学習 連載 中学受験は親と子の協同作業

首都圏中学受験 2019年度算数入試で求められた力とは|中学受験は親と子の協同作業! 正しい理解がはじめの一歩 Vol.29

専門家・プロ
2019年3月14日 石渡真由美

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2019年度の中学入試が終わり、2月末から新学年の学習カリキュラムがスタートしました。2020年の大学入試改革の影響を受け、中学受験においても変化が予測されていましたが、2019年度の入試はどんな問題が出題されたのでしょうか? 主要科目の算数入試で検証していきます。

【算数】基本問題中心の高得点勝負。“捨て問”は減少傾向に

今年の首都圏の算数入試は、例年よりも易しい問題を出す学校が多く見られました。これまであまり見られなかった基本問題が出され、塾などで「捨て問」(難しすぎて太刀打ちできない問題)と言われるレベルの難問がかなり減りました。

しかし、易しくなったといっても、塾の確認テストのような覚えた手法を機械的に当てはめれば解けるような問題が出たわけではありません。「問題の状況をきちんと読み取り、それに基づいて図を書く」「条件を整理する」「類似の設定を想起して起用してみる」といった、算数の問題を考える上で本来当たり前のことを、当たり前にできれば解けたというレベルの問題です。正しい学習や思考する姿勢が評価されやすい問題だったと思います。

欲しいのは高度な思考力ではなく、じっくり丁寧に考える姿勢

近年、中学受験では算数の問題が難化傾向にありました。算数入試の難化というのは、高度な「思考力」や「解くテクニック」を求める問題が多くなります。しかし、入試が選抜試験であるという観点からすると、難しすぎる問題は一部の受験を除き、手がつけられず、合否ライン付近での弁別性が低くなってしまい、結果として算数ができない受験生が合格してしまう可能性があります。

また、問題の難化がもたらした弊害もありました。大学入試改革で注目されるようになった「思考力」ですが、もともと難関校では、それ以前から思考力を求める問題を出題していました。中学受験では、難関校でその年の入試に新しい傾向の思考力型の問題が出ると、翌年には塾のテキストに掲載され、解くテクニックが伝授されます。すると、学校はその翌年にもっと難しい問題を出題し…といった“いたちごっこ”が続いてしまいます。その結果、年々塾のテキストは分厚くなり、学習量ばかりが増え、1問1問をじっくり考えず、よくわからないまま暗記に頼る子どもが増えてしまったのです。

その弊害は、入学後の生徒達に表れています。近頃、難関校に入学してくる生徒は、大人が指示したことはきちんとやるけれど、自分で考え、行動するのが苦手な子が多いと言われています。そんな危機感を抱いた学校が、無理やり身につけた高度な「解くテクニック」よりも、入学後に必要な基礎学力と勉強する姿勢を重視した本来の入試に戻したいと思ったのが、今年度の算数入試の易化につながったのではないかと考えています。

迷走する首都圏中学受験 来年度も易化傾向は続くのか?

では、この傾向が今後も続くのかというと、そこは判断の難しいところです。というのは、2019年度入試は全体的には易化傾向でしたが、一部の学校では従来通り、高い思考力を求める問題が出題されたからです。

例えば開成や桜蔭などでは問題が長文化し、状況把握や整理が高いレベルで試されました。また、麻布や栄光学園などは最終問題単独では難しくても、設問で丁寧に誘導することで、出題者の意図をくみ取りながら考えられれば解けるよう工夫がなされていました。単に知識を吐き出すのではなく、適切な状況分析の下で持っている知識を活用して考えさせる方向性は大学入試改革に近いといえます。

しかし、いずれにせよ問題と解法の1対1対応の暗記ではなく、どんなレベルであれ、きちんと思考することができる受験生を求めているのは確かです。そのためにはまず一つひとつの解法について、「どういう場合に使えるものか」「なぜその方法で解くことができるのか」といった点をきちんと理解しながら進めることが必要になります。塾の確認テストだけであれば、数字替えに近い問題が多いため暗記で乗り切ることも可能です。しかし、それでは活用できる解法にはなりません。また、一方的に解き方を教わるだけでは思考力にはつながりません。自ら手を動かす作業を通じながら、じっくりと考える時間をとることも大切です。


これまでの記事はこちら『中学受験は親と子の協同作業! 正しい理解がはじめの一歩

※記事の内容は執筆時点のものです

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