中学受験ノウハウ 連載 今一度立ち止まって中学受験を考える

子どもの勉強にも影響する? 中学受験で夫婦の対立を避けるには |今一度立ち止まって中学受験を考える

専門家・プロ
2022年6月23日 石渡真由美

子どものためを思って選択する中学受験。しかし、いざ勉強が始まると、「夫(妻)と考えが合わずに困る」、「私ばかりに負担がかかる」といったように、夫婦間の温度差に頭を悩ませている方の話を耳にします。子どものための中学受験で、夫婦関係がギクシャクしないためにできることは何でしょうか。

なぜ中学受験をさせたいのか?

近年、首都圏では中学受験熱が高まっています。クラスの友達が受験をすると知ると、「私も受験をしたい」と子どもから言い出したり、「うちの子も受験をさせたほうがいいかしら?」と親の気持ちが揺らいだりして、中学受験を始めるケースは少なくありません。しかし、「なんとなく」で中学受験を始めてしまうと、「こんなハズじゃなかった」と後悔することがあります。今回テーマとして扱う夫婦の対立も、そのひとつかもしれません。

私は中学受験をする、考えるのであれば、「わが子をどう育てていきたいか」について、ご夫婦でじっくり話し合ってほしいと思っています。たとえば、「海外研修や留学が充実している学校で、国際的な視点を身につけてほしい」とか、「内部進学が可能な大学附属の一貫校で、伸び伸びと過ごしてほしい」など、「わが子がこう育ってくれたらいいな」という想いがあって、そのうえで中学受験の選択をするべきだと思います。

なかには、「将来は医者になって欲しい。だから、医学部の進学実績に定評があって、より高偏差値の学校に行かせたい」という考えもあるかもしれません。私個人としては偏差値重視で学校を選ぶのは反対ですが、ご家庭の価値観がそうなら、それはそれでよいと思います。大事なのは「なぜ子供に中学受験をさせるか」、夫婦で教育的な価値観を揃えておくことです。そして、できればそれを書き出して、学期ごとに1回程度、夫婦で確認したり、微調整を加えたりすることをおすすめします。

夫婦関係が崩れるくらいなら、中学受験すべきではない

ところが多くのご家庭で、このような夫婦の話し合いが不十分なまま塾に入り、受験勉強をスタートさせ、ベースの価値観がグラグラしたまま、受験生の親として慌ただしい時間を過ごします。

親が子どもの受験のサポートを担うようになると、塾からの情報のほかにママ友、パパ友同士の会話やネットの情報に敏感になります。「情報集め」とばかりにSNSを始めたりすると、情報がたくさん目に入ります。そうした情報を見聞きするうちに、「あれも、これもやらせなきゃ」と、次第に焦りはじめ、子どもの受験に必要以上に熱が入っていきます。

とはいえ受験生は小学生ですから、なかなかやる気を出せないこともあります。子どもにイライラして、親子バトルが始まることもしばしばです。そんな様子を見て、たとえばお父さんが「本人にやる気がないんなら、べつに中学受験しなくていいんじゃないか?」と、まるで他人事のように言い放ってしまい、今度は夫婦喧嘩に発展する。場合によっては、中学受験がきっかけで、夫婦間に深刻な亀裂が入ることすらあります。これは悲劇です。

私は夫婦関係が崩れるくらいなら、中学受験などすべきではないと考えます。そもそも家庭内がそんな状態だと、子どもは安心できませんし、勉強に集中できません。ですから、わが子に中学受験をさせるのなら、「なぜ、させたいのか」を夫婦で方向性を合わせること、そして、子どもとも対話を重ねて、家族内で「納得解」を得た状態をつくることが肝心です。

中学受験は、塾に通い始めるとクラス分けや、偏差値といった「成績評価」が避けられません。すると、どうしても「成績を上げること」が親の目的になってしまいがちです。子どもの成績が伸びないと、親御さんもガミガミ言ってしまう。それが悪い方向に作用すると、子どもたちの自己肯定感が下がり、やる気も成績も上がらない。こうした状況に陥るリスクが、どの家庭にも少なからずあります。

だからこそ、そういう状況に陥ったときに備えた一時停止できる材料、ものさしが必要です。「そもそも、あの子が伸び伸びと過ごせる学校に入れたくて、中学受験をさせようと思ったんだよな。だったら偏差値にこだわるよりも、あの子の力で行ける学校を選んだ方がいいのかも……」などと、振り返ったり、見直したりできるようにしておくのです。

「家族会議」で互いの気持ちを共有し合う

中学受験は夫婦で教育的な価値観を揃えることが大事と言いましたが、もうひとつ大事なことがあります。「夫婦ふたり揃って受験に熱心になる必要はない」ということです。というか、夫婦ふたり揃って子どもの受験にのめり込むのは要注意です。

