中学受験ノウハウ 連載 今一度立ち止まって中学受験を考える

中学受験で子どもの自立を妨げる“毒親”にならないために|今一度立ち止まって中学受験を考える

専門家・プロ
2023年6月08日 石渡真由美

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中学受験に挑戦するのは、まだ10歳〜12歳の子ども。自分の力だけで受験対策を進めていくのは難しいため、親のサポートが必要不可欠です。

ところが、関わり方次第では、子どもにとってマイナスに働く“毒親”になってしまうことも。どんなことに気をつければいいのでしょうか?

もしかして毒親予備軍かも……? 中学受験保護者に見られる3つのよくない傾向

「中学受験は親子の二人三脚」という言葉はご存じですね? 高校受験や大学受験と違って、幼い小学生の子どもがチャレンジする中学受験に、親の伴走は欠かせません。

それは昔も今も変わりませんが、近年はインターネットの発達によって、良くも悪くもたくさんの受験情報が簡単に手に入るようになりました。多くの親御さんはこれらの情報を受け取るたびに感情が揺れ動き、結果、子どもの受験にのめり込み過ぎてしまっているように感じます。

熱心さの度合いが行き過ぎてしまうと、子どもの成績が伸びにくくなるばかりか、親子関係がギクシャクしてしまうことも。わが子のために始めた中学受験で、そのようなことになってしまっては本末転倒です。

中学受験でよく見られる保護者の望ましくない傾向は、主に次の3つに分類されます。

  1. 不機嫌型
  2. 過干渉型
  3. 過保護型

詳しく説明していきましょう。

【不機嫌型】日常的な悪口や文句は子どもの精神を蝕んでしまう

不機嫌型は、子どもの成績をはじめ、勉強への向き合い方、勉強の量など、何かにつけて愚痴や文句を言う親御さんです。ご本人はわが子のために良かれと思って言っているつもりでしょうが、それを毎日受け取る子どもはたまったものではありません。

精神的に強い子であれば言い返すこともできますが、小学生の子どもにとっては、親はまだ大きな存在。大好きなお母さんに嫌われまいと、お母さんの顔色を伺いながら必死になって勉強する子もいれば、親の言葉に傷つき、「どうせ私はできない子なんだ……」と自分に自信をなくしてしまう子もいます。

人間形成の上で大事な時期にこのようなことが続くと、中学受験では合格が手に入れられたとしても、その後の親子関係にひびが入ってしまい、修復不可能になってしまうこともあります。

また、愚痴や文句を言う親の傾向として、学校や塾の文句も多いように感じます。「あの先生は教え方が下手」「教育者としてイマイチ」など、子どもの前で先生の悪口を平気で言うのです。

そんな親の言葉を聞いた子どもが、先生の言うことを素直に聞くはずがありません。教育のプロである先生のアドバイスを聞かずに、間違った自己流のやり方で勉強を進めようとして、成績が伸び悩むという結果になりがちです。

一方、子どもの成績を上手に伸ばす親御さんは、学校や塾の先生をうまく持ち上げながら、子どものやる気も引き出していきます。それができるのは、親御さん自身に心の余裕があるからです。

【過干渉型・過保護型】過度な口出しは、子どもの自立の邪魔をする

過干渉型は子どものやることなすこと何に対しても口出しをすること、過保護型は何でも先回りしてお膳立てすることです。

どちらもやっていることに違いがあるわけではなく、受け取る側の子どもがどう感じるかで変わってきます。親が同じように過剰に働きかけていても、過干渉だと感じて親の存在をうっとうしく思う子もいれば、過保護に世話されることに甘えてしまって、特にストレスを感じていない子もいます。

小学生に親のサポートは不可欠ですが、何から何までしてあげる必要はありません。

例えば、丸付けは4年生のうちは親がやってあげたり、親子でやったりしたほうがいいと思いますが、習慣がついてきたら、徐々に子どもに任せていったほうがいいでしょう。はじめはうまくいかないかもしれませんが、失敗をくり返しながらも自分でできるようになることが大切です。自分で学べる子になり、将来的に子どもの自立につながるからです。学習のスケジュールの立て方、テストの間違え直しなども同じことがいえます。

まだ幼いからと何でも親がやってあげると、子どもは成長しません。子どもの成長に合わせて、適度な距離感を考えてきましょう。

私は、中学受験の成功基準は、志望校への合格よりも、お子さんをどれだけ自立に近づけることができたかにあると考えます。

「中学受験は親の受験」または「親子の二人三脚」などの言い方をされますが、親の力、または二人三脚で頑張って実力以上の学校に入れることができたとしても、そこからひとり立ちできなければ、「合格したのはいいけれど、中学に入った途端まったく勉強をしない」「大人からの指示がなければ動けない」なんてことになってしまいかねません。

つまり、過干渉、過保護は、子どもの伸びていくはずの力を奪ってしまう危険性が非常に高いのです。

親は親、子どもは子ども

では、なぜ今の親御さんたちは、中学受験にのめり込んでしまうのでしょうか? 

