私学だけに許された「宗教」。宗教校の「なぜ?」「なに?」に迫る
公立学校には、特定の宗教に依拠した学校はありません。これは法律で定められています。しかし、私立の学校については、特定の宗教をベースにした学校がたくさんあり、そういった学校の中には授業の中でも宗教の課目を設置しているところもあります。なぜ、私学では宗教の関わりが許されるのでしょうか。そして、宗教系の学校ではどんなことが行われているのでしょうか。
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公立にはない宗教校
公教育では、歴史や公民の分野で宗教についての知識を学ぶことはありますが、特定の宗教の教義に基づく教育が行われることはありません。公立の学校を卒業した人なら、学校で「宗教の時間」などはなかったはずです。しかし、私立学校では、特定の宗教に基づく教育を行うことが許されています。実際のところ、私学には、創立の経緯から宗教が深く関わっている場合も多いのです。
なぜ公立校には宗教校がなく、私立校には宗教校があるのか
教育基本法の第9条には、「宗教に関する寛容の態度及び宗教の社会生活における地位は、教育上これを尊重しなければならない。国及び地方公共団体が設置する学校は、特定の宗教のための宗教教育その他宗教活動をしてはならない。」とあります。つまり、宗教の自由は尊重するけれど、公教育である公立学校では、特定の宗教に基づく教育をしてはいけない、と言っているわけです。
ここで宗教教育を禁止されているのは、「国及び地方公共団体が設置する学校」だけですから、私立の学校にはその制約が及びません。ですから、私立校には宗教校が存在するのです。
宗教校というとキリスト教系の学校をイメージする方も多いでしょう。キリスト教系の学校は、明治時代以降に来日した宣教師や日本人の信者が、自らの信仰に基づく社会への貢献・奉仕として創立した例が多く、そのため現在でもその創立理念を大切にし、その度合いはさまざまですが、宗教をベースにした教育を行っています。仏教系の学校、神道やその他の諸宗教に基づく学校も同様です。
信者じゃなくても大丈夫? 入学したら入信しなければならないの?
中学受験に臨む保護者の中には「ある学校の教育内容が気に入って、偏差値的にもちょうどいいので子供を入学させたいけれど、その学校は宗教校で、自分たちは信者ではないし……」と思う方がいるかもしれません。
お正月には神社に初詣にいきつつ、お盆にはお寺で墓参りをし、クリスマスも祝う……という日本人がほとんどでしょうから、不安を覚えるのも無理はありません。
しかし、宗教校でも、そこに通っている生徒の家庭がその信者ではないことのほうが多いのです。ですから、信者でないことを理由に、志望校から外す必要はありません。また、中学受験はほとんどが試験の点数で合否が決まるので、同じ宗教だから有利などということもありません。
宗教校では「宗教」を大きな柱、心の拠りどころとして教育を行っていますが、その学校に入学することとその宗教に入信することは別のことです。宗教校に入ったからといって、その宗教に入信したことにはなりません。また、学校から強制的に入信させられることもありません。
キリスト教系の学校ってどんなところ?