お父さん、お母さんのどちらかが中心になって子どもの受験をサポートしてあげ、もう片方は一歩引いて見守るスタンスを取ることをおすすめします。

それはなぜか。小学生は発達の途中段階にいます。成長には個人差があり、早くから受験勉強を自分事化して主体的に行動できる子もいれば、そうではなく、ゆっくり成長する子もいます。やる気にも、当然ムラがあります。子どもを励ましたり、ときには叱咤したりしながら中学受験をサポートする。小学生の受験をサポートするのは、やはり骨が折れます。親の理想と、お子さんの現状にギャップがありすぎると、声を荒げてしまいたくなることもあるでしょう。そんなときに、「まぁまぁ」と親子の間を取り持ってくれるクッションのような存在が、夫婦のどちらかに必要だ、というのが私の考えです。

これが、夫婦ふたりとも子どもの中学受験に熱を入れすぎるとどうなるか。もちろん、夫婦ともに価値観が一致していて、子供も両親の価値観に納得していて、受験勉強をノリノリでこなせる家庭であれば良いのですが、そうではない場合にリスクがあります。

両親ともに熱心で、子どもはそれに従うような構図だと、子どもは親の顔色を伺わざるを得ません。順当に成績が伸びていればそれでもよいかも知れませんが、そうではない場合、子どもを追い込みかねません。家庭内で居場所や逃げ道がない状態は、子どもにとってストレスフルですし、自己肯定感を下げることにもつながります。

ですから、どちらがサポート役となり、片方は少し引いて見守るスタンスをとる。ここも夫婦で話し合いながら、役割を分担するのが望ましいと思います。ただし、その役割にがんじがらめになって、サポート役の親御さんがストレスを抱えてしまうことも避けたいところです。

中学受験は家族のチーム力が試されますから、普段は仕事であまり家にいない親御さんであったとしても、夫婦で情報共有はしっかりしておいたほうがよいでしょう。そして、何かうまくいかないことがあったら、子どもも交えて「家族会議」をすることをおすすめします。

たとえば、「じゃあ、今週末は算数の成績を上げるための作戦会議をしよう」とか、「なかなか勉強を始められない点について、お母さんが悩んでいるみたい。話し合いをしよう」など、そのときどきの議題を家族で話し合います。このときも夫婦で結託して、子どもを一方的に責めないことです。

子どもなりに感じていることを聞き出したり、上手く言葉にできなければ、それを汲み取ったりしながら「じゃあ、どうしたらよさそうかな?」と、家族で話し合ってみましょう。大事なことは互いに我慢をして、ストレスを溜めないことです。そして、さまざまな問題で岐路に経った際は、夫婦で「なぜ中学受験をさせようと思ったのか」を、もう一度振り返ってみてほしいと思います。


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※記事の内容は執筆時点のものです

宮本毅
宮本毅 専門家・プロ

1969年東京生まれ。武蔵中学・高等学校、一橋大学社会学部社会問題政策過程卒業。大学卒業後、テレビ番組制作会社を経て、首都圏の大手進学塾に転職。小学部および中学部で最上位クラスを担当し、多数のトップ中学・高校に卒業生を送り込む。2006年に独立し、東京・吉祥寺に中学受験専門の「アテナ進学ゼミ」を設立。科目間にある垣根は取り払うべきという信念のもと、たった一人で算数・国語・理科・社会の全科目を指導している。また「すべての子どもたちに自発学習を!」をテーマに、月一回の公開講座を開催し、過去3年間でのべ2000名近くを動員する。若い頃からの変わらぬ熱血指導で、生徒たちの「知的好奇心」を引き出す授業が持ち味。YouTubeチャンネル「アテナチャンネル」を運営。

■著書

『はじめての中学受験 これだけは知っておきたい12の常識』(ディスカヴァー・トゥエンティーワン)『中学受験 同音異義語・対義語・類義語300』(中経出版)『文章題最強解法メソッド まるいち算』(ディスカヴァー・トゥエンティーワン)『中学受験 ゴロ合わせで覚える理科85』(KADOKAWA出版)『中学受験 ゴロ合わせで覚える社会140』(KADOKAWA出版)『ケアレスミスをなくせば中学受験の9割は成功する』(KADOKAWA出版)『合格する子がやっている 忘れない暗記術』(かんき出版)

この記事の著者

フリーライター。子供の誕生をきっかけに、わが子の成長に合わせ、ベビー雑誌、育児・教育雑誌、塾専門誌で取材執筆。6年前に子供の中学受験を経験したものの、国立大学の附属中学で併設高校が無かったため、その3年後に“高校受験生の母”、またその3年後に“大学受験生の母”も体験。中・高・大の3つの受験を知る受験ライター。