけば、漏れなく効果的に受験勉強が進められるようになっています。また、自塾でテキストやテストの作成をするため、常に最新の入試傾向を把握しているというのも大きな武器です。

さらに、生徒数が多いため、中学受験を終えて私立中高一貫校へ進学した多くの卒業生からその学校の情報を得られやすいという強みがあります。

こうした理由から、どこの塾に通わせるか迷ったら「とりあえず大手を検討してみる」というのは、あながち間違いではないといえます。

大手塾に向かないのは、人の話が聞けない子

しかし、大手塾に入れておけば、自然に成績が上がり、希望の学校に合格できるというわけではありません。

大手塾にとって、塾を経営していく上で最も重要なことは「難関中学へどれだけ多くの生徒を合格させることができるか」です。

そのため、大手塾の授業は、成績優秀な子を難関校に合格させるための内容に寄っていきがちです。ですから、多くの子にとっては難しく感じられるでしょう。

それでも、授業中は先生の話をしっかり聞き、家できちんと復習をするなど、本人がしっかり努力して、ご家庭もサポートできるのであれば、授業についていくことはできるでしょう。

しかし、授業中に先生の話を聞けない子は、その時点でアウトになる可能性が高いです。

小規模な塾であれば、説明の後に「今、先生が教えたことを理解できたかな?」と確認したり、授業に集中できていない子がいれば「ちゃんと話を聞きなさい」と注意したりと、手厚く指導してくれます。

一方、大手塾は優秀な子に目が行きがちなので、それ以外の子はスルーされるケースが発生しがちです。授業を聞こうが聞くまいが、その日に教えるべきことを教えることができればOKと、ドライな価値観の講師も、相対的に多いです。

なので「人の話をちゃんと聞けるかどうか」は、大手塾に向くか向かないかの大きな判断基準になります。

頻繁なクラス替えによるストレス、人間関係のいざこざに要注意

大手塾はクラスの数が多く、成績順でクラスや席順が決まります。そうやって、まわりと競争させることで、モチベーションを上げていく狙いがあります。

「よし!上がった〜!」「くそ〜、1つクラスが下がった〜!次は絶対に頑張るぞ!」と、他者との競争や自分との戦いに燃える子には向いています。逆に、競争にはまったく興味がない、むしろストレスになるという子には、大手塾は向いていません

同時に、ひんぱんにあるクラス替えは、学習環境としては落ち着きません。先生がころころと変わるため、距離感を縮めることができず、おとなしい子は先生に質問がしたくてもできないというデメリットもあります。

また、親御さんはご存じないことも多いのですが、大手塾は友達との人間関係のトラブルも起きやすいです。大手塾では成績ヒエラルキーが生まれやすく、上のクラスの子が下のクラスの子をバカにしたりすることもあります。塾内で発生したグループの派閥対立やグループ内での仲間外れが、学校生活に影響を及ぼすことも。

大手塾に通わせたい。けれど、こうしたリスクが不安だというご家庭は、最寄り駅から数駅離れた校舎に通わせることをおすすめします。人間関係のトラブルを完全に防げるとは限りませんが、少なくとも、地元や学校の人間関係を塾に持ちこむリスクを減らすことができます。または、レベル分けはされていない、1学年1クラスの小規模校舎の方が落ち着いて勉強ができるでしょう。

大手塾から大手塾の転塾はあまり意味がない。面倒見のいい小規模塾がベター

塾に通わせているものの、成績が一向に上がらないことがあります。そんなときに考えるのが転塾です。

転塾の目的は、今の悪い状態を脱して、よい状態へと変えていくことです。単に環境を変えれば改善すると思いがちですが、大手塾から大手塾への転塾はあまり意味がないと私は考えます。

というのも、大手塾の指導スタイルは、どこの塾でもほぼ同じ。教材とテキストをやりこんで、成績を伸ばしていくという方法です。そのやり方が合わない子は、別の塾でもついていくのは大変でしょう。

大手塾に合う子は、難関校の難度の高い問題にもめげずに挑戦できる、精神的に大人びた子です。

授業中、先生の話をきちんと聞くのはもちろんのこと、家に帰ったらすぐに復習をし、自ら宿題を進め、テストが近ければその対策の勉強もする。もちろん、すべてを子どもだけに任せるのは難しいと思いますが、「やるときはやる」という自制心がなければ難しいでしょう。

