連載 今一度立ち止まって中学受験を考える

受験生でもお手伝いをさせよう! お手伝いで身につく力|今一度立ち止まって中学受験を考える

専門家・プロ
2020年11月10日 石渡真由美

中学受験の学習が始まると、通塾と家庭学習(塾の宿題)に追われて忙しくなります。だからといって、学習だけをさせておけばよいというわけではありません。たとえ忙しくとも、やはり家のお手伝いはさせておきたいところです。

おつかい(買い物)は世の中を知る絶好の機会

中学入試の理科・社会は単なる暗記科目で、重要な用語や人物名・年号などを覚えればよいと一般には思われがちです。しかし近年は、一問一答型の問題は減少傾向で、長文を読ませて答えさせる問題や記述問題、写真やグラフを読み取って考えさせる入試問題が増えています。もちろん、問題を解くには、基礎・入り口となる暗記型の学習も必要ですが、それと同じくらい重要なのが、知識同士のリンクです。つまりただ闇雲に丸暗記するのでなく、そのつながり・背景を知ることが大切なのです。

ところが、一般的に塾のカリキュラムはハイペースで進んでいきます。新しい単元の学習が始まって、宿題も次々とこなしていかねばなりません。そうすると、「学んでは忘れる」のくり返しになってしまい、なかなか定着していきません。たとえば「キャベツの生産地の全国ベスト3」を習っても、いろいろな勉強しているうちに、すっかり忘れてしまいます。そうなる理由はさまざまありますが、そのひとつに、覚えたことが自分の経験や生活とつながっていないことがあげられます。

そこで、おすすめしたいのがお手伝いです。特におつかい(買い物)は学んだことと経験をつなげる絶好の機会です。たとえば、スーパーマーケットにはいろいろな野菜が並んでいます。キャベツの生産地はどこが多いでしょうか? 時期によっても違ってきますね。

春キャベツは千葉県や神奈川県、夏キャベツは群馬県や長野県、冬キャベツは愛知県産が多い。それはキャベツが涼しい気候を好むからです。そうやって、実際に並んでいる野菜を手に取りながら、「なんで、今この野菜がたくさんあるんだろう?」「“今年は野菜が高い”ってお母さんが言っているけれど、どうしてなんだろう?」と疑問を持つことが大事なのです。野菜ひとつを例にしても、気候や地形、農業や流通などに興味が広がり、理科・社会を学ぶことができます。

今年は新型コロナウイルスの影響で外出を控え、インターネットで買い物をする人が増えたといわれています。確かにこうしたサービスは便利ですが、実際に手に取り、買い物をした方が、いろいろなことを感じられて、世の中を知ることもできるのではないでしょうか。

身近な野菜についてどれだけ知っている?

私達が毎日食べる野菜。実は中学入試でも理科の植物分野で、たびたび出題されます。たとえば「ブロッコリーのもこもこした部分は何か?」「私達が食べているたまねぎはどこの部分?」といったことを聞かれることもあります。改めて聞かれると、「えーっと、どこなのかしら?」と答えられない親御さんも多いでしょう。

ブロッコリーのもこもこした部分は花のつぼみです。花のつぼみがたくさん集まって、あんな形をしているのです。放っておくと黄色くて菜の花のような花が咲くこともありますね。菜の花に似ているのは、ブロッコリーがアブラナ科の植物だからです。また、私達が食べているたまねぎは、実はたまねぎの「葉」です。葉っぱのつけ根の部分が成長するにつれて厚みを増し、重なり合って球体のように太ってきます。その部分を私達は食べているのです。

こうした知識はぜひ親御さんにも知っていただきたいですね。親子で一緒に料理をするときに、「これってどの部分だと思う?」とクイズを出してあげると、楽しく学ぶことができます。実際に目で見る。手で触る。そうした経験を加えることで、記憶に残りやすくなるのです。

