東京女学館中学校のミリョク ―― 私学を覗く
渋谷区広尾に位置する、東京女学館中学・高校。敷地内には附属小学校も備えた、中高一貫の女子校である。創立131年という歴史と伝統溢れる東京女学館を訪れ、その魅力に迫った。
歴史と伝統が醸し出す、東京女学館の風格
重厚にして瀟洒、格調高く奥ゆかしい。一言で表すと、東京女学館とはそういう学校だ。創立は1888年(明治21年)。創立委員長である伊藤博文を筆頭に、設立に携わったメンバーには、渋沢栄一、岩崎弥之助、穂積陳重など、日本史上の著名人らがずらりと並ぶ。
校門を通るとすぐ目の前にそびえ立つのは、石造りの校舎。素材とあいまって抜群の存在感だが、それでいて古めかしさは一切感じさせない。中に入ると、洗練されたデザインと調度品に心惹かれる。「オシャレな」という形容では足りない。なんというか、実にエレガントだ。
長きに渡り、数多くの生徒たちを見守り続けてきた石造りの門柱と校舎。これだけしっかりした造りの校舎も珍しい。
校舎から校門へと続く階段。まるでお城の一部であるかのようなデザインで、学校であることを一瞬忘れてしまうくらいだ。
階段を降りると右手には東京女学館の伝統、高校3年生が体育大会で踊るカドリールを描いたタイルが見えてくる。その少し先にはカフェテリアがある。
多くの生徒たちがランチタイムを過ごすカフェテリア。ヘルシーランチや特選丼、定食や麺類、アラカルトなど、豊富なメニューが用意されている。
カフェテリアの向かいにあるテラスからは校庭を一望できる。噴水のある泉が特徴的。
校庭を左手に見下ろしながら歩いていくと、都内では珍しいピオトープが。さらに歩みを進めると夏みかんの木が立っている。
校舎内の階段は落ち着いた雰囲気の空間。穏やかな色使いの壁面には、生徒が描いた油絵が飾られていて、目を楽しませてくれる。
教室を覗くと目を見張るのが、生徒たちの姿勢の良さである。頬杖をついたり机に突っ伏したりといった、他の学校では散見される姿が東京女学館では見られない。背筋が伸びて真剣に授業を受けている。その姿には「凛とした」という形容が似つかわしい。そうかと思えば、休み時間は友達同士で元気一杯な姿は、やはり中高生。メリハリをつけられている何よりの証であろう。
学力と人格の双方を育むきめ細やかな指導が、東京女学館流
指導面において実に興味深いのが、「訂正ノート」だ。これは問題を解いた際に、間違えた箇所を訂正し、生徒が自らミスの原因や注意すべきこと、ポイントなどを書くというもの。生徒が家庭学習で作成すると、教員たちは全員分のノートをきめ細やかに見て、コメントをつける。
ICTツールを使えば、伝達事項も宿題提出も小テストもオンラインで即時に済み、教員たちも一元把握し易い。事実、そうした学校が増えており、それをアピールポイントにしている学校も少なくない。
ところが東京女学館はそうはせず、生徒ひとりひとりに対して、教員が手書きのメッセージを通じて、コミュニケーションをとることを重視している。そうしたやり取りから、生徒たちの学習意欲を高めるだけでなく、悩みや不安を汲み取り、寄り添うことができるという。
中学2年生の英語の訂正ノート。生徒が書いた内容に、更に先生が加筆をしている。
中学2年生の英語の訂正ノート。間違え問題の正解を2回ずつ書いて覚え直すとともに、ポイントとなる重要表現をまとめている。
中学1年生の数学の訂正ノート。間違えた原因を自己分析して記入することで、次のミス防止につながる。
附属小学校から上がる生徒が各クラスに約1/3ずついて、中学校から入学してくる新入生たちが馴染みやすい環境をつくるべく、積極的に取り組むという。
たしかに中学生・高校生の女子の悩みの多くは人間関係。筆者もこれまでに多くの中高生を見てきて、思い当たることは多々ある。そんな話を投げかけると、「そうなんです。だから、われわれ教員はエネルギーの大部分を生徒たちの人間関係の悩みの解消に充てています」とは、広報部長の鈴木先生のコメントだ。
もちろん授業や課外活動の指導にもかなりの力を入れていることは明らかで、進学実績からも証明されているが、こうしたコメントからは、「高い品性を備え、人と社会に貢献する女性の育成」という教育理念・目標に向けて、学力はもちろん、人格を育むことを大切にしていることがひしひしと伝わってくる。
さまざまな行事で用いられる記念講堂。コンサートホール並みの音響設備や照明機材が備え付けられている。
当たり前のレベルが高い。それが東京女学館
多くの中学校・高校が掲げる「グローバルリーダー育成」「ICT活用」「アクティブ・ラーニング」「英語4技能」といったトレンドワードは、今や流行りを通り過ぎて中学・高校教育のスタンダードになりつつある。「これが令和の教育だ」と言われれば、確かにその通りではある。
だが、そこに留まってしまうのもどこか違うように思う。「学校の多様性」という観点からは、「スタンダード化された私立校」というのは、もったいないと感じてしまうのだ。
実は東京女学館では、国際学級の設立や校内模擬国連の開催などを通じて、上記のようなトレンドワードが世に広まる前から、それらの教育手法の意図するところを高いレベルで実践してきている。他方で茶道や華道の体験を通じて、日本文化の理解や作法・礼節の習得も進めてきた。
つまり、伝統を大切にしながらも時代を先取りしてきたわけであるが、東京女学館はそのことを余り表に出していない。思うに東京女学館にとってはいずれも「当たり前」の取り組みなので、ことさらアピールする程でものないと考えているのではあるまいか。それはひとえに「当たり前のレベルが高い」ということに尽きる。
「うちはアピールが上手ではないので」と苦笑いに語る鈴木先生の表情は、謙遜を超えた奥ゆかしさを感じさせるものであった。明治、大正、昭和、平成、そして令和。5つの時代を歩んできた東京女学館。131年の歴史と伝統が織りなす格調の高さは、他の学校にはない唯一無二の輝きを放っている。
新旧の制服が並ぶ(左は明治の頃、右は現在のもの)。時代は変われど、守るべき伝統を維持・継承しながら時代の先を見つめてきた東京女学館。これからも、「高い品性を備え、人と社会に貢献する女性の育成」のための教育を実践し続けていくことであろう。
学校Web:東京女学館 中学校・高等学校
※記事の内容は執筆時点のものです
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