連載 今一度立ち止まって中学受験を考える

今一度考えたい 大学附属校は本当にいいの?|今一度立ち止まって中学受験を考える

専門家・プロ
2020年6月11日 石渡真由美

2020年度から大学入試が変わります。その中身はいまだ不透明な点が多く、今後も変更があると思われます。こうした事態を受け、思考力重視の大学受験を回避するために、中学から大学附属校に入れようと、附属校人気が高まっています。しかし、その選択で本当によいのでしょうか?

大学入試を回避するために大学附属校が人気急上昇

近年、中学受験では大学附属校が人気です。もともと早慶やGMARCHなどの難関大学の附属校は人気がありましたが、近ごろはそれに次ぐ中堅附属校や、附属校ではないけれど、優先的に進学できる系列校を受ける受験生が増加しています。

その背景にあるのが、新しい大学入試に対する不安です。記述式が導入され、思考力重視となる大学入試を避けようとする傾向があるようです。しかし、私は安易な大学附属校の選択には反対です。附属校に入れたがる親御さんは、表向きは「わが子には、10代を伸び伸び過ごさせたい」とおっしゃいますが、本当のところは「わが子には、受験で苦労をさせたくない」「うちの子は思考力重視の受験には向かないから」と考えていることが多いからです。

現時点では「うちの子は幼くて……」と、お子さんのことが心配かもしれませんが、子どもはこれから大きく成長していきます。たった11、12歳の段階で、お子さんの能力を決めつけてしまうのはちょっと勿体ない気がします。

子どもはどのタイミングで伸びるかわからない

中学受験で志望校を選ぶ際、多くの親御さんは「この子に合った志望校はどこか?」と、現時点の学力で決めてしまいがちです。「この子は毎週の復習テストはできるけれど、公開模試になると点数が悪い。本番に弱いタイプだから、受験には向かないのかもしれない。だったら、大学附属校に入れた方がこの子にとっては幸せかも」と、わが子のためを思って、大学附属校を選びます。でも、私には子どもの能力を低く見積もっているように思えてなりません。

子どもはどのタイミングで伸びるかわかりません。小学生と高校生では、勉強に向かう気持ちも体力も大きく異なります。今は本番に弱いかもしれないけれど、これから中学に入り、部活動の試合や大会などさまざまな場で“本番”を経験することで、本番に強くなることもあります。

また、今は親御さんが声をかけなければ、勉強ができない状態かもしれませんが、成長に伴い学習を“自分事”に思えるようになると、自ら勉強をするようになります。ですから小学6年生の今の段階で、子どもの可能性を狭めないでいただきたいのです。それよりも、「6年後、この子がどうなって欲しいか」という視点で学校選びをしてください。

誤解をしないでいただきたいのは、私は大学附属校がダメだと言っているのではありません。恵まれた学習環境、大学との連携など魅力はたくさんあります。ただ、「この子は自分から勉強しないから」とか「この子は大学受験に向かないから」といった理由で、親が大学附属校をすすめてしまうと、入学後、子どもも「どうせ大学までエスカレーターだし、勉強なんて頑張らなくていいや」と、手を抜いてしまうようになります。

ひとくちに大学附属校といっても、生徒全員が附属大学へ進学する学校もあれば、生徒の半数以上が外部の大学へ進学する学校もあります。生徒全員が附属大学へ進学できても、成績順に進学する学部が決まるため、在校中に勉強を怠けていると、大学附属校なのに行きたい学部に進学できないこともあります。たとえば、早稲田大学には医学部がありません。附属校に進学したあと、人生における大きな出会いがあって「医学部に進みたい」と思う瞬間が来るかもしれないのです。

小学生の段階で、自分は何学部に行きたいか決めている子は少ないと思います。本来、それをじっくり考えるのが中高の6年間です。親がよかれと思って勧める「安易な大学附属進学」は、子どもの将来の選択肢を狭めてしまうこともあることを知っておいて欲しいと思います。

大事なのは6年後、わが子にどうなって欲しいか

一方、「何が何でも慶應」「何が何でも早稲田」にこだわる親御さんもいます。以前、私が指導にあたったA子ちゃんは、両親が共に慶應大卒で、両親はA子ちゃんを慶應の附属校に入れたいと思っていました。また、A子ちゃん自身もお父さんとお母さんが通っていた大学に対して憧れを抱き、附属校への進学を目標にしていました。

しかし、A子ちゃんは算数が苦手で、慶應の附属校合格レベルに達するには難しい状態でした。そこで親御さんとも相談を重ね、最終的には親御さんも納得したうえで、A子ちゃんは中堅の女子校に進学しました。

A子ちゃんは中学受験で身についた学習習慣を崩さず、コツコツと勉強を続けました。すると、数学は相変わらず苦手だったけれど、国語と英語の成績は学年上位に。そして、大学受験では得意な文系科目だけで勝負し、慶應大学に合格しました。

このように、子どもは中高の6年間で大きく成長するのです。A子ちゃんは中学受験の時は、残念ながら慶應の附属校に合格できる学力はありませんでしたが、中高の6年間コツコツ努力をした結果、憧れの大学に自分の力で入ることができたのです。

中学受験は子どもがまだ幼いため、親が主導で受験校を決めることが多いでしょう。わが子を過小評価して“安全な道”を選ぶ親、わが子に期待してムリをさせる親がいますが、いずれにしても言えることは、「中学受験が人生のゴールではない」ということです。大事なのは中高を終えた6年後、またはその先の人生において、どんな人になって欲しいかです。受験校を選ぶ際は、わが子を過小評価し過ぎず、過大評価し過ぎず、「うちの子は、こんなふうに育って欲しい」という子育てのビジョンを持つことが大切なのです。


これまでの記事はこちら『今一度立ち止まって中学受験を考える

※記事の内容は執筆時点のものです

宮本毅
宮本毅 専門家・プロ

1969年東京生まれ。武蔵中学・高等学校、一橋大学社会学部社会問題政策過程卒業。大学卒業後、テレビ番組制作会社を経て、首都圏の大手進学塾に転職。小学部および中学部で最上位クラスを担当し、多数のトップ中学・高校に卒業生を送り込む。2006年に独立し、東京・吉祥寺に中学受験専門の「アテナ進学ゼミ」を設立。科目間にある垣根は取り払うべきという信念のもと、たった一人で算数・国語・理科・社会の全科目を指導している。また「すべての子どもたちに自発学習を!」をテーマに、月一回の公開講座を開催し、過去3年間でのべ2000名近くを動員する。若い頃からの変わらぬ熱血指導で、生徒たちの「知的好奇心」を引き出す授業が持ち味。

■著書

『はじめての中学受験 これだけは知っておきたい12の常識』(ディスカヴァー・トゥエンティーワン)
『中学受験 同音異義語・対義語・類義語300』(中経出版)
『文章題最強解法メソッド まるいち算』(ディスカヴァー・トゥエンティーワン)
『中学受験 ゴロ合わせで覚える理科85』(KADOKAWA出版)
『中学受験 ゴロ合わせで覚える社会140』(KADOKAWA出版)
『ケアレスミスをなくせば中学受験の9割は成功する』(KADOKAWA出版)
『合格する子がやっている 忘れない暗記術』(かんき出版)

この記事の著者

フリーライター。子供の誕生をきっかけに、わが子の成長に合わせ、ベビー雑誌、育児・教育雑誌、塾専門誌で取材執筆。6年前に子供の中学受験を経験したものの、国立大学の附属中学で併設高校が無かったため、その3年後に“高校受験生の母”、またその3年後に“大学受験生の母”も体験。中・高・大の3つの受験を知る受験ライター。

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