日本では、宗教系の中学校で一番多いのはキリスト教系の学校でしょう。キリスト教系の学校は、母体となる宗派の違いによって「プロテスタント系」「カトリック系」「聖公会系」の学校があります。
なお、キリスト教系とされる学校の中には、純粋な宗教校として創立されたわけではないけれど、創立者などがキリスト教の教義や主義に賛同してキリスト教の教えを取り入れた学校というものもあります。
教育の特徴(毎朝の礼拝、聖書の時間など)
キリスト教系の学校では、毎朝の朝礼(お祈り)などのほか「宗教の時間」という授業を設けている学校もあります(「倫理」の授業で聖書を扱う学校もあります)。また、礼拝堂などの施設を併設し、立派なパイプオルガンを設置している学校もあります。
キリスト教精神のあらわれとして「他者への奉仕」があるためか、ボランティア活動などにも積極的です。また、外国人宣教師や国際的なネットワークを持つ教派がその設立に関わったケースが多いこともあり、伝統的に外国語(英語)教育に力を入れている学校が多くあります。
プロテスタントとカトリックの比較
プロテスタント系の女子聖学院中学校・高等学校と、カトリック系の光塩女子学院。例として、この2校の設立母体と建学の精神を見てましょう。
女子聖学院中学校・高等学校(設立は1905年)
設立母体 | プロテスタント(ディサイプルス派/アメリカ) ※初代校長はアメリカの女性宣教師 |
建学の精神 | 神を仰ぎ 人に仕う |
光塩女子学院(設立は1931年)
設立母体 | カトリック(メルセス宣教修道女会/スペイン) |
建学の精神 | あなたがたは世の光、地の塩 神さまはここに学ぶ生徒たちをその手に受けとめご自分のひとみのように大切に育ててくださるのです これが、学び舎“光塩”の姿です |
女子聖学院は「元気」「積極的」、光塩女子学院は「真面目でコツコツ」といったイメージを持たれることが多いようです。もちろん、これはあくまでも全体のイメージで、実際は生徒一人ひとりの個性は異なります。
特定の宗派を母体とせず、キリスト教を取り入れた学校もある
特定の宗派を母体としていないにもかかわらず、創立者がキリスト教に触発されて教育のベースにキリスト教を取り入れた学校の例を挙げると、鷗友学園女子中学高等学校があります。
同校は創立以来、キリスト教の精神をもとに「慈愛と誠実と創造」を校訓としてきました。中学生のうちは週1時間「聖書の時間」があります。またクリスマスには外部の講師を招いて、講話を聞く機会もあります。
仏教系の学校ってどんなところ?
宗教系の学校として、キリスト教系の学校に次いで多いのが、仏教に基づく学校になります。
仏教校の教育の特徴
例えば、鎌倉の建長寺の隣にある鎌倉学園(男子校)は、建長寺の創立までさかのぼれば建長5年(1253年)、学校の前身となる「宗学林」の創設を起源としても明治18年(1885年)からという歴史があります。
校訓は「礼義廉恥」。公式ホームページによれば、この校訓のもと、「自主自律」の禅の精神を現代に受け継ぎ「知・徳・体」のバランスの取れた人間形成をめざすとあります。
授業でも行事でも仏教色はほとんどありませんが、高1の家庭科「けんちん汁実習」は建長寺との関わりが知れるユニークな授業です(けんちん汁は建長寺が由来といわれています)。
また天和2年(1682年)に東京・上野の寛永寺境内に創立された寺小屋を起源とする駒込学園 駒込中学・高等学校は、寛永寺の属する天台宗の開祖である最澄が1200年前に書き残した「一隅を照らす」という言葉を理念として掲げています。
給食の時間には「いただきます」と必ず言い、命に感謝の気持ちを唱えます。また、2泊3日で天台宗の総本山である比叡山に赴き、座禅や写経などの修行を経験するというプログラムもあるそうです。
一般的に、仏教校はキリスト教系の学校に比べれば、それほど宗教色は濃くはないようです。また、学校の校風を反映してか、仏教校の生徒には穏やかなタイプの子が多いようです。
おわりに
宗教校は理念がはっきりしている分、「育てたい生徒像」がわかりやすいのかもしれません。また、日本の公教育では宗教については一般的な知識しか教えられないため、宗教に触れる機会があるというのは私学ならではの特色といえます。
卒業生からは、「毎朝の礼拝で心を落ち着かせて授業に臨むことができた」とか「卒業しても、悩んだりした時は聖書の言葉を思い出します」という言葉を聞くこともあります。しかし、だからと言って彼らが卒業後に信者になったというわけではないようです。信者にならなくても、悩んだり、道に迷った時にかつて触れた宗教を心の拠りどころにできる……宗教校にはそういったメリットがあるのです。
※記事の内容は執筆時点のものです
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