連載 今一度立ち止まって中学受験を考える

中学受験 難関校を目指すなら低学年から塾に通ったほうがいい?|今一度立ち止まって中学受験を考える

専門家・プロ
2019年6月06日 石渡真由美

一般的に中学受験の勉強がスタートするのは、大手進学塾の受験カリキュラムが始まる小学3年生の2月からです。ところが近頃は、勉強も習い事も、なんでも早いうちからやったほうが有利という世の風潮があり、低学年から塾通いをさせる家庭が増えています。

しかし私は、いき過ぎた早期教育には反対です。それは早期教育が子どもの自信を奪ってしまう危険があるからです。

早期教育の弊害は、成績の優劣で子どもの自己肯定感を下げてしまうこと

「中学受験のカリキュラムがスタートする前に席を確保しておかないと、上位クラスでの入塾が難しくなくなる」

こういった噂を耳にして、大手進学塾への入塾を急ぐ家庭が増えています。特に中学受験が盛んな都市部の人気校舎では、その傾向を顕著に感じます。

早くから子どもを塾に通わせる家庭は、「少しでも早く勉強をさせて、できるだけ有利に進めたい」という考えがあるのでしょう。

とはいえ、大手進学塾の低学年コースは、受験勉強をするわけではありません。塾側も子どもの成長段階に応じた学習指導が望ましいことをわかっているので、極端な先取り学習をすることはありません。

むしろ、塾側としては「少子化で低学年のうちから子どもを確保しておきたい」という考えから、これらのコースを設定しています。しかし、他方で「塾は、お金を払って勉強を教えてもらうところ」という親側の考えがあります。塾に入れているのだから、子どもの成績が伸びないのはおかしい。そのため、塾側は結局成績重視のシステムをつくりあげていくことになるのです。

低学年から塾通いをすることの弊害は、子どもがまだ小さいうちから成績で優劣を判断されてしまう点にあります。成績不振で親が落胆する姿を子どもが見ると、「私は勉強ができない子、ダメな子なんだ……」と思い込み、自己肯定感を下げてしまいます。その結果、チャレンジする気持ちを失っていってしまうのかもしれません 。

子どもの成長の早さは千差万別

私自身も中学受験を経験していますが、当時の成績はさんたんたるものでした。私が中学受験の勉強をしていた40年ほど前のことです。当時も、受験塾で成績順位を出していました。

成績不振の私が救われたのは、母親の言葉です。私の母親は、私がどんな成績をとってきても順位など気にせず、「あなたは大器晩成型だからね」といい続けてくれました。この母の言葉があったから、私は勉強が嫌いにならなかったし、劣等感を持つこともありませんでした。

「そうか、僕はこれから伸びていくんだな」と素直に思え、頑張れたのです。その結果、その後成績を上げ、志望校にも合格することができました。しかし、もしあの時、母親ががっかりした顔を見せていたら、私は頑張ろうという気持ちになれなかったのではないかと思います。

子どもは親の表情や言葉に敏感です。親御さんが成績のことばかりアレコレいうと、「勉強は楽しくないもの」になります。

小学生の子どもの成長は個人差が大きく、それが理由で成績につながらないことがあります。特に10歳〜12歳は成長の個人差が大きく出やすい時期で、中学受験の勉強についていけない子もいます。

小学5年生のクラスの子ども達を背の順に並べてみたとしましょう。その子達が高校1年生になった時、同じ背の順でしょうか? そんなことはありませんよね。5年生のときに小さかった男の子が、高校生になってグンと背が伸びることもあります。逆に5年生のときはクラスで一番背が高かった子が、そのまま止まってしまうこともあります。このように子どもの成長時期は違うものなのです。

学力にも近いことがいえます。子どもの成長によって伸び方が違うのです。ですから、低学年のときから成績で優劣をつけ、「勉強ができない」と思い込ませてはいけないのです。

低学年は勉強の素地をつくる時期。読み・書き・計算そして、さまざまな体験を

では、中学受験をしたいと考えている場合、低学年のうちは遊び呆けていてもいいのでしょうか? 極論をいえば、遊んでいてもいいと思います。でも、低学年は勉強の素地をつくる絶好の時期でもあります。

ですから、読み・書き・計算といった学習の基礎となるものは、コツコツと取り組むようにしましょう。また、自由な時間がたくさんある低学年のうちに、本に親しんだり、自然に触れたり、博物館に行ったりするなど、学習の素地となる知識や体験を増やしていけるとよいです。

こうした体験を積んでいると、受験勉強が始まったときに、塾の授業でふと出た言葉に「あ! あのときのあのことをいっている」と、リンクすることがあります。自分が持っている経験・知識と、新しい知識がつながると、「勉強って楽しいんだ」と思えるようになります。

低学年に必要なのは、「勉強って楽しい」と思えるようにするための、素地をつくることです。早くから塾に通い、親子で成績の優劣を気にしてしまうくらいなら、お子さんにたくさんの体験をさせてあげたほうがよいでしょう。

そして、親御さんは子どもたちに前向きな言葉をかけてあげてほしいと思います。それが、子どもの自信を育むことにつながりますし、難しい問題を前にしたとき、「僕ならできるはずだ。よし、解いてみるぞ!」と挑戦する気持ちを育むものなのです。


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※記事の内容は執筆時点のものです

宮本毅
宮本毅 専門家・プロ

1969年東京生まれ。武蔵中学・高等学校、一橋大学社会学部社会問題政策過程卒業。大学卒業後、テレビ番組制作会社を経て、首都圏の大手進学塾に転職。小学部および中学部で最上位クラスを担当し、多数のトップ中学・高校に卒業生を送り込む。2006年に独立し、東京・吉祥寺に中学受験専門の「アテナ進学ゼミ」を設立。科目間にある垣根は取り払うべきという信念のもと、たった一人で算数・国語・理科・社会の全科目を指導している。また「すべての子どもたちに自発学習を!」をテーマに、月一回の公開講座を開催し、過去3年間でのべ2000名近くを動員する。若い頃からの変わらぬ熱血指導で、生徒たちの「知的好奇心」を引き出す授業が持ち味。

■著書

『はじめての中学受験 これだけは知っておきたい12の常識』(ディスカヴァー・トゥエンティーワン)
『中学受験 同音異義語・対義語・類義語300』(中経出版)
『文章題最強解法メソッド まるいち算』(ディスカヴァー・トゥエンティーワン)
『中学受験 ゴロ合わせで覚える理科85』(KADOKAWA出版)
『中学受験 ゴロ合わせで覚える社会140』(KADOKAWA出版)
『ケアレスミスをなくせば中学受験の9割は成功する』(KADOKAWA出版)
『合格する子がやっている 忘れない暗記術』(かんき出版)

この記事の著者

フリーライター。子供の誕生をきっかけに、わが子の成長に合わせ、ベビー雑誌、育児・教育雑誌、塾専門誌で取材執筆。6年前に子供の中学受験を経験したものの、国立大学の附属中学で併設高校が無かったため、その3年後に“高校受験生の母”、またその3年後に“大学受験生の母”も体験。中・高・大の3つの受験を知る受験ライター。