中学受験ノウハウ 連載 今一度立ち止まって中学受験を考える

中学入試で「生活力」を問う問題をあえて出す理由|今一度立ち止まって中学受験を考える

専門家・プロ
2024年4月11日 石渡真由美

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中学受験の入試問題というと、受験塾に通っていない子どもには解けないような難問ばかりというイメージがあると思います。

そんな中で、ピーマンやたまねぎなど野菜の断面図を聞く問題が出ると話題になったりしますが、実はこれは以前からときおり見られる問題です。

なぜ学校側はこのような問題を出題するのでしょうか?

野菜の断面図や魚の切り身、AEDの使い方まで

ピーマン、キャベツ、タマネギなどの「野菜の断面図」を問われる問題は、2000年の初めごろから理科入試で出題されています。数としてはそれほど多いわけではありませんが、2024年度入試でもこのような問題を出す学校が見られました。中学受験の勉強は大人でも太刀打ちできないような難問が多いと聞いていたけれど、こんな問題も出るの? こんなことまで塾で習うの? と驚かれた方もいるかもしれませんね。

確かに塾では植物の分野でいくつかの野菜については学びますが、原則として、その断面図までは教えません。では、なぜこのような問題を学校側が出すのかといえば、子どもたちの日ごろの生活を見るためです。

近年は野菜の断面図だけでなく、魚をさばいたときの頭から見た構図がどうなっているのかを聞く問題や、AEDの使い方を聞く問題など、私たちの生活の中にあるものについて聞く出題がところどころで見られています。

こうした問題は知っていれば簡単に答えられますが、知らなければ分かりません。すると、こういう問題が出たら、「じゃあ、タマネギを切らせて断面図を見せて覚えさせなくちゃ!」と受験対策としてやらせようとする親御さんがいますが、実は学校が求めているのはそこではありません。

もちろん、やらないよりはやった方がわずかに合格には近づくかもしれません。ですが、学校が本当に知りたいのは、「その子自身に知的好奇心があるか」なのです。

机上の勉強だけをしてきた子より、知的好奇心のある子が欲しい

近年、中学受験の学習内容はとても難しく、学習範囲も膨大になっています。こうした問題に対応するには、とにかく塾の勉強を一生懸命頑張ることが大事と思いがちです。そこで、親御さんたちは、一日に何時間もお子さんを机に向かわせて勉強をさせます。高い目標に向かって努力をすること自体は良いことです。

しかし、「あなたは受験生だから勉強だけをしていればいい」と遊びから遠ざけたり、家のお手伝いをやらせなかったりすると、子どもの知的好奇心は育っていきません。

入試はその学校で学ぶ生徒を選ぶためにあるものです。多くの先生たちにとってぜひ来て欲しいと思う生徒像は、分かりやすく喩えるなら授業中に目をキラキラさせながら先生の話を聞き、自分の考えを活発に言える生徒なのでしょう。勉強ができても目が死んでいたり、授業をぼーっと聞いていたりするような子は教え甲斐がないし、入学後の伸びも期待できません。そんな子にはそれほど来て欲しくない、というのが学校側の本音だと思います。

ですが、入試でそんな子とそうでない子を選別するのはなかなか難しいのです。なぜなら、みんな一生懸命勉強をしてくるからです。そこで、あえてときどき塾のテキストには載っていないような問題を出してみて、その子が普段どんな生活をしているのか、受験勉強だけでなく身の回りのことにどれだけ好奇心を持っているかなどを見ているのではないかと思います。

思考力とは知識を組み合わせて考えるもの

別に学校側もいじわるをして出しているわけではありません。野菜の断面図のような生活力を問う問題は、知っていれば即座に解けるし、知らなければすぐに答えは出せません。

ですが、たとえ断面図を見たことがなかったとしても、自分がこれまで学んで来た知識や経験を組み合わせて考えることはできます。

例えばタマネギの断面図を答えるとき、タマネギの食べる部分は葉っぱの集合体でできているという知識を知っていれば、「この重なっている部分は葉っぱなのだから、これが茎でこれが根だ」と構造が分かり、正しい答えを見つけることができます。

また、AEDの使ったことがなくても、「電気刺激パットをどこに貼るか?」という問題だったら、「電極はどう通せばいいんだっけ? 全身の血液を送り出すにはどこを刺激すればいいのかなぁ? そうだ、左心室が動かないとダメなんだ。ってことは、左側に当てればいいんだ!」と、今自分が持っている知識をフルに活用して答えを導き出すこともできます。

こうした知識の部分は、塾で習っているはずです。それをただ入試に出るからと丸暗記するか、習ったときに「僕が普段食べているタマネギって球根かと思っていたけど、あれって葉っぱだったんだぁ〜! いや〜、ビックリだなぁ〜」と面白がり、そして「じゃあ、ブロッコリーは? ニンジンは?」と考えを巡らせていけるかどうかに知的好奇心の差が出ます。

長年中学受験の指導をしてきて感じることは、難関校に無理なく合格する子は、同じ授業を聞いていても、普段から習った知識を他のことにつなげて考える習慣があったり、そもそも考えることが好きだったりすることが多いのです。そして、こうした子の親御さんのかかわり方も素晴らしいのです。

子どもの好奇心の芽を育てるかかわり方を

子育てをしていると毎日が慌ただしく、子どもの話をじっくり聞いてあげられないことがあります。特に幼児や低学年の子どもは、自分の身の回りの不思議を知りたくて「なんで?」「どうして?」と質問攻めをします。

こうした質問に対し、親御さんが「そんなことどうでもいいの」「早く○○しなさい!」と拒絶をしてしまうと、せっかく芽生えた子どもの好奇心の芽を摘んでしまいます。一方、子育て上手な親御さんは「へぇ〜、面白い質問だね!」「なかなかの着眼点だね」と子どもの好奇心を喜び、「じゃあ、一緒に調べてみようか」と根気よくつき合う姿が見られます。こうした日々の積み重ねが、「知らないことが分かるのは楽しいな」「あれこれ考えてみるのは面白いな」と知的好奇心のある子に育てていくのです。

中学受験で学校側が求めているのは、まさにこういう子です。

野菜の断面図のような生活力を問う問題を出すのは、「受験勉強だけじゃなく、ちゃんと普段から家のお手伝いをしていますか?」といった受験生の生活を知りたいという面もあると思いますが、さらに深く考察していくと、「あなたは日ごろから自分の身の回りのことに興味関心を持ち、自分が知っている知識や経験を組み合わせて考えることをしていますか?」と聞いているように感じます。そして、今の時代はこうした思考力、またはその素地がある子が求められているのです。

 

※記事の内容は執筆時点のものです

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