パンづくりで水溶液の性質を実感する

親子でパンづくりをするのもおすすめです。パンづくりに欠かせないベーキングパウダーは炭酸水素ナトリウム、つまり重曹です。重曹はアルカリ性の物質で、生地が黄色っぽい仕上がりになったり、食べたときに苦味を感じたりする性質があります。中学受験の理科入試では、水溶液の液性(酸性・中性・アルカリ性)の問題がよく出題されます。こうした目に見えない抽象的な問題は、小学生の子どもには難しく感じますが、私達の生活に使われていることを知ると、身近に感じることができます。「身近に感じられるか」が実はとても大事なのです。

中学受験は子どもの精神成長勝負 社会を知ることが重要

中学受験の勉強が始まると、子ども達の生活は急に忙しくなります。しかし、受験生だからといって、特別扱いをするのはおすすめしません。「自分は勉強だけをしていればいいんだ」と思い込み、歪んだ子どもにしてしまう恐れもあります。家族の一員として役割を与えて、人のために役立つ経験をさせることも忘れてはいけません。

私も子ども時代に中学受験を経験していますが、母は私にお風呂掃除の役割を与え、入試前日でもやらせました。どうすればお風呂がきれいになるか、どんな手順でやれば効率がよいか、自分なりに考えたものです。お手伝いをすることで、毎日ご飯を作ってくれる母の大変さを知り、親に対する感謝の気持ちも強くなりました。自分が受験できるのは、父が一生懸命働いて、塾代を払ってくれているから。気持ちよく勉強できるのは、母がいろいろなサポートしてくれるから。そう思うようになりました。もしああいった経験がなかったら、精神的に幼さが残っていたかもしれません。

中学受験は子どもの精神成長が大きな武器となります。精神的に幼い子どもは、自分から勉強を始めること自体のハードルが高いですし、やり遂げる力も未熟です。また、人の気持ちを感じることができないと、国語の読解問題でも苦労します。つまり、いかに大人びた子に導くかがポイントなのです。家のお手伝いはその訓練に適しているといえます。ぜひお子さんにお手伝いをしてもらいましょう!


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※記事の内容は執筆時点のものです

宮本毅
宮本毅 専門家・プロ

1969年東京生まれ。武蔵中学・高等学校、一橋大学社会学部社会問題政策過程卒業。大学卒業後、テレビ番組制作会社を経て、首都圏の大手進学塾に転職。小学部および中学部で最上位クラスを担当し、多数のトップ中学・高校に卒業生を送り込む。2006年に独立し、東京・吉祥寺に中学受験専門の「アテナ進学ゼミ」を設立。科目間にある垣根は取り払うべきという信念のもと、たった一人で算数・国語・理科・社会の全科目を指導している。また「すべての子どもたちに自発学習を!」をテーマに、月一回の公開講座を開催し、過去3年間でのべ2000名近くを動員する。若い頃からの変わらぬ熱血指導で、生徒たちの「知的好奇心」を引き出す授業が持ち味。

■著書

『はじめての中学受験 これだけは知っておきたい12の常識』(ディスカヴァー・トゥエンティーワン)
『中学受験 同音異義語・対義語・類義語300』(中経出版)
『文章題最強解法メソッド まるいち算』(ディスカヴァー・トゥエンティーワン)
『中学受験 ゴロ合わせで覚える理科85』(KADOKAWA出版)
『中学受験 ゴロ合わせで覚える社会140』(KADOKAWA出版)
『ケアレスミスをなくせば中学受験の9割は成功する』(KADOKAWA出版)
『合格する子がやっている 忘れない暗記術』(かんき出版)

この記事の著者

フリーライター。子供の誕生をきっかけに、わが子の成長に合わせ、ベビー雑誌、育児・教育雑誌、塾専門誌で取材執筆。6年前に子供の中学受験を経験したものの、国立大学の附属中学で併設高校が無かったため、その3年後に“高校受験生の母”、またその3年後に“大学受験生の母”も体験。中・高・大の3つの受験を知る受験ライター。