連載 今一度立ち止まって中学受験を考える

子どもの足を引っ張る、親の思い込み|今一度立ち止まって中学受験を考える

専門家・プロ
2019年3月21日 石渡真由美

中学受験は親のサポートが不可欠です。ところが、親御さんの間違った思い込みで、子どもの足を引っ張ってしまうケースが少なくありません。親にありがちな思い込みについて、今一度考えてみたいと思います。

「理科・社会なら直前期の暗記でなんとかなる」という思い込み

中学受験の勉強は難度が高く、カリキュラムが整った専門塾に通うのが一般的です。しかし、塾では解法は教えてくれるものの、子ども一人ひとりに対して知識が定着したかどうか、といった細かなチェックまではしてくれません。そのため宿題やテスト対策などは家庭で進めていくことになります。

中学受験の家庭学習というと、「自身も中学受験経験あり」という親のほうが、子どもの受験に有利かに思えます。しかし、経験者の親御さんは、自分の中学受験経験を基準に比較・判断をしてしまうことが珍しくありません。なかには、「理科・社会なら、直前期の暗記でなんとかなる」という思い込みをしている親御さんがいらっしゃいます。

たしかに、30年くらい前の中学受験だと、理科や社会の勉強は直前期の暗記でなんとかなった面があります。しかし、最近の入試は、理科・社会も単純な暗記で対応できる問題が減少傾向にあります。塾のテキストにも載っていない、新しいタイプの問題が出題されることもしばしばです。

こうした入試の変化に対応するために、年々塾のテキストは分厚くなっています。30年前より、子どもたちが覚えたり、考えなければならないことが増えているのです。「理科・社会は直前期に暗記をしておけばなんとかなる」という考えでは、もはや太刀打ちできなくなっています。

「学校のレベルは昔と変わっていない」という思い込み

学習量や難度だけでなく、学校の状況も大きく変わっています。

例えば、洗足学園という学校があります。昔は偏差値40レベルの学校でしたが、今は偏差値60を超える女子難関校です。人気の共学校、広尾学園もかつては偏差値40レベルの順心女子学園という女子校でした。渋谷教育学園渋谷もかつては渋谷女子という女子校でしたが、今では共学の進学校として多くの志願者が集まる学校のひとつです。

昔の中学受験情報のまま情報を更新できていない親御さんは、こうした学校の変化を知らず、「この程度の学校で手こずっているの?」といってしまうことが少なくありません。

親世代がかつて経験したことや耳にした情報は、今ではあてにならないことが多々あります。かつての学校と今の学校では、偏差値も教育内容も大きく変わっていることを、理解してほしいと思います。

「出したお金の分だけ効果が出る」という思い込み

当然のことながら中学受験にはお金がかかります。中学受験に挑む家庭は、一定の世帯年収がある家庭がほとんどで、ビジネスで活躍している親御さんも多くいます。そういった親御さん、特に父親で多いのが「出した金額分の効果が出るのは当たり前」という考えです。

たとえば、「こんなにお金をかけているのに、成績が上がらないのはどういうことだ?」と子どもを責めたり、塾や家庭教師に対して「こちらはお金を出しているのだから」という傲慢な態度を見せたりすることがあります。これは大変危険な徴候で、私の経験上、こうした言動が見られる家庭の中学受験は、大抵の場合うまくいきません。

なぜなら、こういった親御さんの場合、講師が「○○をやっておいてください」「○○を改善したほうがいいですよ」といったアドバイスを聞き入れてくれない傾向があるからです。また、親が塾や講師をバカにするような態度を見せると、それが子どもに伝わり、子どもも同じような振る舞いをして、成績が上がりにくい状況を自らつくってしまうことがあります。

「努力をすれば必ず結果が出る」という思い込み

親御さんのなかには、大学受験で努力をしていい大学に入ったという方もいます。そういう人は、自身の大学受験を基準に「頑張れば必ず結果が出る」と、子どもにプレッシャーを与えてしまうことがあります。

