連載 ホメ夫先生のやる気引き出し術

「名は体を表す」できれば漢字で暗記しましょう!|全力珍回答! ホメ夫先生のやる気引き出し術(17)

専門家・プロ
2016年3月22日 辻義夫

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ホメ夫が小学生のころ、クラスメートの一人が先生にあてられて教科書の本文を読んでいるとき「楽しい」を「らくしい」と読んで、クラスが爆笑の渦に巻き込まれたことがあるのですが(そういうホメ夫も「初々しい」を「はつはつしい」と読んでクラス中に笑われた記憶があります)、大人でも、意外な漢字を意外な感じ(ダジャレじゃないですよ)で読んでいることがあるものです。

「名は体を表す」ということわざがあるように、ものの名前には理由があり、それを覚えておくと忘れにくく、思い出しやすいのですが、今回のお話は、そうしなかった若いホメ夫の失敗の記憶です。

「繊」は「しなやか」、「鞭」は「むち」

まだホメ夫が一斉授業の塾の駆け出し講師だったころ、あるクラスの生物についての授業でした。

ゾウリムシというプランクトンには、体(細胞)のまわりに細かい毛が生えているのですが、それを「繊毛(せんもう)」といいます。そしてミドリムシというプランクトンには、体に1本の毛が生えていて、その毛を使って水中を「泳ぐ」のです。この毛のことを「鞭毛(べんもう)」といいます。

「繊」は「しなやか」「ほそい」が訓読みで「鞭」の訓読みは「むち」です。まさに「名は体を表す」で覚えやすいのですが、少々難しい漢字なので、テキストには「せん毛」「べん毛」と表記されています。ホメ夫も黒板に、その通り書いたのです。

この2つの「毛」を混同する子どもが多いので、講師としては何度も確認します。授業で教えて、問題演習でも出てきて、そして授業が終わって子どもたちが家へ帰る直前、最後に確認。

「最後に!ゾウリムシの毛はどっち?」

といった具合です。

「せん毛」「べん毛」え~っと、どっちだったっけ……

そんな授業があって数週間後。

同じクラスで復習の授業をしていた時のことです。

「ゾウリムシの体のまわりに生えてる毛、前にやったよね? なんて名前だったっけ?」

みたいな展開になったのです。

「え~っと、どっちだったっけ……」

とクラスの活発な男子が騒ぎ出し、気の早い男子が「先生、それってあのときの授業の最後に先生が言ったほうだよね?」と早くもフライング。

こういう「盛り上がり」は一斉授業には必要です。

さて、大ヒントも出たところでいよいよ答え発表!ということで、ふだん控えめな女子、Tさんに答えてもらうことに。

Tさんは、いつもあてられるときと同じように、ちょっとためらってから答えました。

そのTさんの答えは……

「せんげ……」

先生!「べんげ」のほう?

一瞬クラスが静まり返り、どよめきがおこります。

Tさんはとても「お嬢様」的な女子なので、いつもは囃し立て役の男子たちも戸惑っています。

そこで間髪入れずに発言したのが、クラスの女子のリーダー的な存在、Mさん。

「え?先生、『せんげ』じゃないの? 『べんげ』のほう?」

ここでようやく男子たちは大爆笑。

「お前、なんでそんな変な読み方なんだよ」

「『べんげ』とかないだろ」

とヤンヤヤンヤです。

ああ、やっぱり漢字で覚えるように言ってあげればよかった……

機転のきくMさんは引き下がりません。

「え~、先生、『べんげ』だよね? 私もそう覚えてたもん!先生あのとき『べんげ』って言ったよね?」

ああ、やっぱり漢字で覚えるように言ってあげればよかった……と若いホメ夫は後悔しながらも、Mさんに感謝しつつ乗っかります。

「あ~、言った言った。でも正解は『せんげ』の方だよ。」

どっとみんなが笑い、男子たちはブーイングです。

「先生、なんで女子にはそんなに甘いんだよ!」

みんなわかっていて、Tさんを必要以上に傷つけないように、それぞれの役割を演じる。いいクラスには、そんな一体感と仲間意識があります。クラスを運営する講師としては、こんな優しさをもったクラスの子どもたちに感謝です。

みなさん、念のため、正しい答えは

「せん毛(せんもう)」

ですよ。

「せん」は繊維の「繊」ですから、やっぱり漢字で覚えたほうが間違いないですね。

※この記事は、「マイナビ家庭教師」Webサイトに掲載されたコラムを再編集のうえ転載したものです


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※記事の内容は執筆時点のものです

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