私は「共依存」の関係性に陥ってしまっているから、と考えます。共依存とは、自分と特定の相手(この場合は子ども)が過剰に依存し合っている状態を指します。

共依存におちいると、子どもの成績がまるで自分への評価であるかのように思ってしまい、成績の上下に必要以上に一喜一憂してしまいます。また、親である自分が頑張らなければと、何でも先回りをしたり、子どものやることにあれこれ口出しをしてしまったりします。

しかし、小学生の子どもはまだ発達の途中段階。志望校合格といった遠い目標に向かって、毎日同じ熱量で頑張ることができません。すると親は、自分の思う通りに動いてくれないわが子に、イライラやモヤモヤを募らせていくのです。

そうならないためには、「子どもは子ども、自分は自分」と割り切ることです。

中学受験に挑戦するのは、親である自分ではなくお子さんです。できることなら志望校に合格してほしいけれど、不合格になることもある。

でも、たとえ不合格になってしまったとしても、それまでの努力は決して無駄にはなりません。頑張って成績を上げたことも、頑張ったけれどうまくいかなかったことも、その経験はお子さんの成長の糧となります。

私は40年ほど前に中学受験を経験していますが、第一志望の夢は叶わず第二志望の学校に進学することになりました。

第一志望の不合格を知ったとき、私の母親は「あらら、やっぱりダメだったかー。でも、第二志望の学校は合格できたからよかったじゃない」と明るく笑い飛ばしてくれました。その言葉にどんなに救われたことか。

もし、あのときに母が暗い顔をしていたら、私はずっとそのことを引きずって、中高生活が楽しめなかったと思います。

保護者自身も自分の人生を楽しむ意識を

わが子の中学受験にのめり込み過ぎている親御さんにぜひおすすめしたいのが、親御さん自身の心のリフレッシュです。スポーツでも趣味の習い事でも何でもいいので、無心になってやれるものが何か一つあるといいと思います。

私がよくおすすめしているのは、テニスです。思いっきりボールを返したり、打ったりすることはストレスの発散になります。

また、地域に多くのスクールがあるので、気軽に始めやすいのもいいと思います。そこで新しい友達ができることもあります。さまざまな年齢の人たちが集まるスクールは、子育ての先輩ママも多く、相談にも乗ってくれるでしょう。同じ受験の渦中にいるママ友はライバルの関係になりやすいけれど、先輩ママの話は参考になりますし、または子育てとまったく接点のない人と会話をすることは新しい発見があり刺激にもなります。

まずはそうやって、親御さん自身が自分の人生を楽しむことです。親御さんがいつもニコニコと明るいと、お子さんは心が安心し、勉強にも集中できます。

毎日なんだかイライラする、子どもの受験のことが気になって仕方がないという親御さんは、まずは自分自身の生活を見直し、心を軽くしてみましょう。

※記事の内容は執筆時点のものです

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宮本毅

宮本毅

  • 専門家・プロ

1969年東京生まれ。武蔵中学・高等学校、一橋大学社会学部社会問題政策過程卒業。大学卒業後、テレビ番組制作会社を経て、首都圏の大手進学塾に転職。小学部および中学部で最上位クラスを担当し、多数のトップ中学・高校に卒業生を送り込む。2006年に独立し、東京・吉祥寺に中学受験専門の「アテナ進学ゼミ」を設立。科目間にある垣根は取り払うべきという信念のもと、たった一人で算数・国語・理科・社会の全科目を指導している。また「すべての子どもたちに自発学習を!」をテーマに、月一回の公開講座を開催し、過去3年間でのべ2000名近くを動員する。若い頃からの変わらぬ熱血指導で、生徒たちの「知的好奇心」を引き出す授業が持ち味。YouTubeチャンネル「アテナチャンネル」を運営。

■著書

『はじめての中学受験 これだけは知っておきたい12の常識』(ディスカヴァー・トゥエンティーワン)『中学受験 同音異義語・対義語・類義語300』(中経出版)『文章題最強解法メソッド まるいち算』(ディスカヴァー・トゥエンティーワン)『中学受験 ゴロ合わせで覚える理科85』(KADOKAWA出版)『中学受験 ゴロ合わせで覚える社会140』(KADOKAWA出版)『ケアレスミスをなくせば中学受験の9割は成功する』(KADOKAWA出版)『合格する子がやっている 忘れない暗記術』(かんき出版)

石渡真由美

  • この記事の著者

フリーライター。子供の誕生をきっかけに、わが子の成長に合わせ、ベビー雑誌、育児・教育雑誌、塾専門誌で取材執筆。6年前に子供の中学受験を経験したものの、国立大学の附属中学で併設高校が無かったため、その3年後に“高校受験生の母”、またその3年後に“大学受験生の母”も体験。中・高・大の3つの受験を知る受験ライター。