もちろん、その考えを全否定はしませんが、私たちは中学受験生が小学生であり、まだ発達の途中の子どもであるということを忘れてはなりません。大学受験に挑む18歳、19歳の青年男女なら、本人の努力で合格を勝ち取ることもできますが、11歳、12歳の子どもには難しいこともあるということを、知って欲しいと思います。

「中学受験はたくさん受けなくてもよい」という思い込み

首都圏の中学受験の場合、1月(千葉・埼玉校)と2月(東京・神奈川校)が入試の時期です。最近は午前に加え、午後入試も実施されるため、1月から2月の間で5〜7校は受験するのが一般的です。

しかし、「結局行く学校は1校なのだから、そんなにたくさんの学校を受験しなくてもよい」とおっしゃる親御さんがいます。また、1月入試を単なる練習と捉え、「受ける必要はない」と考える方もいます。

そうした親御さんは、受験というと高校受験や大学受験のイメージをもっていて、小学生の子どもが何校も受けることに抵抗があるのでしょう。しかし、今の中学受験はどの学校も難度が上がっていて、甘くはないのが実情です。なかには、“全落ち”というケースも少なからずあります。

「ダメなら公立中に行けばいい」という方も多いのですが、“全落ち”というのは、受験生本人にも精神的にこたえるものです。中学受験の勉強は、子どもの小学校生活で多くの時間を費やします。時間をかけて、受験勉強に取り組んできたのに、「たくさん受けなくてよい、ダメならしかたがない」と安易に言い放ってしまうのは注意が必要です。

1月入試や、午後入試で合格が取れたことで、本命校の入試を気持ち的に楽にうけられ、本命校の合格につながったという例も多々あるのです。

このように中学受験は親の間違った思い込みや行動で、子どもの足を引っ張ってしまうケースがあります。大事なのは、過去の経験や情報ではなく、今の中学受験を知ることです。親御さんの過去と、お子さんの現在を比較するのではなく、ありのままのお子さんをしっかり見つめて、わが子のベストを考えてあげてほしいと思います。


これまでの記事はこちら『今一度立ち止まって中学受験を考える

※記事の内容は執筆時点のものです

宮本毅
宮本毅 専門家・プロ

1969年東京生まれ。武蔵中学・高等学校、一橋大学社会学部社会問題政策過程卒業。大学卒業後、テレビ番組制作会社を経て、首都圏の大手進学塾に転職。小学部および中学部で最上位クラスを担当し、多数のトップ中学・高校に卒業生を送り込む。2006年に独立し、東京・吉祥寺に中学受験専門の「アテナ進学ゼミ」を設立。科目間にある垣根は取り払うべきという信念のもと、たった一人で算数・国語・理科・社会の全科目を指導している。また「すべての子どもたちに自発学習を!」をテーマに、月一回の公開講座を開催し、過去3年間でのべ2000名近くを動員する。若い頃からの変わらぬ熱血指導で、生徒たちの「知的好奇心」を引き出す授業が持ち味。

■著書

『はじめての中学受験 これだけは知っておきたい12の常識』(ディスカヴァー・トゥエンティーワン)
『中学受験 同音異義語・対義語・類義語300』(中経出版)
『文章題最強解法メソッド まるいち算』(ディスカヴァー・トゥエンティーワン)
『中学受験 ゴロ合わせで覚える理科85』(KADOKAWA出版)
『中学受験 ゴロ合わせで覚える社会140』(KADOKAWA出版)
『ケアレスミスをなくせば中学受験の9割は成功する』(KADOKAWA出版)
『合格する子がやっている 忘れない暗記術』(かんき出版)

この記事の著者

フリーライター。子供の誕生をきっかけに、わが子の成長に合わせ、ベビー雑誌、育児・教育雑誌、塾専門誌で取材執筆。6年前に子供の中学受験を経験したものの、国立大学の附属中学で併設高校が無かったため、その3年後に“高校受験生の母”、またその3年後に“大学受験生の母”も体験。中・高・大の3つの受験を知る受験ライター。