中学受験ノウハウ 学習 連載 今一度立ち止まって中学受験を考える

いつまでも算数の難問にこだわり過ぎてしまう子……、どうするべき?|今一度立ち止まって中学受験を考える

専門家・プロ
2022年8月04日 石渡真由美

中学受験で、算数は重要な科目です。そのため子ども達は、算数の勉強に多くの時間を費やすことになります。しかし、すぐには解けない難しい問題を前にしたときが悩みの種です。その問題が解けるまで子どもに粘らせるべきか、あきらめて次に進ませるべきか迷うところですよね。

学習時間は有限。難問への執着、6年生は時期で判断を

よく、中学受験は「算数の成績で決まる」と言われます。たしかに中学受験で算数は重要な科目です。実際、塾の授業でも多くの時間をかけて指導しています。しかし、ひとつ忘れてはならないのは、中学入試の合否は4教科の総合点で決まるということです。算数が得意なほうが、有利になることは事実ですが、バランスは無視できないということです。ですから、算数「だけ」に執着するのはおすすめしません。

算数の難しい問題に向かって粘り強く考える姿勢自体は、とても素晴らしいことだと思います。しかし、中学受験には入試というゴールがあり、学習時間は有限です。そこで、ひとつの目安として6年生の9月を区切りに、勉強の取り組み方を変えていくことをおすすめします。

6年生の8月までは、難しい問題に粘り強く取り組んでみましょう。頭が良くなるのは、問題を解いたときではなく、問題が解けずにうんうんと唸っているときと言われています。成績が良い子が難問に執着するのは、むしろ良い傾向だと私は思います。もちろん、「まったくわからない……」という場合、話は別です。しかし、「あと少し時間をかければ、なんとか解けそうだ」、「別のやり方でやってみたら解けるかもしれない」など、もう少し頑張れば解けるかもしれないという予感や感触があれば、たとえ時間はかかってもぜひ最後まで挑戦してほしいと思います。

けれども入試を視野にいれると、算数の難問にこだわるスタイルをずっと続けているわけにはいきません。6年生の9月以降は、難問に時間をかけることはある程度見切りをつけ、効率を重視して全体のバランスを整える勉強に切り替えましょう。そうやって4教科の総合点を上げていくほうが、合格には近道となります。このように時期を分けて考えることが、ひとつの判断基準です。

ただ時間を潰してしまっているだけの場合も

上記のほかに、もうひとつの判断基準がありますが、それはお子さんの成績の状況によります。先ほど、「難問に執着するのは良いこと」とお伝えしましたが、それは成績の良い子に限った話です。というのも、難問を解くための学力がまだ身についていないのに、いくら唸っても答えは出てこないからです。

お子さんが長い時間机に向かっていると、親としては「よく頑張っているよなぁ」と思うかもしれません。しかし、成績が上がらない子の多くは、ただ時間をつぶしてしまっているだけの場合があります。考えているように見えたとしても、実際は思考が止まってしまっている。そういった子も少なくありません。このような学習スタイルを続けていると、時間ばかりが過ぎてしまい、成績もなかなか伸びないでしょう。

ですから、学力がまだ不十分なお子さんの場合が難しい問題に取り組む場合は、時間制限を設けることが大事です。時間制限を設けた学習には、音の出るキッチンタイマーを使うのがおすすめです。たとえば30分算数の難問を前に唸っているようであれば、10分〜15分を制限時間に設定して、時間を意識して取り組ませることをおすすめします。設定した時間内に解けなかったら、考えるのは一旦ストップして、思い切って解説や解答を見せてしまいましょう。そのうえでわからない箇所があれば、塾の先生に積極的に質問した方が断然効率よく学習できます。

ただし、ここでも注意してほしい点があります。お子さんは解説・解答を見たり、先生に教えてもらったりすると、その瞬間は「ああ、そういうことか!」と、まるで理解できたような感覚になるのです。でも、それだけでは本当に理解できたかどうかは、わからないことが多いですし、定着もしにくかったりします。

ですから、塾の先生に質問をしたのであれば、そのときに「どのように教えてもらったか」や、「それをちゃんと自分の口で説明できるか」といったことを、親御さんが詰問にならないように、お子さんに尋ねることが大切です。そうやって、教わったことを思い出したり、家で誰かに話したりするのが効果的です。

そして教わったあと3日後くらいに、同じ問題や数値替えの類題、あるいは少し質問の仕方の違う問題などをもう一度解いてみます。ここで再現できれば、理解できたと判断してよいでしょう。これは以前できなかったものが、できるようになった体験ですから、自己効力感が高まり、さらなる意欲につながるはずです。このときに親御さんが、お子さんの一連の頑張りを肯定できると、さらに効果的でしょう。

ただし上記のような手順を踏んでみても、お子さんが理解できない場合はあります。その場合はその問題を解く前段階の、基礎学力の不足が考えられます。そういった場合は、塾の先生と相談し、まずは基礎学力を身につけることに注力すべきでしょう。

