中学受験ノウハウ 連載 今一度立ち止まって中学受験を考える

中学受験4年生〜6年生 合格までのロードマップ|今一度立ち止まって中学受験を考える

専門家・プロ
2023年4月13日 石渡真由美

3

一般に中学受験の勉強は、塾の受験コースが始まる小学3年生の2月からスタートし、そこから3年間掛けて準備をしていきます。

合格を手に入れるためには、どんな力を伸ばし、どんなことに気をつければいいのでしょうか。合格までのロードマップをご紹介します。

【4年生】まずは授業をしっかり聞く・1学年上レベルの文章を読めるようにする

中学受験の勉強は小学3年生の2月からスタートしますが、「塾の勉強が始まったから、さぁ、ここから頑張ってもらおう!」と思っても、うまくはいきません。

中学受験は小学校生活の約半分を費やす長期戦。マラソンでもそうですが、走り出す前には基礎体力をつけておくことが必要です。

3年生のうちに、算数なら計算力を鍛える、「単位量あたりの大きさ」の感覚を身に付けておく、国語なら語彙を増やす、文章に慣れておくなど、基礎学力をつけておくようにしましょう。

出題文の長文化が続く「国語」

中学入試は国語・算数・理科・社会の総合点で合否が決まりますが、4年生のうちはメイン科目である国語と算数の勉強をしっかりと行っていきましょう。この時期に算・国の基礎学力が身についていないと、5年生以降の算・国の学習が思うように進まないばかりでなく、本格化する理科や社会の学習にも影響を及ぼしてしまいます。

特に重要なのが国語です。

近年、中学入試はどの教科においても、文章問題がとても長くなっています。以前から難関校の国語と社会入試は問題文が長いことで知られていましたが、最近は算数入試のリード文だけで2ページを超える学校もあり、長い文章を正確にテンポよく読めるかどうかが合否のカギを握っています。

文章を読む力を育てるには、文章を読むことにとにかく慣れておくことです。中学入試は小学校で学習するレベルよりも語彙も内容も難度が高いため、少し難しい文章に触れておくようにしましょう。

4年生なら5年生レベル、5年生なら6年生レベルの文章を読む練習をしておくのがおススメです。最終的には受験時に中学生レベルの文章を読めるようにしておくとよいでしょう。御三家女子であれば、さらにその上の高校・大学レベルの文章を読む力が求められることもあります。

読み書きだけではなく、「話を聞く」能力も意識して

もう一つ重要なのが、「人の話をきちんと聞けるようにする」ことです。

中学受験の勉強は塾の授業を中心に進めていきます。塾の授業は年間のカリキュラムが固定されているため、その日に教えるべきことは、その日のうちに教え切らねばなりません。

そのため、生徒の理解度などおかまいなしにスピーディーに進んでいきます。ぼやっとしていると、大事なポイントを聞き逃したり、理解できないまま授業が終わったりしてしまいます。それでは塾に通っても、成績は伸びていきません。まずは塾の授業を集中して聞くようにすることです。

中学受験の勉強が本格化するのは5年生からです。4年生はその準備段階の位置づけになります。ここでしっかり「授業を聞く」「文章を読むことに慣れる」練習をしておくこと。

この2つを確かなものにしておくで、その先の勉強がスムーズに進むようになります。

【5年生】積み上げ式の算数・社会は進捗状況を把握、算数は塾を頼ったほうがベター

5年生になると、その内容が本格化していきます。

4年生のうちは、国語・算数を中心とした学習で良いと思いますが、5年生になるとすべての教科が重要になってきます。

積み上げ式の「社会」には反復学習を

特に大変になってくるのが社会です。5年生の前期には地理を、後期には歴史をと、多くの知識を頭に入れていかなければなりません。

社会は暗記科目だから入試直前に覚えればいいと思っている親御さんもいますが、これだけの量を覚えるためにはやはり相応の時間が必要です。とても直前期だけで追いつけるものではありません。