何が何でも御三家に入れたいというのであれば、その対策クラスがある大手塾に通わせることは大きなメリットとなりますが、そこまで上を目指しているわけではない場合は、無理に大手塾通わせる必要はないと思います。

それよりも、生徒一人ひとりをしっかり見てくれる小規模塾に通わせた方が、劣等感を持つこともなく、勉強嫌いになりにくいと思います。

また、中堅校狙いであれば、地元の塾の方が卒業生を多く輩出していて、情報に詳しく、しっかり対策してくれることもあります。

ただし、小規模塾は良くも悪くも塾長をはじめとする先生のカラーが出やすく、先生との相性が合うかどうかが重要になってきます

転塾のタイムリミットは5年生の夏期講習前!

転塾を考えているのなら、なるべく5年生の7月までに決断することをすすめます。

どこの塾も、5年生の夏休みはそれまで習ったことの復習をするので、苦手単元や抜けている単元を勉強することができるし、新しい塾のペースをつかむこともできるからです。

一方、小規模な塾に通っていた子が、成績をぐんぐん伸ばし、志望校のレベルを上げていきたいと考えることがあります。

その場合は、難関校の対策に長けている大手塾に転塾してもいいと思います。ただし、大手塾のカリキュラムは早く進んでいきますので、5年生のスタートまでに転塾することをおすすめします。

お子さんがそのまま小規模塾に通いたいというのであれば、そのまま通ってもいいでしょう。その場合は、塾の先生に早めに志望校を伝えておきましょう。小規模塾の先生は面倒見がいいですし、個人の塾の場合は融通も利き、特別に対策してくれることもあります。

どこに塾に通わせるにしても、塾と良好な関係を築くことが大切

最後に大切なことをお伝えします。お子さんの受験勉強をスムーズに進めていくためには、塾の規模にかかわらず、日頃から塾と良好な関係を作っておくことです。そうすれば、何か困ったことがあっても、すぐに相談することができます。

一番良くないのは、「子どもの成績が上がらないのは塾のせい」と、安易に転塾をくり返すケースです。いくつかの大手塾を渡り歩いた後に、小規模な塾に転塾するご家庭がありますが、残念ながらそういうお子さんはなかなか伸びていきません。

転塾はお子さんにとっては大きな負担になりますので、できるだけしないに越したことはありません。中学受験をすると決めたら、「わが子に合う塾はどこか」をしっかり見極めてから、入塾するようにしましょう。中学受験は塾選びから始まっているのです。

※記事の内容は執筆時点のものです

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宮本毅
宮本毅 専門家・プロ

1969年東京生まれ。武蔵中学・高等学校、一橋大学社会学部社会問題政策過程卒業。大学卒業後、テレビ番組制作会社を経て、首都圏の大手進学塾に転職。小学部および中学部で最上位クラスを担当し、多数のトップ中学・高校に卒業生を送り込む。2006年に独立し、東京・吉祥寺に中学受験専門の「アテナ進学ゼミ」を設立。科目間にある垣根は取り払うべきという信念のもと、たった一人で算数・国語・理科・社会の全科目を指導している。また「すべての子どもたちに自発学習を!」をテーマに、月一回の公開講座を開催し、過去3年間でのべ2000名近くを動員する。若い頃からの変わらぬ熱血指導で、生徒たちの「知的好奇心」を引き出す授業が持ち味。YouTubeチャンネル「アテナチャンネル」を運営。

■著書

『はじめての中学受験 これだけは知っておきたい12の常識』(ディスカヴァー・トゥエンティーワン)『中学受験 同音異義語・対義語・類義語300』(中経出版)『文章題最強解法メソッド まるいち算』(ディスカヴァー・トゥエンティーワン)『中学受験 ゴロ合わせで覚える理科85』(KADOKAWA出版)『中学受験 ゴロ合わせで覚える社会140』(KADOKAWA出版)『ケアレスミスをなくせば中学受験の9割は成功する』(KADOKAWA出版)『合格する子がやっている 忘れない暗記術』(かんき出版)

この記事の著者

フリーライター。子供の誕生をきっかけに、わが子の成長に合わせ、ベビー雑誌、育児・教育雑誌、塾専門誌で取材執筆。6年前に子供の中学受験を経験したものの、国立大学の附属中学で併設高校が無かったため、その3年後に“高校受験生の母”、またその3年後に“大学受験生の母”も体験。中・高・大の3つの受験を知る受験ライター。