思考力重視か、処理速度重視か。志望校の入試問題は要確認

もうひとつ注意点があります。

多くの中学受験塾では、どのクラスであっても、同じテキストを使って授業を進めていきます。建前はともかく、大概の塾にとって重要なのは、難関校の合格実績です。そのため塾のテキストは、成績優秀な子を伸ばし、難関校に送り出すための高度な構成になっています。しかし、その塾に通う子がみな難関校を目指すわけではありません。また、目指したとしても、学力が届かない子がたくさんいます。ですから、テキストに載っているからといって、難しい内容の勉強に執着するよりも、志望校のレベルに合わせた受験勉強をするほうが賢明な場合があります。

また、もし難関校を目指すとした場合も、志望校によって入試傾向は大きく異なるため注意が必要です。たとえば、男子最難関校のひとつ武蔵中の22年算数入試問題は、大問4つ、小問10問を50分で解く構成です。単純に計算すると、1つの問題に5分ほどの時間をかけるということです。このような問題構成から、ひとつの問題に対してじっくりと考える、思考力を重視した入試だとわかります。

一方、女子最難関校のひとつ女子学院中の22年算数入試問題は、大問6つ、小問は15問ほどで解答欄は30以上あります。これを40分で解く構成です。こちらは1問につき1分半~2分半程度のスピードで解かなければ、十分に解き切ることができません。こうした問題構成から、処理能力を重視した入試であることがわかってきます。このように学校によって入試の内容は異なります。

ですから、志望校の入試問題に照準を併せて、要領よく解くのか、じっくりと考えて解くのか、どちらにウエイトを置くべきか見定めることも大切です。もちろん、親御さんだけでは判断が難しいことも多いですから、塾の先生と連携しながら、お子さんの学習をサポートしてほしいと思います。

 

最後に私から親御さんにぜひとも伝えたいことがあります。

中学受験の目標が志望校に合格することであるならば、私は、志望校はできるだけ早めに、そしてできるだけ幅広い偏差値帯で、見定めておいた方がよいと考えます。しかし、多くの親御さんの実態は、「受験をさせるなら、できるだけ偏差値の高い学校に入れたい」、「今はまだ実力がないけれど、成績が上がったら難関校に入れたい」など、テストの点数や偏差値に振り回されて学校を選んでいます。「うちの子にあった学校はどこか」、「わが子が伸びそうな学校がどこか」という極めて大切な視点が抜けてしまっているように感じるのです。

その結果、塾の言われるままに受験勉強を進め、手に負えないような難問を前に、ただ時間を過ごしているだけの子を増やしてしまっていたりします。親御さんはそういったお子さんの様子を見て、さらに焦ってしまうのです。「早い段階から志望校を決めてしまうと、子どもの可能性が狭まる」という見方も確かにありますが、お子さんの現状を無視して、最終的に強気な受験になってしまう事態は避けたほうがよいと思います。子どもの勉強がうまくいっていないときこそ、親御さんは一時停止して、冷静に判断してほしいと思います。


これまでの記事はこちら『今一度立ち止まって中学受験を考える

※記事の内容は執筆時点のものです

宮本毅
宮本毅 専門家・プロ

1969年東京生まれ。武蔵中学・高等学校、一橋大学社会学部社会問題政策過程卒業。大学卒業後、テレビ番組制作会社を経て、首都圏の大手進学塾に転職。小学部および中学部で最上位クラスを担当し、多数のトップ中学・高校に卒業生を送り込む。2006年に独立し、東京・吉祥寺に中学受験専門の「アテナ進学ゼミ」を設立。科目間にある垣根は取り払うべきという信念のもと、たった一人で算数・国語・理科・社会の全科目を指導している。また「すべての子どもたちに自発学習を!」をテーマに、月一回の公開講座を開催し、過去3年間でのべ2000名近くを動員する。若い頃からの変わらぬ熱血指導で、生徒たちの「知的好奇心」を引き出す授業が持ち味。YouTubeチャンネル「アテナチャンネル」を運営。

■著書

『はじめての中学受験 これだけは知っておきたい12の常識』(ディスカヴァー・トゥエンティーワン)『中学受験 同音異義語・対義語・類義語300』(中経出版)『文章題最強解法メソッド まるいち算』(ディスカヴァー・トゥエンティーワン)『中学受験 ゴロ合わせで覚える理科85』(KADOKAWA出版)『中学受験 ゴロ合わせで覚える社会140』(KADOKAWA出版)『ケアレスミスをなくせば中学受験の9割は成功する』(KADOKAWA出版)『合格する子がやっている 忘れない暗記術』(かんき出版)

この記事の著者

フリーライター。子供の誕生をきっかけに、わが子の成長に合わせ、ベビー雑誌、育児・教育雑誌、塾専門誌で取材執筆。6年前に子供の中学受験を経験したものの、国立大学の附属中学で併設高校が無かったため、その3年後に“高校受験生の母”、またその3年後に“大学受験生の母”も体験。中・高・大の3つの受験を知る受験ライター。