また、社会は積み上げ式の学習なので、暗記をサボっていると次の授業の内容がぼんやりしてしまい、効率よく学習できません。

そこで、週に1〜2日ほど、社会の反復学習をする日を決めて、振り返りを行うようにしましょう。子どもだけでは進めるのは難しいと思いますので、親御さんがサポートをしてあげてください。

「理科」はペンディング可能、「算数」は苦手を放置しない

同じように理科も覚えることはたくさんありますが、理科は単元ごとに内容が異なるため、例えば植物が苦手だとしても、化学反応は得意だったりすることもあり、すべてがリンクしているわけではありません。苦手分野はとりあえずペンディングとしておいて、夏休みなどまとまった休みのときに取り組んでもいいでしょう。

算数は社会同様に積み上げ式の学習になり、“苦手”をそのままにしないことが大切です。

しかし、中学受験の算数は難しいうえ、たとえ中学受験を経験している親御さんでも昔と解法が違っていたりすることもあるので、親御さんご自身が張りきって教えないほうがいいことも……。

お子さんの“苦手”が見つかったら、塾の先生に相談をしてみるなど、橋渡し的な役に徹することをおすすめします。

【6年生】志望校の過去問は9月からスタート! 夏休み中に過去問の準備をしておく

秋以降の追い込みに向けてできること

中学受験のカリキュラムは、6年生の1学期で一通り終了します。1学期までは、5年生の学習同様に、算数・社会の積み上げ式の学習はできるだけ“苦手”を作らないようにしましょう。

夏休み以降は演習をくり返すことで、入試に必要な実践力を身に付けていきます。

9月になると、いよいよ志望校の過去問演習がスタートします。

過去問は実際のテストと同じサイズにコピーをして取り組むとよいでしょう。冊子をそのまま子どもに渡してやらせない方がよいですね。子どもは解答をチラ見しがちなもの。特に本人が強くその学校を希望していたり、親御さんのプレッシャーが強かったりすると、子どもは答えを見てでもいい点を取りたいものなのです。ですからちょっと大変ですが、過去問はコピーして使用することを強くおススメします。

近年は併願校を含め5〜7校の学校を受験するのが一般的です。受験するすべての学校の過去問に取り組むとなると、相当の量になりますので、夏休み中に親御さんがすべての過去問をコピーしておき、9月に入ったらすぐに取りかかれるように準備をしておきましょう。

主役は子ども。志望校選びは偏差値にとらわれないで

その前に大事なのが、志望校選びです。

最終的な受験校は、6年秋の模試の結果や過去問との相性で決めていくことになりますが、学校見学は4年生のうちから始めておくようにしてください。その際、偏差値帯にこだわらず、幅広い学校を見学されることをおススメします。

お子さんの学力レベルを無視して、偏差値の高い学校を目指させようとすると、子どもは親の期待に応えようと出来ていないことを隠そうとします結果、プライドだけ高くて学力の伴わない子になってしまいます。

また、もし万が一、志望校に対して学力が届かなかったときに、「ここの学校にも行けない」「あそこの学校にも行けない」と志望校を落としていくことになります。それは、お子さんにとっても親御さんにとってもとてもつらいことです。

下手をすると「どうせ僕なんか勉強したってできるようにならないんだ」と学習に対して投げやりな子になってしまう危険性もあります。高い目標を持つことは素晴らしいことですが、中学入試は学力一発勝負ですので、そこは大人の側が状況を冷静に見極めて、子どもにとって良い結果となるよう作戦を練っていく必要があります。

学校見学は偏差値にとらわれず、「うちの子に合いそうな学校はどこか」という視点で、いろいろな学校を見るようにしてください。

その中からお子さんの学力相応の学校をひとまず志望校にしておき、中学受験の勉強が進んでいくに連れて、成績を伸ばしていくことができたら、「もう少し上の学校にチャレンジしてみてもいいかもね」と志望校を変えていく方がいいでしょう。

その方が、お子さんのモチベーションも上がりますし、親子が笑顔でいられます。大事なのは、お子さんを真ん中に置いて考えることです。

中学受験は人生のロードマップを考える絶好の機会

今回は、中学受験のロードマップということで、各学年時にしていただきたいことを中心に紹介しましたが、最後に大事なことをお伝えしたいと思います。

これから中学受験をするご家庭にとって、中学受験は小学校生活の中のビックプロジェクトになると思います。しかし、中学受験でお子さんの人生が決まってしまうわけではありません。

私の教え子にも、残念ながら中学受験では思うような結果は出せなかったけれど、進学した第2志望校、3志望校の学校で、6年間勉強を頑張り、希望に大学に進学し、素敵な大人になった子はたくさんいます。

「第三希望の学校だったけど充実した6年間を過ごして国立大学に進学した子」
「中学受験では結果を残せなかったけど、都立のトップ校に合格して医学部に合格した子」
「慶應大学のご出身で慶應中等部を熱望されていたご両親が、わが子の現時点での学力を冷静に判断されて、中堅私立中学に入学させその後英語を頑張って慶應大学に進学できた子」
「大学附属校を目指して中学受験を始めたが夢破れて附属校以外に進学し、6年間がんばってリベンジを果たし東京大学に合格した子」

などなど、私の塾のような小さな個人塾でもそのような例は枚挙にいとまがありません。

お子さんの将来のためにと選択した中学受験で、勉強のやらせすぎで勉強が嫌いになってしまったり、他のお子さんと比べられ「自分はできない子なんだ」と自己肯定感を下げてしまったりすることになっては、本末転倒です。どうか親御さんは冷静な目を持って、お子さんのサポートをしてあげてください。

中学受験はお子さんの進路を考える最初の一歩。人生のロードマップのスタート地点ともいえます。

お子さんにどのような人生を歩んで欲しいか、夫婦でしっかり話し合い、家族が同じ方向に向かって進んでいけるようにしましょう。それがお子さんにとって、何よりも心の安心になり、頑張る源になります。

 

※記事の内容は執筆時点のものです

3
宮本毅

宮本毅

  • 専門家・プロ

1969年東京生まれ。武蔵中学・高等学校、一橋大学社会学部社会問題政策過程卒業。大学卒業後、テレビ番組制作会社を経て、首都圏の大手進学塾に転職。小学部および中学部で最上位クラスを担当し、多数のトップ中学・高校に卒業生を送り込む。2006年に独立し、東京・吉祥寺に中学受験専門の「アテナ進学ゼミ」を設立。科目間にある垣根は取り払うべきという信念のもと、たった一人で算数・国語・理科・社会の全科目を指導している。また「すべての子どもたちに自発学習を!」をテーマに、月一回の公開講座を開催し、過去3年間でのべ2000名近くを動員する。若い頃からの変わらぬ熱血指導で、生徒たちの「知的好奇心」を引き出す授業が持ち味。YouTubeチャンネル「アテナチャンネル」を運営。

■著書

『はじめての中学受験 これだけは知っておきたい12の常識』(ディスカヴァー・トゥエンティーワン)『中学受験 同音異義語・対義語・類義語300』(中経出版)『文章題最強解法メソッド まるいち算』(ディスカヴァー・トゥエンティーワン)『中学受験 ゴロ合わせで覚える理科85』(KADOKAWA出版)『中学受験 ゴロ合わせで覚える社会140』(KADOKAWA出版)『ケアレスミスをなくせば中学受験の9割は成功する』(KADOKAWA出版)『合格する子がやっている 忘れない暗記術』(かんき出版)

石渡真由美

  • この記事の著者

フリーライター。子供の誕生をきっかけに、わが子の成長に合わせ、ベビー雑誌、育児・教育雑誌、塾専門誌で取材執筆。6年前に子供の中学受験を経験したものの、国立大学の附属中学で併設高校が無かったため、その3年後に“高校受験生の母”、またその3年後に“大学受験生の母”も体験。中・高・大の3つの受験を知る受験ライター。